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同僚が眉を寄せて言った。
「ランプレヒト。グレッシェルは他のギーベの町と違う。成り立ちを知らないのか?」
「ガブリエーレ様の輿入れが切っ掛けで造られた街だろう?」
他に何かあるのだろうか?
レーベレヒトが少し困った顔で言った。
「エーレンフェストそっくりの街にされた理由だ。ヴィルフリート様に仕える其方に、エルヴィーラ様は知らせなかったのかも知れないな。ヴェローニカ様の下に行くのに、余計な先入観を持たせない方が良いと思ったのだろう。」
同僚が溜息交じりに告げた。
「グレッシェルはガブリエーレ様が輿入れされた時、その願い通りに作られた町だ。規模は小さいが領主の街エーレンフェストそっくりに、更にかつてのアイゼンライヒの礎があった場所に造られた。ガブリエーレ様の意図は分かるだろう?」
私は思ってもみなかったことに気づいた。
「まさか、本来のエーレンフェストの領主夫妻は・・、領主夫人はガブリエーレ様だと・・?」
レーベレヒトとアドリアンは揃って頷いた。
「次期アウブと有力視されていた夫に、大領地の領主候補生の自分が嫁ぐのだ。領主夫人になれないどころか、ギーベ夫人に落されるなど、思ってもいなかっただろうな。当時のアウブ・エーレンフェストに対する最大限の嫌がらせをしたとしても不思議ではない。」
「あれだけの街を造るには、相当の魔力が必要だったはずだ。ここ数年の、街の一部のエントヴィッケルンでさえ、領主一族は大変な思いをしている。当時の領主一族の負担はどれ程であったろうな。」
「領主の街そっくりの街をかつて礎のあった場所に、領主一族の魔力を使って造らせる。むろん上級貴族に落とされたガブリエーレ様が協力するはずもない。嫌がらせと思われても仕方がないな。」
「当時、アウブに多大な負担をかけたガブリエーレ様を、貴族達は良く思っていなかったと聞いている。」
二人の話を茫然と聞いていた私は、呟いた。
「なぜ、当時のアウブはガブリエーレ様を、ギーベ夫人に落としたのだろう・・?」
同僚が片眉を上げた。
「元々初代グレッシェル伯爵が次期アウブと目されていたのは、本人の資質もだが、夫人の存在が大きかったからだぞ。才色兼備で指導力もあり、領主夫人として申し分ない女性だったそうだ。ライゼガング伯爵の自慢の娘だったらしいな。」
「その伯母上を第二夫人に落としたのだ。祖父の怒りは相当だったようだ。」
レーベレヒトが苦笑いした。
「ガブリエーレ様は、夫の次期アウブとしての価値を半減させた訳だな。因みにエルヴィーラ様はその賢婦人の再来と言われている。知ってるか?」
同僚が揶揄うように言った。
母がそのような事を自分から言う訳がない。私は苦笑した。
「そういえば、ガブリエーレ様をギーベ夫人に落として、アーレンスバッハは怒らなかったのでしょうかね?」
同僚はレーベレヒトに尋ねた。
「怒らなかったのだろうな。そもそも魔力が少なかったから当時底辺領地だったエーレンフェストへ嫁いできたのだ。領主夫人としての教育は受けていなかっただろう。だからこそ、ヴェローニカ様の時は口を出してきたわけだが。」
「教育していなかった娘の事は仕方がないが、孫娘はエーレンフェストの責任で教育されるはずだ、領主夫人にしろ、ということですか。」
「そうだろうな。」
二人は頷き合っている。
「まあ、ともかく、ヴィルフリート様がグレッシェルと同じような街を造りたいと言えば、ガブリエーレ様と重ねて見る者は多いだろう。ヴィルフリート様の為にはならないと思うぞ。」
同僚が話を戻した。
私ははっとした。なんとかヴィルフリート様に知らせなければ・・、だがどうやって知らせる?私の言葉に耳を傾けて下さるとは思えない。ましてヴィルフリート様の前で、ヴェローニカ様やガブリエーレ様の批判は禁句なのだ。同僚も嫌がるだろう。
「レーベレヒト、フロレンツィア様にグレッシェルの街を参考にしないよう、ヴィルフリート様に言って頂くことはできないか?ヴィルフリート様の立場が悪くなるのは、フロレンツィア様も避けたいはずだ。」
レーベレヒトは、嫌そうな顔をしたが頷いた。
「まあ、お話するだけしてみよう。」
私はほっとして息を吐いた。