その気持ちに答えを告げた


 ※赤井さんの捏造が激しいので、駄目だと思ったらブラウザバックしてください。


 泣きながら眠り、静かに消えようとしている皐を見てから、彼女への見かたが変わった。

 元々、普通の人よりも不自由を強いられている彼女は、あまり主張の激しい女性ではない。そこにいるだけで他人に迷惑をかけていると思っているのか、こちらが申し出れば、大抵の事は受け入れてくれる。

 良く言えば従順、悪く言えば流されやすい。けれど、意思が弱いかと問われれば、そうでもない。彼女にも譲れないモノがあるようで、身内が相手でもそこは絶対に曲げなかった。


 だからなのか、ふとした時に皐は明美と似ていると赤井は思う。

 外見的特徴は全く似ていないが――彼女には悪いが、明美と比べたら美人とは言い難い。眠気が常時あるせいか、反応は鈍い。それでも、表情が全くないわけではなく、嬉しければ笑うし、からかえば顔を少し赤くしていた。

 一つ一つの動作も、反応も、皐と明美は全く違う。けれど、明美の影と重なる。彼女の妹も皐に懐いているところを見ると、全く似ていない二人は、雰囲気が似ているのだろう。


 ゆえに、目が離せなかった。

 明美の時には傍にいられなかった。そして悲しい結末を辿った彼女は、もう手の届かない場所へ逝ってしまった。

 後悔は、きっとしたのだろう。


『愛して、いたのか』


 明美が居なくなって、初めて気がついたのだから。ただ、それよりも心に出来てしまった穴が大きすぎて、何も感じなかった気もする。

 その後は流れる時に押されるように、時の止まった彼女と、動き続ける自分は差が開くだけ。前触れもなく過去を振り返るたび、彼女から遠ざかる自分。少しずつ、少しずつ、明美との思い出が記憶の中から薄れていく。同時に、心が冷えていくような感覚があった。

 泣きながら眠り、薄れていく皐を見た時、明美を亡くした時と同じ感覚を感じた。心に大きな穴が開き、自分の感情がそこから流れ出てしまう感覚。後には何も残らず、ただ、むなしい。


――愛して、いるのか?


 消えゆく皐を目の前にして、自分に問うた。

 抜け落ちた感情は答えない。それでも、傍にいて、手が届くのなら――同じ結末を繰り返したくはなかった。


『消えるな』


 紡いだその言葉に、嘘はなかった。


 だから、皐を巻き込んだ。


 だから、皐に言い放った。


『俺の帰りを待っていてほしい』


 世界が彼女を拒絶して、神が彼女を必要としなくても。消えてしまった彼女を思い、泣く人がいる。

 遠ざかろうとする彼女の手を掴む理由は、それだけで十分だった。だから――


「皐!!」


 小さな背中が遠い。沖矢が伸ばした手は、消える事に怯え、走り去る彼女を引き止められない。


 消えてしまう。届かなくなる。その前に――


「逃しはしない」


 偽りの皮を破り、偽りの声を捨て、赤井は皐の後を追った。





 小さな足音を追い、辿り着いたのは玄関の前。

 こちらに背中を向け、震える身体が透けている。


――まだ、手は届く。


 直感的にそう思った赤井が、呼び止めようとした。


「このまま消えれば…………元に戻る……それが一番いいのかな……」


 その瞬間、泣いているような声が小さく響いた。諦めてしまった、そんな声。

 抗っていた彼女の姿が、急速に色を失くしてゆく。消える事を受け入れたから。届かない場所へ、行ってしまう。


「お前は、本気でそう思っているのか?」


 道なき道を歩む前に、呼び止めた己の声は、自分でも驚くほどに低かった。その声を聞いた彼女が身体を震わせて、怯えてしまうほどに。


「皐。こちらを見るんだ」


 優しい彼女は、血生臭い事に無縁な人で。けれど、赤井は容赦なく言葉の銃口を向けた。



 震えている。



 恐れている。



 怖がっている。



 それでもいい。

 失敗は許されない。先に進もうとする彼女を、殺してでも引き止める。それほどまでに、赤井も追い詰められていた。

 後一歩。

 彼女が前に進めば、終わってしまうのだから。

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