眠り姫は唐突に
Case2 安室透と沖矢昴の場合(緋色編の後)
※ 長編小説とシリーズのネタバレあり
沖矢と共に買い物へと来ていた皐は、デパートの出入り口で沖矢を待っていた。
――沖矢さん。遅いなぁ……
眠気が強くなり、アクビを噛み殺しながら周りを見ていると、急に見知った男が皐の視界に入って来た。
「こんにちは、皐さん」
「っ!? こ、こんにちは。安室、さん」
張り付けたような安室の笑みに、緊張し始める皐。
「お買い物ですか?」
「はい、そうなんです……」
先日、安室が工藤邸まで乗り込んできた時、皐は優作と共に沖矢昴と赤井秀一が別人だという芝居をした。
しかし、彼はまだ疑っている節があるのか、鋭い視線で沖矢の事を見ている。必然、彼女である皐は、安室にとって沖矢を誘い出す格好の餌食らしい。
そのため、事ある毎に安室が絡んでくるのだが。正直な話、彼の相手はとても辛い。
しかも、今はかなり眠気が強いので、何を口走るか自分でも分からないのだ。
――沖矢さん。早く帰ってこないかな。
心の中では半泣きになりながら、皐は引きつったような笑顔を安室に見せる。
「持っている袋を見る限り、服のようですが……」
「え、ええ。着ていた服が古くなったので、何着か買い換えようかと……っ」
皐の心情など関係ないと言わんばかりに、眠気は徐々に強くなる。
安室が味方である事を知っているとは言え、それはあくまでも対組織のみ。ここに“赤井秀一”のワードが出てくれば途端に彼は豹変する。
つまり皐にとっては、ある意味で最も気の抜けない相手なのだ。
そんな男を目の前にして倒れるわけにはいかない上、彼に体調の変化を悟られるわけにもいかない。
「皐さん。大丈夫ですか?」
しかし、悲しいかな。安室の観察眼は一般のそれを大きく超えているわけで。
皐の思いとは裏腹に、彼は変化に気づいてしまう。
「いえ、ご心配には……および、ません……」
せめて沖矢が戻ってくるまでは、と思うのだが、皐の意識はどんどん遠のいていく。
目の前にいる安室がこちらに手を伸ばしているのに気がついた時、後ろから誰かに支えられた感覚があった。
その後、皐の意識はそこで途切れてしまう。
*
「彼女に何か、ご用ですか?」
眠ってしまった皐を後ろから支えるように抱いているのは、唐突に現れた沖矢だった。
「いえ、特には何もありません。ただ、彼女が一人でいたのを偶然、見かけたので声をかけただけですから」
「そうですか」
一見、爽やかな青年達が会話をしている一方で、この瞬きの間に一体いくつの見えない攻防があったのか。
意識を手放した皐の荷物を沖矢が持っている事も含め、その結果は既に出たようだ。
「それでは、僕はこれで……」
爽やかに笑いながら安室が場を離れると、沖矢は荷物と皐を抱えてデパートを出た。
*
車の助手席に眠った皐を座らせた沖矢は、不安そうな表情で眠る彼女の額に唇を寄せる。
「心配するな。大丈夫だ」
彼女の耳元でそっと囁くと、心なしか皐の表情が和らいだように見えた。
沖矢は小さく微笑み、眠る彼女の額にキスを送る。
その後、沖矢は車のエンジンをかけ、皐を起こさぬように工藤邸へと帰って行った。
Case2
(警戒される安室と間に合った沖矢)
あとがき→
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