いちばんはじめはいちのみや。
にはにっこうのとうしょうぐう。
さんはさくらのそうごろう。
しはしなののぜんこうじ。
いつついずものおおやしろ。
むっつむらむらちんじゅさま。
ななつなりたのふどうさま。
やつはちまんのはちまんぐう。
ここのつたかののこうぼうさん。
とおはとうきょうしょうこんしゃ。
数え歌が聞こえる。
また、夢だ、と見習いは思った。このところまったく見ていなかったから安心していたのになぜ、今になって。震えながら目を開けると、夕闇の迫る庭で子供が鞠をついていた。
これだけしんがんかけたならなみこのやまいもなおるだろう。
子供は女童姿の審神者だった。肩辺りまでの童髪に振り袖姿。まるで市松人形のようにも見える。てん、てん、と鞠をつきながら遊んでいた。
ごうごうごうとなるきしゃはたけおとなみこのべつれっしゃ。
色鮮やかな水色の鞠は、時折べちゃりと重い音を立てて地面に叩きつけられる。どこかで見たことのある水色だと気づいた見習いは、ぎくりを体を強張らせた。逃げようとするが、足は一歩も動かない。
てん。返ってきた鞠を両手で持った審神者は笑顔で見習いを振り返った。
「これもういらないからあげる!」
そう言って力いっぱい鞠を投げつけてくる。子供のどこからそんな力がと思うほどの衝撃が胸に来た。反射的に受け止めた見習いは、手の中に納まった鞠を見て自分の想像が正しかったことに絶望する。
一期一振の首だった。
審神者がまた楽しげに歌いだす。
にどとあえないきしゃのまどないてちをはくほととぎす。
歌仙兼定はいない。ならばこれはいつまで続く夢なのか。一期一振の首を持ったまま立ち竦む見習いの後ろに、ふと気配が立った。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」
自分の絶叫で目覚めた見習いは、髪を振り乱して身悶えた。許して、許して、と繰り返す。
隔離施設は自殺を防止するために鏡はおろか箪笥もない。壁は柔らかな布が敷かれ、花瓶などの心慰めるものも一切なかった。食事は豪華なものが用意されているがまるで最期の晩餐のようで味などわからない。食器は割れないようにゴム製のものが使われていた。
「いや…いやぁ…。私が悪かったわ、だから許して…っ!!」
泣き叫ぶ見習いに応える声はない。ひとしきり泣いて、窓から差し込む日差しにようやく朝が来たことを知った。窓には鉄格子が填められている。
いつまでたっても父親はおろか母親も来ない。陰陽師たちはもう少しですよと言うが、何がもう少しなのだ。まだ若くて美しいというのに死にたくない。自慢の美貌はすっかり老け込んで見る影もなかった。
見習いはあれ以来のの習慣で首を撫でた。大丈夫、ちゃんと付いている。生きている。血が流れてもいない。ここに来たばかりの頃は血が垂れて胸元が血塗れになっていたが、それはもうなくなった。大丈夫。もう少しだ。
ふらふらとした足取りで見習いが窓辺に寄った。鏡はないが、ガラスの反射でうっすらと確認できる。窶れて疲れ切った顔だった。
ほっと息を吐く。
ガラス越しに、歌仙兼定が写っていた。
見習いの体が凍り付く。真後ろだ。なぜ。いつのまに。けれども気配は感じない。体温すらも感じ取れそうなほどの近さだというのに呼吸さえも聞こえてこなかった。夢を思い出す。審神者しかいないと思っていたが。
後ろにいたのだ。ずっと。
目が離せない――緊張したままの見習いに歌仙兼定はガラス越し、優しげに笑いかけた。まるで恋を告げるかのような甘い声で囁く。温度を伴った、肉声だった。
今夜、あなたの首を頂きに参ります。