「うーん誰だろ…」
私の大事な大事な初期刀が持ち帰ってきた、今にも折れそうなほどに傷ついた刀剣をまじまじと眺める。
しかし一切わからない。
調べようにも、刀剣男士の本体である刀の一覧が載っている本は、一度ざっと眺めただけで押し入れの中に押し込んでしまって現在行方不明だ。
山姥切国広の刀であれば数多の刀が積み重なった中に埋もれていたとしても見つけることができるだろうが。
私にとって刀とは『山姥切国広』と『それ以外の刀』という大雑把な分類しか持たない。
元は美しい鞘や刃紋も血と泥にまみれところどころ刃こぼれしている。
じっと眺めるていると、ごく微弱ながら刀剣男士の魂が宿っているのが感じ取れた。
「ぎりぎりだけど、生きてる…?」
「ああ。おそらく、破壊されたと思い込んでそのまま仲間に置いてかれたんじゃないか」
「主との契約も切れてるみたいだねえ」
これだけの傷を修復するとなると、大量の資材と霊力を持っていかれるんじゃないかなとも思ったが私の大事な山姥切からの頼みだ。
快く引き受けよう。
「ま、誰かなんて本人から聞けばいいことか」
妖精さんが提示しただけの資材を準備し、傷ついた刀剣に霊力を注いで修復していく。
有り余っている手伝い札を使えばあっという間に刃こぼれが消えて美しい姿を取り戻していった。
手入れをしたら次はこの刀に宿っている御霊を顕現する。
「うわあ呼出すの久し振りすぎ。感覚完全に忘れてるんだけど」
なにせ顕現なんて初期刀の山姥切以来だ。
できるかなと少し不安になったが、まあいいかと思いなおす。
できなければ山姥切との平穏な日々がまた続くだけのことだ。
山姥切に顔を向けると、私が不安に思っていると勘違いしたのか安心させるように柔らかく私に微笑んだ。
「あんたならできる」
そうだね。山姥切が言うなら私はできる!
おいでませ刀剣男士!
適当に念じてみると、どこからともなく桜の花びらが咲いては舞い上がる。
桜吹雪が去った後に、いつの間にか青年が目を瞬かせ立ち竦んでいた。
青年を一目見ての印象は。
まっ白。
「ここ、は…」
髪の毛から着物に至るまで全身白で埋め尽くされた、美少女と見間違えるほどに整った顔立ちの美しい男。
ま、いくら綺麗でも一番はうちの山姥切だけど。
兎に角これは判りやすい。
たまに覗く審神者専用掲示板、通称さにちゃんで聞いたことのある特徴と見事に合致する。
「こんばんは。あなたは鶴丸国永で合ってる?」
「……!」
白い彼は私を見て身構えた。鞘に手を当てていつでも抜刀できる状態だ。
こちらを睨み付ける視線といい、明らかに友好的とは言えない態度だ。
「私は見ての通りの審神者よ」
これはめんどくさいもん拾っちゃったかなあ。顔には出さずに呟く。
山姥が警戒してくれてるだろうから、向こうが切りかかってきてもなんとかなるだろう。
「あなたは過去の時代で刀剣のまま転がっていたところを、遠征に出ていたうちの山姥切が見つけた。
そして彼が持ち帰ったあなたを主の私が手入れをした」
「……」
「で、どうする」
「……」
「あなたが本丸のIDを覚えているなら、元の場所に返せるよ。
覚えてなくとも戻りたいのなら政府に連絡する。時間がかかるけど見つかると思う。
あなたは確かレアだから中々入手しずらい。喜んで元の場所に受け入れられると思うよ」
「…!」
「その顔は覚えてるけど戻りたくないってことかな」
彼は意外と表情豊かなようだ。
戻れると聞いて、一番初めに出た感情が喜びではなく恐怖なのがすぐに見て取れた。
「それなら私を主とすることになる。人間にこれ以上従うのが嫌なら刀解してもいい」
「いや、刀解されても、本霊に…戻れる気がしない」
やっとまともな返事が返ってきた。
刀解や連結をしてもその分霊は本霊の元へと還るだけで、人間の死とは違うものだと聞いていたので不思議に思う。
首をかしげる私に山姥切が解説してくれた。
「恐らく、何かが原因で本霊から変質しすぎてしまったのだろう。そうなると本霊が分霊だと認識できずに弾かれてしまう場合がある」
「そういうこともあるの」
「ああ」
折れかけのまま放置された状況、戻りたくないという意志表示、そして本質からかけ離れてしまうほどの『何か』…。
「ブ」で始まって「る」で終わる単語の疑いが大きくなるにつれ、益々めんどくさいのを拾ったなあと思う。
仕方がないので結論を先延ばしにすることにした。
「別に今決めなくてもいい。先が決まるまで山姥切の手伝いをしてくれない?
うまくいけば本霊に戻れるくらいにまで落ち着くかもしれない。…戻らないかもしれないけど」
「おい」
「希望を持たせすぎるのもよくないよ。私マトモな主じゃないから正しい方向へ導くなんてこともできない」
「…」
苦い顔をしている山姥切は私の言葉を否定しようとしているが、いまいち反論の言葉が見つからないらしい。
「主と呼びたくないなら審神者と呼んで。あなたは私に名乗らなくてもいい。
刀剣男士との契約は、刀剣男士が名を審神者に名乗ることで完全に結ばれるのは知っているよね。
あなたと私の間には、霊力供給のための仮の契約を結んではいるけれど、手入れ時にこちらが一方的につないだものだから、あなたが切ろうと思えば簡単に切れるよ」
私と鶴丸国永との間に繋がれた、物理的には存在しない細い霊力の糸を摘まんでみる。
私から別に伸びた糸は山姥切とも繋がっているけど、それはもっと太く、頑丈な見た目をしている。
「これ、なんとなくわかるでしょ。試しに切ってみて」
言われるままに彼が刀を抜き、そっと刃に糸を当てる。
それだけで頼りない糸はぷちん、と切れてしまった。同時に鶴丸国永に供給していた霊力の流れが停止したのを感じる。
鶴丸国永との契約が切断されたということだ。
「ね、切れたでしょ」
「…こいつは驚いた」
このまま放っておくと鶴丸国永は刀剣の姿に戻ってしまうので千切れた両端を指先で再び摘まむと適当に結びなおす。
あ、しまった。切れたままにしておいたら良かったのか。
一瞬後悔したが気にしないことにした。
「これくらいの繋がりだから、楽に考えて。それじゃ、暫くよろしく。わからないことがあったらそこの山姥切に聞いて。私よりずっと頼りになるから」
「嘘を吐くな、山姥切国広だ。主の近侍を勤めている」
「…………」
鶴丸国永は山姥切の挨拶に返事をしない。
無視をしている、というわけでもなくただ驚いた顔で山姥切を見つめていた。
「どうした?」
「いや、……ああ、よろしく」