眠り姫は唐突に


Case1 工藤親子の場合(原作前)

 新一と優作が書斎で本を読んでいると、小さなノックの音が響く。


「新一くん、優兄、夕ご飯できたよ」


 開いた扉から皐が顔を出すと、優作だけが顔を上げた。


「もう、そんな時間か……」

「うん。有希姉が来る前にダイニングの方に行ってね」

「ああ」


 優作が本をパタリと閉じたのを確認した後、皐はホームズの本を夢中になって読んでいる新一の方へ向かう。


「新一くん」

「……」

「新一くーん」

「……」

「し・ん・い・ちくーん」


 皐が何度、呼びかけても答える事がない新一。

 どうやら、かなり集中しているみたいだ。

 そんな彼の姿を見た皐は、一つ溜息をついた後で彼の座っている椅子の後ろに回り、彼の両目を両手で隠した。


「だーれだ」

「わっ!?」


 突然、視界が閉ざされた事で新一は驚き、少しだけ身体を跳びあがらせる。


「い、いきなり何だよ皐さん!!」

「何度も呼んだけど、反応がなかったから……」


 ゆっくりとした動作で新一から離れると、皐は小さく笑った。

 頬を赤く染めて怒った素振りを見せる新一は、顔立ちが幼い分、可愛らしい。

 クスリと皐が笑っていると、その後ろにいた優作が何かに気づいた様子で立ち上がり、本を片付け始める。


「それで?」

「うん?」


 新一に尋ねられ、コテンッと首をゆっくり傾ける皐。


「いや、うん? じゃなくて、どうしたんだよ」

「うん。有希姉が夕ご飯できたから、新一くん達を呼んできてって頼まれたの」


 今も顔を赤らめている新一は、皐から視線を逸らしながら彼女に聞いた。


「ああ。わかっ……」


 夕飯の時間だと告げられて本を閉じ、新一が立ち上がろうとした瞬間、背後にいた皐が前のめりに倒れてくる。


「どわっ!?」


 とっさに受け止めたものの、その体勢は苦しく、少しでも動けば二人揃って倒れ込んでしまいそうだった。


「新一。もういいぞ」

「えっ?」


 小刻みに震えながら両腕だけで支えていた新一だが、優作の声が上から降ってくると同時に、支えていた重みがなくなり、椅子から転げ落ちそうになる。


「っ!!」


 慌てて体勢を整えれば、眠った皐を抱き上げている父の姿があった。


「とっさの判断のわりには、上手く支えられていたな。だが、しっかりと皐を観察していれば、こんな体勢にはならなかったはずだぞ?」


 皐を抱える優作は、扉に近づきながら新一に言った後、顔だけ振り返り――


「まだまだ、青いな」


 小さく笑ってから部屋を出て行った。


「……青くて悪かったな」


 誰もいなくなった部屋の中。

 拗ねたような表情で言った新一の言葉が小さく響いて消えていった。


Case1
(父親に全て持っていかれた息子)

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