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これを恋と呼ばずなんと呼ぶ
01
「雪峰直子です。久し振りにこちらに配属されました。分からないことだらけですが、どうぞ宜しくお願い致します。」
部長の横で静かに頭を下げた女性にパチパチと拍手が送られる。
自分の席から同じように拍手をした藤真は主任に声をかけた。
「あの人が俺達のチームに入るんですよね?」
「そう。何年か前までこの部署にいたらしいよ。ねえ?」
主任が問いかける先では、自己紹介をした彼女と同い年ぐらいの女性が頷いている。
「そうですよ。私の親友ですから、苛めないで下さいね。」
「うわっ、苛めないし。そういう偏見はよくないよ。」
主任が心外だと言わんばかりに目を丸くすれば、どうだかと肩を竦められる。
割と若い年齢層で構成されているこの部署は、こういうフランクなところがあって仕事場の雰囲気がとてもよい。
そんなやり取りを笑って見ていた藤真の横に、誰かが来る気配がした。
「…雪峰です。よろしくお願いします。」
「藤真です。こちらこそよろしく。」
「直子、おかえり。待ってたよ、よろしくね!」
「えっ、円香が目の前なの!?よかった〜、よろしく!いろいろ教えてね。」
「大丈夫よ、大して変わってないから。」
「だといいけど。」
困ったように笑った直子は主任と藤真に会釈をすると、自分の席に座る。
その時ふわりと香った爽やかな空気に、藤真の心がくすぐられた。
私の後輩はコワい。
いや、後輩と言うのは少し語弊があるかもしれない。
違う部署から現部署に配置替えされた私は、ここでは一番の新参者だ。
既に彼も一人で立派に仕事をこなしていた。
しかし前にいたことのある部署だし、今でもその頃からの同僚も何人かいる。
きゃ〜、久しぶり!
またよろしくね。
なんて挨拶をしたのはつい数か月前の話。
それに、私がこの会社に勤めて数年が経つ。
立場的に言えば彼とは同僚、けれど勤続年数と年齢から言えば私は先輩のはずだ。
見た目はとても美形な顔立ちをしたイケメン。
『美人』という言葉はきっと彼のためにあるのだろう。
声だって低音ヴォイスで腰の砕けるようなイイ声をしている。
しかし、態度がコワい。
「雪峰さん、これヨロシクお願いします。」
…ほらね?
私がどんなに困っていようが忙しかろうが、次々に仕事を回してくるの。
ホント、容赦なんてない。
「…分かりました。いつまでですか?」
「そこに書いてあるっすケド。明後日まで。資料も合わせておいてください。」
一番上に貼られたメモを指さしながら、彼は至極簡単にもう一つ仕事を増やしてくれた。
2014.01.30. UP
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夢幻泡沫