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 「もっとも、街一つ造るなど、今のエーレンフェストには負担が大きすぎる。ヴィルフリート様が希望を出したとしても却下されると思うがな。」
 レーベレヒトは肩を竦めた。

 「ヴィルフリート様がグレッシェルのような街を、と口にされること自体が問題なのです。貴族達に知られれば、またしても評判が悪化してしまう。」
 私はレーベレヒトに念を押した。レーベレヒトはフロレンツィア様の為なら骨惜しみしないが、基本的にヴィルフリート様の為には動かない。主ではないので当然ではあるが。

 「ああ、分かった。」
 レーベレヒトは仕方なさそうに、了承した。

 同僚は別のことを疑問に思ったようだ。
 「街一つ造るのは無理なのですか?アレキサンドリアから、かなりの量の魔石や金粉が送られて来ると聞きましたが?」

 ローゼマインがギーベ・ゲルラッハの館を壊したり、側近を移動させた賠償や返礼として、アレキサンドリアから少なくない魔力が融通されることになっている。向こうの余力次第なので、分割してではあるが。街一つ造るには足りないのだろうか。 

 「全て合わせれば、グレッシェルの街程度になるかもしれないが、魔石を扱う領主一族の負担もあるし、何より全てをヴィルフリート様の為に使えば、それこそ猛反発を受けるぞ。」
 レーベレヒトは、いいのか?と片眉を上げて答えた。

 「それもそうですね。」
 同僚は直ぐに納得した。単に譲られる魔力量を知りたかっただけで、ヴィルフリート様の今後に関心がある訳ではないようだ。同僚の主への関心の無さに溜息が出そうになった。


 そんな同僚と私を見て、レーベレヒトはもの言いたげな顔をした。 
 「ヴィルフリート様はギーベになった時の拠点のことを計画していないのか?街造りはしないとしても、ギーベの館は必要だろう?」

 新たな場所に新たな館を建てるのか、ギーベ・ゲルラッハの館を直して使うのか、どちらにしてもエントヴィッケルンが必要で、領主候補生であるヴィルフリート様が行うにしても、文官の設計や、金粉量の計算や申請が必要だろうとレーベレヒトは言った。
  
 「その内ヴィルフリート様が指示が出されるでしょう。まだ一年以上先の事ですから。」
 まだ時間はあると私は言ったが、レーベレヒトに呆れた表情をされた。

 「其方ら呑気すぎるぞ。まあ、側近の其方がそう思うなら何も言わないが。」

 私はその言葉に不安を覚えた。レーベレヒトは直ぐに準備を始めるべきだと言っているのだ。

 同僚に視線を移した。

 「アドリアンはどう思う?」

 我関せずとばかりに食後のお茶を飲んでいた同僚は、カップを置くと、逆に私に尋ねた。

 「ランプレヒトは、結婚するとき、輿入れする夫人の為に新居を整えただろう?その時はどうだった?」

 まるで関係なさそうな私の結婚の時の事を聞かれ、戸惑った。だが、言われた通り、当時のことを思い浮かべた。

 アウレーリアとの結婚は、アーレンスバッハのごり押しで急遽決まったため、領主会議から夏の星結びまでと期間が短かった。領地間の緊張を孕んだ不穏な空気の中での結婚だったが、私個人は好きな女性と結婚できることが嬉しかった。
 だから、アウレーリアには歓迎していることを解って欲しくて、彼女が居心地良く感じるように、新居を整えるのには力を入れた。母上も協力してくれて、家具や内装の手配、側仕えや料理人の人材探しと、期間が短い割に悪くない出来だったと思う。
 だが、任務の合間を縫っての手配は、かなり忙しかったし、特急料金が掛かったため、私の蓄えはかなり削られた。むろん後悔はしていないが、もっと時間が欲しかったのは事実だ。

 そう思い出して、私はハッと顔を上げた。
 「そうだ。領主会議で急遽決まった結婚で、星結びまでに時間が無かったから、かなり忙しかったのだ。そうか・・、ギーベに着任するヴィルフリート様は、その比ではないのか。」

 ヴィルフリート様がギーベに着任するときは、大所帯での移動になるはずだ。実家の離れを用意するだけだった自分でさえ、楽では無かった。統治者となるヴィルフリート様は、土地や住民を掌握するため、することが山積みになるはずだ。歓迎の宴も必要だろうし、面会や視察などで忙殺されるに違いない。新居の準備などは、むしろ些末な部類に入るかもしれない。

 私は内心で頭を抱えた。
 「レーベレヒトの言う通りですね。直ぐに動く必要がある。新しい土地でヴィルフリート様を迎える準備をしなければ。戻られたら、直ぐに進言します。」

 だが同僚から、冷めた言葉が飛んできた。
 「やめておけ。」

 私は驚いて同僚を見た。アドリアンは肩を竦めて言った。
 「進言すれば、言い出した者がその任を命じられるぞ?ライゼガング系の其方が、ゲルラッハ周辺の土地で、上手くやれるのか?先行者の役割は重要だぞ。其方ではヴィルフリート様の印象を悪くしかねない。かと言って他の者を推薦すれば、押し付けたと思われるしな。」
 
 私はぐっと押し黙った。確かにゲルラッハやヴィルトルではよく思われないだろう。

 「成程、それもあってランプレヒトがギーベの土地で上手くやっていけないと思うのか。確かにな。領主の傍系でアウブ・アレキサンドリアの実兄だ。騎士団長にしない訳に行かないだろうが、土地の貴族達は面白くないだろう。」

 そう簡単に従うはずがない、ランプレヒトも苦労するだろうがヴィルフリート様も困るだろうとレーベレヒトも頷いている。

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