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オマエのことが好きなんだ
02
「妹ができた。」
母親の結婚式から帰って来た棗の第一声がそれだった。
「は?」
「だから、妹。母さんの相手に娘がいたんだ。」
「へ…ぇ…どんな子なの?」
「高校生。侑介と同級生なんだと。」
「あら、まぁ…ゆーちゃん、複雑だろうねぇ…。でも、何で今まで知らなかったの?」
「…」
「棗?」
「椿のヤツが黙ってた。梓も面白がってたんじゃないか?」
「…ああ、あの2人ならやりかねない。」
「だろ。」
「ふふっ、相変わらず苦労してますねぇ。」
「しなくてもいい苦労、な。」
疲れたようにハアと吐き出す棗に、彩夏はクスクスと笑いを零す。
「三つ子なのに、棗だけオジサンになっちゃいそう。」
「やめてくれ。」
「椿くんも梓くんも若々しいのに、棗だけ老けてるなんてやめてね。」
「それは俺に言うことじゃないだろ。あいつらが普通になってくれりゃいいことだろ。」
「知らないの?椿くんも梓くんもすごい人気なんだよ。」
「人当たりいいもんな…俺以外には。」
「ふふっ。」
「笑うとこじゃねえ。」
「あははっ、ごめん。で、その妹さんはどんな感じの子なの?」
「あ?あー…絵麻だったかな、名前。おとなしそうなヤツだと思う。」
「ふーん。」
「あ、そうでもないか?」
「うん?なんで?」
「俺の名刺を渡したら食いついてきた。アレは相当なゲーマーだと見た。」
「ゲーマー…」
「彩夏、ゲームに興味ないもんな。」
「そんなことないよ?椿くんと梓くんが出てるゲームはしてるし!」
「乙女ゲーだろ、それ。ウチのとはジャンルが違う。」
「だって棗のとこのゲーム、グロいんだもん。操作も難しいし…」
「ま、普通はそうだよな。あいつが珍しいんだ。それにしても、ククッ…あの食いつきよう…ククッ!」
「うわ、ご機嫌。」
「そりゃ、自分のとこのを好きって言ってもらえたら嬉しいだろ?サンプル、送ってやらなきゃな。」
「仲良くなれそうでよかったね。私も仲良くなれるといいなぁ。」
「彩夏なら大丈夫だろ?女同士、仲良くしてやれ。」
「うん。」
ジャケットを脱いだり、ネクタイを緩めたり、オフモードになっていく棗を手伝いながら彩夏は妹になったその人を想像する。
仲良くなれるかな。
女同士の話はできるかな。
明るい未来を描く彩夏の顔も楽しそうだった。
それなのに…。
初めはあれ?と思う程度だった。
それが段々と怪しくなっていき…。
クリスマス前の棗は忙しい。
彼曰く、『オモチャ屋にとってクリスマスは一番の稼ぎ時』なんだそうだ。
だから会えないのは、毎年我慢していた。
その分、お正月は一緒に過ごしていたのだが…。
「え?今年は無理?」
「悪い。家族でスノボに行くことになって。」
正月出勤から帰ってくるのを見計らったかのように椿から棗に連絡が入ったらしい。
電話口でガサゴソと物音をたてながら断ってくる棗に、彩夏は知らず知らずのうちに唇を噛む。
「…ふーん…棗、今までそんなに家族旅行に参加しなかったのに…」
「椿が急に言ってきたんだよ。」
「椿くんが?」
「天気予報を見てたら急に行きたくなったんだと。ったく、アイツの思いつきにはついていけない時があるぞ。」
「…それでも付き合うのが棗なんだよね。誰が行くの?」
「椿と梓、雅兄と弥、侑介、絵麻…」
「っ…」
思わず息を飲む。
確かに家族だからいてもおかしくはないけれど…
なんで、彼女まで…
「あと…確か、かな兄。」
「…」
「彩夏?」
「…」
「おい、彩夏…?」
「…一瞬、電波悪かったみたい。分かった、いってらっしゃい。」
「悪いな。土産、買ってくるから。」
「ん、期待してる。」
「帰ってきたら一緒に過ごそうぜ。」
そう言って電話を切った棗に溜息が出る。
「…帰ってきたらもう仕事でしょ、バカ…」
体から力が抜けて、ベッドにボフンと倒れ込みながら彩夏は目を閉じる。
最初に違和感を覚えたのは棗が絵麻のことを話す時の態度。
今までの棗だったら彩夏の前で彼女以外の女性の話をあまりしなかった。
上司である仁科女史の話でめったにさえしないのに、絵麻のことは楽しそうに話す棗に心がモヤっとした。
いくらゲーマーだからって、いくら家族だからって。
そう、棗は家族の話も自分からは振らない。
その棗の口から絵麻の話題が事欠かなかった。
モヤモヤが黒くなったのはクリスマス前。
棗のお気に入りのマフラーが見当たらなくなっていた。
どうしたのかと聞けば、絵麻が寒そうだからクリスマスプレゼントにあげたとか。
いくら家族だからってそこまでするだろうか。
モヤモヤが濃くなっていく。
「…いい年して嫉妬?みっともない。」
だけど、気持ちはどうしても晴れなくて…。
「棗の、バカ…」
彩夏は枕に顔を埋めるときつく握った。
2016.07.14. UP
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夢幻泡沫