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セイレーン

期待するくらい、いいだろ?



夏休みの登校日、生徒達の間で交わされる近況報告で学校は盛り上がっていた。
3年生ともなればサボる人も出てきて、渚のクラスでも空席がチラホラと見える。
その件に関して、教師もそれほどうるさく言わない。
残りの休みの過ごし方だとか、受験に備えての過ごし方だとか、聞き流してもいいような話を連々と単調に話していた。
午前中で終わったこの日、三々五々に散らばる生徒の中で渚は彩子と会った。

「渚先輩!」
「彩ちゃん、インハイお疲れ様。」
「ありがとうございます。渚先輩、お昼は?」
「特に用事もないから、家に帰ってからのつもりだけど。彩ちゃんは午後から部活?」
「そうです。冬に向けての新体制ですよ!あっ、よかったらお昼一緒に食べませんか?部活が始まるまで構ってください。」
「そうね。じゃあコンビニで買ってこようかな。」
「お供します!」

ニッコリと笑った2人はお昼だけではなくスイーツなども買い込んでバスケ部の部室を陣取った。



「山王戦、すごかったね。」
「えっ!?渚先輩、広島まで来たんですか?」
「うぅん、流石にそこまではいけなかったけど。湊に頼んでビデオ撮ってもらったの。」
「ああ、ビデオですか。そっか、湊も全国出てましたもんね。」
「初戦負けだったみたいだけど。」
「いやぁ、瑞穂で1年からベンチ入りってすごいと思います。それに惜しかったんですよ、瑞穂高校。」
「ありがとう、彩ちゃんが褒めていたって湊に伝えておくね。観客席から撮ってくれたらしくて全体が見えるような引き図だったけど、それでも泣いちゃった。」

照れたように笑いながら渚が言うと、彩子は嬉しそうに身を乗り出す。
彩子もマネージャーとしての立場を超えて、山王戦に感動した一人だった。

「ですよねっ!?私、湘北のマネージャーでよかったって思いましたもんっ!!」
「楓君と桜木君が最後に手を合わせたでしょ?あそこで万感の思いが…涙が止まらなかったもん。」
「分かるっ!分かりますっ!!」
「楓君、バスケしか頭にないからね。試合に勝つためにあの楓君がパスを出したでしょ?何かもう胸が苦しくなっちゃって…」
「松島先輩もルカワのことしか頭にないっすね。」

思い出して目を潤ませる渚の後ろから、突然声がかかった。
驚いて後ろを振り向けば、宮城が苦笑しながら後ろ手で部室のドアを閉めるところだった。

「あら、リョータ。早いじゃない。」
「アヤちゃん。オレ新キャプテンだし、練習メニューを考えようと思って。この時間なら部室に誰もいないかと思って。」

相好を崩しながら彩子の隣に座る宮城に、彼女は呆れながらも微笑んで少し場所を空けてあげた。

「渚先輩、山王戦みてくれたんだって。」
「お邪魔しています、宮城君。山王戦、感動したよ。」
「どーも。」
「じゃ、彩ちゃん。私はこれで。」

バスケ部員が来たのだから、これ以上ここにいるのは気が引ける。
渚はさっと荷物を纏めると席を立った。

「え?まだお昼食べ終わってないじゃないですか!リョータ、渚先輩いてもいいでしょ?」
「モチロン!松島先輩、オレも昼一緒していいっすか?」
「ええ、宮城君さえよければ…」
「じゃあ座って下さいよ。」

ほらほらと言う雰囲気で弁当を取り出した宮城に、渚はありがとうともう一度座り直す。
そこから山王戦について話し出す宮城と彩子の話を楽しそうに聞いていた。



「そう言えば、松島先輩。さっきルカワのことばっかり言ってましたけど、2人は付き合ってるんすか?」
「え!?あっ、違うよ!違う違う!付き合ってなんかないよ。」

急に振られた話題に、渚は盛大に咽る。
苦しそうに涙目になりながらも大慌てで否定すれば、宮城は驚いたように彼女を見た。

「そんなムキになんなくても…。」
「や、ゴメンね。でも、本当に違うから。」
「それにしては仲いいっすよね?」
「ああ、それは楓君と私の妹が同い年だから。それに、楓君のお兄さんと私も同い年なの。ついでに言うと、ご近所さんの幼馴染みだからね。」
「へえ〜!」
「リョータ!渚先輩と流川は違うって前に言ったでしょ!?」
「いや〜、でもホラ!気にしてる人がいるし!」
「ああ、まあね。」
「え?」
「あっ、渚先輩は気にしなくっていいですよ!」

ニマニマと笑う宮城と彩子に、渚は首を傾げる。
そんな渚を見て2人は更に笑みを深くした。


2013.07.31. UP




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夢幻泡沫