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可愛くしてあげる

02



突然だが、私には兄弟が14人いる。
一人はお姉ちゃん。
残りは男ばっかり。
少し前まではお姉ちゃんの絵麻だけだったが、お父さんが再婚して兄弟が一気に増えた。
家庭環境が一気に変わってしばらく経つのだが、未だに慣れない。
もう一つ、困っていること。
実はお姉ちゃんも含まれるのだが、私は兄弟達が苦手だ。

「あっ、絵乃ー。おはよー★」

明るく挨拶をしてくれたのは5番目のお兄ちゃんの椿さん。

「おはよう、絵乃。」

穏やかに挨拶をくれたのは6番目のお兄ちゃんの梓さん。

「…おはようございます。」

だけど私は2人と目線を合わせることができなかった。
ボソボソと答えて、席につく。
朝日奈絵乃、ブライトセントレア学院中学3年生。

「絵乃ちゃん、おはよう。珍しいね、今から朝食なんだ。僕はもう行くけど、君はどうする?」
「すみません。どうぞお先に行ってください。」
「そう?じゃあ先にいくけど、遅れないようにね。あ、それと。車にも気をつけてね。」
「ありがとうございます。」

そう声をかけたのは9番目のお兄ちゃんの祈織さん。
ブライトセントレア学院高校に通っているので、時々一緒に登校する。
ご近所中で『王子様』とあだ名される祈織さんは、こんな私にも気を遣って毎日声をかけてくれるのだ。
時計を見れば、確かに少し急がなければいけない時間。
急いでご飯を食べていると、飛んでくるのは溜息と小言だった。

「絵乃さん。良く噛んで食べないと喉に詰まらせますよ。」
「…すみません、右京さん。」
「いえ。しっかりと食べてから登校しなさい。」
「はい…」

2番目のお兄ちゃんの右京さんは、兄弟達の母親代わりに家事を取り仕切っている。
お姉ちゃんは進んでお手伝いをしているけど、私は…。
自分のこの性格のせいだが、私はこの家で少し浮いている存在かもしれない。



「…って言ってもさー、顔よし性格よし職業も様々なハイスペック兄弟達に囲まれて毎日過ごすってどうなのよ?無理だよ、しんどいよ!」
「ってお兄さん達に言ったらー?」
「言えるわけないでしょ!?円香の憧れの王子様も入ってるんだからね!」
「羨ましい!!」
「…私は円香が羨ましいよ…」

ハア…と溜息をついて、机に突っ伏す。
放課後の誰もいなくなった教室で宿題片手間に愚痴れば、付き合ってくれてる円香がジト目で私を見た。

「こっちからしてみたら、しょーもない不満なんですけど?」
「私には切実な悩みなんですー。」
「まあねー。絵乃は兄弟が増える前からお姉さんも苦手だって言ったからねー。」
「…あの無駄に人に合わせるところがね。優しすぎるのよ、お姉ちゃんは。もっと自分を持ってほしいの。」
「ってお姉さんに言ったらー?」
「円香っ!!」
「あはは、ごめんごめん。」
「もういいっ!」
「悪かったって。」
「…私こそゴメン。いつも付き合わせて。」
「なに?急にどーしたの?気持ち悪っ!」
「っ、円香っ!?」
「なんてね。少しは元気出たみたいじゃん?」
「…ありがとう。」

突っ伏したままで顔だけ親友を見れば、ヨシヨシと頭を撫でられる。
それがくすぐったくて目を細めると、ポンポンと慰められた。
円香は幼い頃からの親友。
私が引っ越して家は遠くなってしまったが、私立に通っているおかげで毎日会うことができる。
お姉ちゃんも兄弟達も苦手なことを知っているので、何かあるたびにこうやって話を聞いてもらっているのだ。

「で?今日はどーしたの?」
「…」
「絵乃?」
「…琉生さんがお姉ちゃんの髪をアレンジしてた。」
「あっそ。琉生さんって確かカリスマ美容師の人よね?絵乃も『やって』って頼めばいいでしょ?」
「うーっ!私が言えないの知っててそういうこと言う!?円香の意地悪っ!!」

キッと親友を睨みつけても軽く流されてしまう。
そんなことをしているうちに、最終下校の時刻になってしまった。
勉強道具を片付けて、薄暗くなった校内を円香と帰る。
うちへ帰ったらきっとまた右京さんのお小言を頂戴するんだろう。
知らないうちに眉が寄っていたのか、円香が私の肩を一つポンと叩いた。


2015.04.30. UP




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夢幻泡沫