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オマエのことが好きなんだ

01



「結婚しよう。」

何気ない調子で言われた彩夏は、危うく受け流してしまうところだった。

「…え?ごめん、もう一回言って。」
「だから、結婚しよう。」
「は…?え、この状況で言うの!?家で寛いでいる時に?何のフリもなく?」
「ダメか?」
「え、ちょ…私の扱い、軽過ぎない?」
「そんなことはない。」
「あるっ!私にだって人並みに願望があるんだけど!」
「なんだよ、それ。」
「もっとムードを大切にして!棗がそういうの苦手なの知ってるけど、大切にして!!」
「無茶言うな…」
「もうっ!棗のバカっ!!」

こんなふうに強く言えるのも、棗がそれを許してくれるのを知っているからで。
それだけ付き合いが長いからで。
隣に座って部屋着姿で頭を掻いている自分の彼氏をジロリと睨むと、彩夏はバシッと筋肉質な腕を叩いた。
出会いは中学。
高校で一度離れて。
大学の時に恋人へ発展。
知り合ってからもう10年、付き合って5年になる。

「…オマエのこと、大切だと思ってる。」
「…なに、急に。」
「オマエが言えって言ったんだろ!っと…そうじゃなくて…ずっと隣にいたいんだ。」
「…」
「彩夏、結婚しよう。」

な、と微笑む棗に彩夏の頬も緩む。
体をゆっくりと彼の方へ向け、その足の間に入った。

「…嬉しい。」
「大切にする。」
「ふふ。…ねえ、棗?」
「ん?」
「好き、大好き。」
「ああ。俺も。」
「俺も…なに?」
「なんだよ、今日はずいぶんと欲しがりだな。」
「ふふ、いいでしょ?ねえ、俺も…なに?」
「…好きだ。」

甘い声と一緒に唇が重なる。
角度を変え、深さを変え、互いを求める。

「ベッド、行こうぜ…」

息をする合間に掠れた声で誘う棗に、彩夏の身体に朱が差した。
トロリと溶けた思考は甘い色で染められている。
大きな手が素肌に触れる。
これが幸せって言うのかな…
段々と下がっていく棗の髪の毛に指を通しながら、彩夏は快楽に身をゆだねた。



左指に光る、星の名前に由来する輝き。
それをお守り代わりに棗の親に挨拶に行けば、なんと彼女も再婚するというではないか。

「こりゃ、俺達はもう少し先になりそうだな。」
「そうね。でも、お義母さんのおめでたいことじゃない。少しぐらい待つのなんて、何ともないよ。」
「なんか悪いな。」
「悪いことじゃないでしょ。喜ばしいことでしょ。」
「そりゃそうだが。」
「嬉しそうだったね、お義母さん。」
「年甲斐もなくな。」
「またそんなこと言って!」
「ま、俺達は俺達でゆっくり準備するか。」
「うん。」

某雑誌にドッグイヤーを作りながら微笑む彩夏を棗は後ろから覆った。

「お義母さんのお式、しっかり見てきてね。」
「なんでだ?」
「演出とかがカブるの嫌だから。」
「ああ、なら大丈夫じゃないか?母さんのことだから派手なことしそうだけど、オマエはそういうの好まないだろ。」
「そうかもしれないけど、分からないでしょ?」
「ハイハイ、見てくりゃいいんだろ?と言うか、オマエもきっと呼ばれると思うぞ?」
「それはないでしょ。いくら息子の婚約者だって言っても、まだ他人だし。」
「母さんはそんなこと気にしなさそうだけどな。」
「もうっ、いいから見てきてね!あっあと、ドレスもしっかりと!!」
「そんなもん、分かるわけないだろ!?」
「じゃあ、写真撮ってきて。いろんな角度から!ね、お願いっ!!」
「分かったって。」
「約束っ!」
「ハイハイ。」
「そのうちフェアを見に行くからね。『なんでもいい』『どこでもいい』はなしだよっ!」
「…楽しそうだな。」
「だんだんしんどくなるって聞くけどね。今は楽しいよ。雑誌見てるだけでトキめいちゃう!あんなことしてみたい、こんなことしてみたいって!」
「彩夏の好きな様にしろよ。」
「…なに、それ。一緒に考えてくれないの?」
「そうじゃなくて。彩夏、やりたいことあるんだろ?結婚式なんて一生に一度なんだから、好きなこと全部やれって。」
「ふふっ。高くついちゃうよ、きっと。」
「それくらい稼いでやる。絶対忘れない式にしような。」
「あら、頼もしい。」

雑誌をめくる手に被せられる大きな手の暖かさが彩夏には嬉しく思えた。


2016.06.23. UP




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夢幻泡沫