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愛=煩悩
18
今年は誰にあげるの?
買う?作る?
そんな話題の季節となった。
朝日奈家でも絵梨と絵麻がキッチンを占領して甘いにおいを5階に充満させている。
「妹のエプロン姿って萌えるよねー★」
「そうだね。」
「だろー!?梓もそう思うよなー!!」
「はいはい。」
きゃっきゃっと楽しそうな笑顔で細かい作業をしている2人に椿と梓の目も細まる。
だが、疑問も残るもので…
「…キミ達はどうしてここで作っているのかな?」
「え?」
「俺もそー思うー!サプライズとかじゃねーわけ?」
「は…?」
「一応聞くけど、それ…バレンタインチョコじゃないの?」
「ええ、まあ。」
「だろ!?それをなんでみんなが集まる場で作ってるんだっつの!」
2人の言葉に姉妹は顔を見合わせる。
「何でって…ここのキッチンが一番広いからですけど。」
「ねえ。」
何がおかしいのかと言わんばかりに揃って首を傾げると、当たり前のように答える。
そんな色気の欠片もない理由に、椿と梓はガクリとしてしまった。
「ええと…それは本命なのかな?」
「ちょっと待てよ、梓!そしたら俺達は本命じゃねーってこと!?」
「…そうなるのかな。」
「えー!?マジでー!?ちょっ…どーなの、絵梨!?」
「…ファミチョコに、友チョコ?」
「うん、りぃちゃんは本チョコある?」
「うふふ、まぁちゃんは?」
「またそうやってはぐらかす〜!」
「でも、義理チョコと世話チョコは買うかな?手作りが嫌いな人もいるしね。」
「そうだよね。あっ、それなら!りぃちゃん、これが終わったら一緒にお買い物に行かない?」
「マイチョコも欲しいし?」
「うん!」
カウンター越しに詰め寄ってきた椿には答えずに妹と話す絵梨に、椿は口が挟めずついていけない。
「梓ー!!」
「…女の子の邪魔したらダメだよ、椿。」
「かーいー妹達がなに言ってるか、全然わかんなかったー。」
「うん、僕も。今時のチョコって種類が豊富なんだね。」
「手作りチョコー!ほしー!!」
「はいはい。」
「梓ー!俺に作ってー★」
「バカじゃないの?」
テンションの上がった女の子達にはついていけない。
空元気ですごすごと退散しようとした2人に絵梨が待ったをかける。
「味見、してくれませんか?」
「えっ!?マジでー!?するする★」
「いいの?」
「はい。どうせ食べてもらうなら、おいしいって言ってほしいですから。」
「てことは、俺達用?」
「…さあ?どうでしょうね?」
取り分けた小皿をカウンター越しに差し出しながら、絵梨はニコリと微笑む。
ここで誰にあげるかを言うつもりは一切ない。
「じゃーさ、『あーん』ってしてよ★」
「は…?」
「それくらいの特典がついてもいいだろー?」
「…」
「ほら、あーん★」
「…あーん。…どうですか?」
口を開けて顔を寄せてきた椿に仕方なくチョコを摘まみ入れると、一瞬驚いた顔をしたが照れくさそうに笑って口に入れた。
「ん、うまい!」
さらに身を乗り出して耳元で低く囁くように言うと、パッと離れていつもの調子で梓に絡む。
その頬が少し染まっていたので絵梨もなんだか恥ずかしくなってしまった。
「梓もやってもらいなよー★」
「僕はいいよ。絵梨、一つもらってもいいかな?」
「はい。」
「ありがとう。…うん、おいしい。」
普通の対応をした梓に、絵梨の気持ちも落ち着く。
双子から合格をもらったので、絵麻と2人で最後の仕上げにとりかかるのだった。
バレンタイン当日。
絵梨が帰る頃には、みんなは夕飯を食べ終わってリビングで寛いでいた。
「あっ、りーちゃん。おかえりっ!」
「ただいま、弥くん。」
「今ねー、おにーちゃんたちがどれくらいチョコもらったか聞いてたんだー。」
「あ…そうなの…」
「僕はねー、6年生のおねえさんたちから3つもらったの!」
「わぁ、すごいっ。弥くんモテモテ。じゃあそんな弥くんに、私からも一票。はい、どうぞ?」
「えっ!?りーちゃんもくれるのー?わーい!!」
小さな包みを大事そうに抱えて飛び跳ねる末っ子を微笑ましく思いながら夕飯の準備をしていると、なぜかシン…とリビングが静まりかえっていた。
「…どうしたんですか?」
絵麻が心配そうに聞くと、ムッとしたまま椿が口を開く。
「何で弥だけなの?」
「…は?」
「俺にはないわけー!?」
じっとりとした声で恨みがましく言われた絵梨は呆れたように椿を見た。
「え…まさか小学生と本気で張り合うつもりですか?」
「…」
「というか、まぁちゃん。もしかしてまだ渡してないの?」
「だってりぃちゃんと一緒がいいと思って。」
「待っててくれたの?ありがとう、それなら先に渡そうか。」
支度を中断してガラスの器を人数分出すと、冷蔵庫で冷やしていたチョコをどさっと出す。
均等に分けてリボンや花で飾りつけをして、トレイに乗せてリビングへ運んだ。
「ハッピーバレンタインです。」
おおっと言う歓声と共に次々と差し出された手に、トレイの上はあっという間に空っぽになった。
兄弟達が大人しくなったところで、絵梨はダイニングに戻って食事を再開する。
ちらりとチョコの行方を目で追えば、みんなが食べていてそれだけで嬉しかった。
「絵梨ちゃん。」
「…要さん。」
「これ、ありがとう。」
「あ、いえ。ファミチョコですから。」
「ファミチョコ?」
「家族用のチョコレート、ファミリーチョコです。まぁちゃんと作ったので、まぁちゃんにもお礼いってくださいね?」
1人で食べていた絵梨の横にふっと影が差したかと思うと、要が優しい笑みでガラスの器を見せてきた。
「うん、妹ちゃんには向こうでお礼を言ったよ。」
「そうですか。それなら良かったです。」
「うん。俺、こっちで食べててもいい?」
「向こうでどうぞ。」
「え〜!?なんで?せっかく絵梨ちゃんがいるのに?」
「椿さんが見てますし。」
「見せつけようよ。」
「…そういうのはいいですから。ほら、あっちに行ってください。」
「うわ〜、つれないなあ。」
仕方がないと席を立った要に苦笑し、けれども慌てて袖を引っ張れば驚いたように振り返られた。
「…あとでお部屋に行ってもいいですか?」
「もちろん。案外、大胆なんだね。」
「…行きません。」
「あっ、ウソウソ!来てください、待ってます!!」
嬉しそうにポンポンと頭を撫でて要はリビングではなく自室へ戻っていった。
要の部屋のインターフォンを鳴らす。
約束していたとはいえ、本当に来た絵梨に要は驚いているようだった。
「マジで来たんだ。もしかして据え膳ってやつ?俺、遠慮なくいただくけどいい?」
「帰ります。」
「あー、うそ!うそだから!もう、ほんの冗談だよー。」
「…これ、良かったら受け取ってください。」
さすがに本命チョコを渡すとなると緊張する。
少しだけ震える手でピンク色のラッピングを渡せば、要は今度こそ驚いたような顔で絵梨を見た。
それから目を据わらせると、低い声で聞いた。
「絵梨ちゃん、質問。」
「はい?」
「これは本命?それともキョーダイとして?」
「兄弟としてはさっきのリビングであげました。これは、その…」
「…もちろん、他の奴にあげてないよね?」
「はい。」
「…ありがとう。すっげーうれしい。」
絵梨の返事に破顔した要に、ホッと顔を綻ばせる。
「喜んでくれてありがとうございます。」
「…ねえ。部屋、あがっていかない?」
「え?」
「せっかくだし、ね?」
腕を引っ張られる様にして要は絵梨を招き入れる。
適当に座ってとベッドを指せば、素直に腰をかけた彼女に思わず苦笑した。
「あのね、絵梨ちゃん。いくらどうぞって言われても、簡単に男のベッドに座るもんじゃないよ?」
「じゃあ…」
「まあ、俺としては持ち込みやすい展開だから願ったりだけど。それより…ね。聞いていい?」
「…はい?」
「これ…本当に本命?」
「え?」
「だって…さっき、わたにチョコ渡していたでしょ?」
「あれはっ…」
「…あれは?」
「友達がくれたチョコとマイチョコが被っちゃって。もちろん好きだから自分で食べてもよかったんですけど、2つあってもどうかなとも思ったので…弥くんがかわいかったから思わず…」
「思わずあげちゃったんだ。」
「本命じゃないですよ!本命は…これ、です…」
「ふうん…じゃあ証明してみせてよ。」
「は…?」
「『あーん』して。」
「…え?」
「もちろん、つばちゃんにしてあげた『あーん』じゃダメだからね。」
「なっ…なんで、それを!?」
「なんでって、そんなのつばちゃんが自慢したに決まってるでしょ。俺、もう堪えるの大変だったんだよ?だから…ねえ、絵梨…してよ。」
さっき渡したばかりのチョコを開けながら要は甘く強請る。
「椿には手であげたらしいから、そうだな…俺には、口であーんして。」
「それはちょっと…」
「ねえ、いいだろ?」
「…」
「ほら…絵梨?」
「…っ…もぅっ…」
手作りのそれを一粒つかむと、絵梨の口へ含ませる。
有無を言わさない態度に顔を真っ赤に染めた絵梨だったが、覚悟を決めると要の肩に手を置いて体重を乗せた。
幸せそうに目を閉じる要が憎たらしい。
それでも、やっぱり自分も嬉しいもので…
唇が触れた途端に肩と背中を捕らえられ、チョコがなくなるころには要に覆い被さられていた。
「…反則でしょ、その顔は。」
「…」
「そんな顔したらダメだよ…。俺、全然我慢とかできないんだからさ。」
温かい手が肩から腕…そして、腰へと移る。
「…ホワイトデーまで待てない。今すぐお礼をさせて。任せて、たっぷり奉仕させていただくよ。」
「そんな…んっ、ぁ…」
「今晩は寝かさない。キス一つなんかじゃ済まさないからね…?」
確実に絵梨の弱いところを的確に責める要に抵抗できない。
「悪い妹にしてあげる…俺を欲しがっていい声で鳴く、悪い妹に…ね…」
彼の意のままに夜は過ぎていき、絵梨は抱かれたまま眠ってしまった。
2015.01.15. UP
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夢幻泡沫