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長い沈黙が二人の間を流れた。
『私とて、そのリスクを考えていないわけではない』
そして、その沈黙を破ったのは優作だった。
『なら、どうして!!』
無論、その答えに納得のいかないコナンは、叫ぶように問う。
『なら聞くが、皐が何も考えずにあの家に残りたいと言っていると?』
『それは……』
問いを問いで返され、コナンは声を詰まらせる。
『あの子は聡明で、思慮深い。何かしらの理由がなければ、お前や有希子の反対を押し切ってまで、あの家に残ろうとは思わないはずだ』
そうなのだ。優作との血縁関係はないが、長年、彼と家族をやっているだけあって、皐にもそれなりの洞察力や観察力が備わっている。
彼女自身がそれに気がついているかは分からない。だが、幼い頃から皐の傍に父はいた。
そうであれば、必然的に推理のコツは勿論、観察の仕方から、残された証拠の見方など、およそ探偵に必要なスキルを知らず知らずの内に優作から伝授されている事になる。
何せ口を開けば推理の話がポンポン出てくる男なのだ。二十年も共に生活をしていて、そのスキルを身に着けるなと言う方がありえない話だろう。
無論、優作やコナンに比べれば、その力は格段に落ちる。しかし、少なくとも普通の人間よりは、能力的に上である事に間違いない。
『だったら、あの人は何のために……』
そんな彼女が今、自分が立たされている位置を把握できていないわけがない。確かに情報量は少ないものの、コナンや有希子が何を意図して言っているのか、皐は分かっているはずだ。
そうでなければ、コナンがあの時いった“新一兄ちゃん”の言葉に、表情を隠して迷う素振りを見せたりはしなかったはずだ。
『それは分からない。だが、あの子はあの子なりに、その理由を我々に伝えようとしている。我々はそれをヒントに、彼女が何を伝えたいのかを推理していくしかない。だが、事を急いて無理強いはさせられん。お前にとっては、少々もどかしい事ではあると思うが……あんな思いをするのは、一度で十分だろう?』
父が言う事に、コナンは何も言えなかった。それは確かな事であって、その通りだったから。
自分でも探究心が強い事は認めている。疑問に思った事は何でも尋ねるし、殺人犯を割り出すために、わざと痛い所をついて、その反応を観察する事もあった。だが、それを皐には出来なかった。
コナンがまだ、新一だった頃。
今よりもっと、未熟だった頃。
彼は皐の抱えている謎の真相を突き止めるため、一度だけ問うた事があった。
――なぁ、どうして一人暮らしする必要があるんだ?
両親がロスへ拠点を移す際、工藤邸を出て行こうとした彼女を問い詰めた時。
皐は新一に向き合い、遠回りをしながらも、その答えを出そうとしてくれた。襲いくる眠りに抗いながらも、ゆっくりと、慎重に話をしてくれた。
しかし――
――新ちゃん! お願い、もうやめて!! もういいから!
――新一!! 何をしているんだ!!
その時の事を思い出したコナンは、顔を青くさせた。
あの時、あの場にいた母が悲鳴をあげ、それを聞いて父が駆けつけてくれなかったらと考えると、背筋が凍る。
皐は勿論、新一もどうなっていたか分からない。最悪、そのまま発狂していた可能性だってある。
いくら真相を知りたいと思っても、あんな思いはもう二度としたくない。
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