返答がないコナンに、優作は軽く息をついた。


『それに、あの子が巻き込まれると分かっていて、お前が黙って見過ごすとも思えん。何かあれば、お前は皐を守るだろう?』


 父の問いかけに目を見開いた後、コナンは不敵に笑う。


『ったりめーだ。父さんに言われなくてもそうするよ』


 その笑いには多少の無理があったが、先程よりは調子を取り戻した様子だった。


『なら、お前に任せたぞ。ただし、皐を困らせる事だけはするなよ? 色々と、思い悩んでいるようだからな』

『ああ。分かってる』


 父に丸め込まれたような気はしたが、あんな思いをするくらいなら、自分が彼女を守ればいいと結論を出し、そこで通話が終わった。





「とにかく……」


 長い回想から、意識を灰原に向けるコナン。


「なるべく私も気をつけるけど……あんな得体の知れない男と一つ屋根の下。早く何かしらの対策をたてないと、あの男が皐さんに何をするか分からないわよ」

「何もしねぇだろ……」


 諸事情から沖矢の正体を明かせないため、それほど強く言えないコナンは、呆れたような視線を灰原に向ける。


「持病の関係で皐さんは労働や外出が制限されているのよ? 普通の家より広いと言っても、長時間の閉鎖的空間の中で共同生活を送る男女。彼が皐さんに何かする可能性は十分にあり得るわ」

「可能性って……例えばどんな?」


 コナンに尋ねられ、灰原はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「そうね……」





 薄暗い寝室の中。皐は身を震わせていた。

 いつもはきっちりと着こなしている服装は乱れ、着崩れた洋服の隙間からは白く細い肩と、飾り気の少ない下着が覗いている。


『お、沖矢さ……』


 押し倒されたベッドの上、両手で胸元を必死に隠す皐は、怯えた目で沖矢を見ていた。

 上にいる沖矢の手が、自分に向かって伸ばされてきたのを視界の端に見つける。すると皐は、きつく目を閉じて身を縮まらせた。


『怖がらなくてもいいんですよ、皐さん』


 震えている彼女の耳元で低い声を小さく響かせれば、その声に反応して華奢な肩が大きく揺れた。


『や、やめ……っ』


 その声から逃れるように、顔の向きを変えた皐。しかし同時に、白く細い首が沖矢の前に現れる。

 動きを予想していたと言わんばかりに、沖矢は見えた首筋に軽く口づけた。


『貴女がお望みなら、すぐにでも手を引きましょう』


 湿った感覚が首筋をなぞる。

 反射的に皐が沖矢の肩を押したが、押し切った瞬間、その両手は大きな掌に捕まり、白いシーツへ押し付けられる。


『……っ』


 服を掴んでいた手がなくなり、無防備になった皐の身体。

 沖矢は掌を滑らせ、彼女の腹部に手をのせた。皐よりも太い指先が、服の中に潜り込み、ゆっくりとしたペースで胸元へと向かう。


『代わりに、あの子達が何者なのか、僕に教えてくれませんか?』


 再度、低い声が皐の耳元で囁かれ、彼女は身体を震わせるのだった。





「……とかかしら?」

「バーロォ!! あの人がそんな事するわけねぇだろ!! ってか、俺がさせねぇよ!!」


 灰原の話が終わると同時に、顔を真っ赤に染めたコナンが、あらん限りの力で叫ぶ。


「あらそう? 江戸川くんがそこまで言うなら信じてあげてもいいけど……」


 ズイッと灰原の顔がコナンに近づき、同時にコナンの顔から赤みが引いた。


「皐さんに何かあったら、ただじゃおかないから」

「お、おぉ……」


 地を這うような声で言った灰原を見ながら、コナンは小さく返事をした。





 その頃。工藤邸では、歯を磨こうとしていた沖矢が眠そうにしている皐の隣で軽くクシャミをしていた。


「風邪、ですか……?」

「いえ、もしかしたら誰かが僕の噂でもしているのかもしれませんね」


子どもは子どもで苦労する
(今時の子どもは大人よりも悩みが多い)

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