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これを恋と呼ばずなんと呼ぶ
02
やはり、一人増えるだけで仕事の捗り方が違う。
しかも直子が以前にこの部署にいたということはデマではないらしい。
仕事を割り振ってみても、藤真や主任が補助につくことなく終わらせてしまっていた。
休日は出勤をしない主義らしく、一緒に働くようになってから会社で見たことはない。
まだ互いに少ししか話したことがないせいもあって、藤真は直子のことが気になっていた。
ついつい仕事を口実に話題のきっかけを探してしまう。
そんな藤真に直子の友人である円香が釘を刺した。
「藤真君、直子はここに復帰したばかりなんだからあまり仕事を回しすぎるのもどうかと思うよ。」
「…そうですか?」
「そうよ。直子、目が回りそうって言ってたし。」
「だけど雪峰さん、期日内に終わらせてしまっていますよ?しかも…」
「しかも?」
「作られたデータとか書類とか綺麗で見やすいですし。ついつい頼んじゃうんです。」
席を外している直子の椅子を見ながら、藤真は不思議な気分になる。
仕事が早いというわけではない。
だけど期日内にはきちんと終わらせているし、まとめ方やチェックの仕方も見やすいし、任せてしまいたくなる。
それに本当の彼女は素直な性格のようだ。
どちらかと言えば周りから一歩引いているように見える直子だが、円香とはよく雑談をしている姿を見る。
藤真は隣の席なので話の内容が聞こえてしまうのだが…。
新商品のお菓子がどうだの、昨日見ていたテレビの内容がどうだの、あそこのショップの品ぞろえがどうだの。
内容はあってないようなもの。
他愛のないことをとても楽しそうに会話している声やその時の仕草に、気がつくと目がいってしまっていた。
直子のことをもっと知りたい。
そう思うまで時間はそんなにかからなかった。
「いや、本当に安心して任せられるなって。部長もよく引き抜きましたね。」
「部長と直子って昔から仲いいからね。それにうちの部長、人脈あるみたいだし。」
「へえ〜。」
「いずれにせよ、あんまり意地悪していると嫌われちゃうよ?」
「それは…」
「まあ、藤真君なら心配ないか。」
「…どういうことですか?」
「ん?直子、年下には興味にからね〜。」
さらっと言われた円香の言葉に、胸にチクリととげが刺さった様な気がした。
…年下には興味ないんだ。
そうか…残念だな…
「…何の話?」
ぼんやりとそんなことを考えていると、すぐ横の椅子がギシリと鳴った。
「ん〜ん、何でもない。呼び出しお疲れ様、何だったの?」
「ちょっとした確認だった。どうせ私の悪口でしょ?」
「違うから、むしろ逆に褒めてたから。」
「どうだか。」
「ホントだってば!ねえ、藤真君?」
「そうですよ。雪峰さんの作る資料は見やすいって話していました。」
「…ありがとう。」
胡散臭げな眼差しを円香に向ける直子に藤真が肯定すれば、少し戸惑ったような礼が返ってきた。
それに笑いを返すと藤真はまた仕事に戻る。
横では直子が手に持っていたものを友人に見せていた。
「お菓子もらっちゃった。休憩取らない?」
「あっ、それ新作だよね!?気になってたんだ。いいね、賛成!」
「お茶入れてくるね。」
箱ごと円香に手渡すと、直子はまた席を立って給湯室に向かう。
彼女の後ろ姿を眼の隅で追っていた藤真に、円香は楽しそうに声をかけた。
「藤真君も一緒に休憩する?」
「…俺、雪峰さんに誘われてないですから。」
「お茶追加って言ってくるよ?」
「いいです。と言うか、変な勘繰りはしないで下さい。」
「え〜?本当に勘繰り?」
「頼みますよ、オネエサン…」
「うふふ。」
ニヤニヤする円香に溜息をついて、藤真は視線を外して仕事に戻る。
しばらくしてカタリと近くに何かが置かれた。
顔を上げてみると、直子の手が藤真のマグカップから離れようとしていた。
「藤真君のもついでに入れてきちゃった。よかったら飲んで下さい。」
これもどうぞ、とお菓子のお裾分けまで差し出される。
「ありがとうございます。」
「いいえ〜。」
ニコリと微笑むと、直子はまた円香としがない話に興じる。
その楽しそうな横顔に自分の頬も緩むのが分かって、藤真は慌てて熱いコーヒーを口に含んだのだった。
2014.02.20. UP
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夢幻泡沫