本丸では、縁切りの儀式が終わった審神者が戻ってきていた。
一期一振は妻である彼女の気配を感じ取れなかった。刀剣男士たちがおかえりなさいと言う声を聞いてやっとそれを知ることができた。その意味するところはひとつしかない。離縁である。
「………主…」
本当に繋がりが断たれてしまったことに、一期一振は絶望した。部屋の隅に蹲り、顔を覆って泣いている彼の元へ、歌仙兼定がやってきた。
「おやおや…無様だね」
ハッとして顔をあげた一期を見て、歌仙は満足そうに笑みを浮かべた。
「歌仙殿…っ」
「さて、覚悟はできているだろうね?」
「…っ、できております。ですがせめてもう一度、もう一度だけ主に会わせてはいただけませんか」
「会ってどうするんだい?」
「謝罪をしたいのです。許されなくともかまいません。あの方を傷つけてしまった、謝罪を」
「ずいぶん身勝手じゃないか。許されないとわかっているのなら謝罪など必要ないだろうに」
「それでも…っ。一目、お会いしたい。主をこの目に焼き付けてから逝きたいのです」
温情を訴える一期一振に、歌仙はスッと目を細めた。
「…一期一振、君は何か誤解しているんじゃないか?主導権は君にはないんだよ。ねえ、君。自分がいったい誰を妻にしたのか忘れてしまったのかい?」
歌仙の目が怒りに燃え上がる。
「主だ。僕らの、刀剣男士の主なんだよ。彼女の夫になったからといって君の立場は何ひとつとして変わらない。主が許していたから僕らも君の亭主風をまあ大目に見てやっていたがね、勘違いされては困る。大切な主を泣かせた不届きものを、僕らが許すはずがないだろう」
よくも。
よくもよくも。
「それでも…っ、私は主を愛しているのです!」
「君のことなどどうでもいい。主はね、あの夜、一瞬で君への愛が死んだそうだよ。何もかもが嘘であったのだと思ったそうだ。今まで君とつきあってきた時間のすべてがね」
よくも。僕の可愛い娘を。
「時間がもったいない。皆主の帰りを喜んで今日は宴だと言っているからね。僕も行って支度を手伝わないと」
「頼みます。歌仙殿、遠くから眺めるだけでも良いですから」
僕の娘を泣かせておいてよくもそんなふざけたことを。
「…君は自分のことばかりだね。あれがしたい、これがしたい。主と交わしたたったひとつの約束さえ守れなかった男の願いを叶えてやれるほど、僕は寛大じゃないよ」
「…………っ」
互いを愛し、慈しむことを誓います。結婚式で彼はそう約束した。幸せにいたします、と彼は彼女に言ったのだ。
「せめて雅に、なんて言ってやるものか。一期一振、さあ……」
首を、差し出せ。
薄暗がりの中で、刃が閃いた。