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恋ってなあに? 番外編

触れなくちゃ伝わらないこと



「転校生が来たんだって?」

同じ学年だと言うのに、かなりのタイムラグで花島田英達が窓から顔を覗かせた。

「花島田、今ごろぉ?転校してきてからだいぶ経つぜ?」
「なに、女だと言うではないか。男であれば俺様のライバルになるか確認しに来たのだが、女ならば用はない。なぜなら俺にはマコトさんがいるからな。ああっ、マコトさんっ!!あなたに比べれば大切に育てられたボタンの花でさえ色あせて見えっ…」
「ウルサイ、花島田っ!!」

東一中生なら聞き慣れてしまったいつもの口上に、真は相も変わらず容赦なく反応する。
手近にあったものを強肩を活かしてブンと勢いよく投げつければ、見事に花島田の側頭部にヒットした。
白目をむく彼に、万里はからかうように聞いた。

「花ちゃん花ちゃん、じゃあ何で来たの?」
「うむ、何でもその転校生はマコトさんと同じくらい美人だと言うではないか。それならば一度くらいは見ておこうと思ってな。まあ、マコトさんには遠く及ばないだろうが。」

運動部の元キャプテンとは思えない程の口達者なところを見せながら、花島田は平と万里を押しのけて教室の中を見回す。

「それで?その転校生とやらはどこにいるんだ?」
「ああ、安部〜。」

平が振り返って大声で呼ぶと、真や雛姫とおしゃべりをしていた少女が顔をそちらに向けた。
首を傾げていた彼女が花島田の顔を見て驚く。
そのままカタリと立ち上がって近づいてくる月穂に、花島田は何だと気が抜けたように呟いた。

「転校生は月穂姫か。それならば噂もあながち間違いではないな。」
「姫〜!?お前、安部のこと知ってるのか?」
「あ?知ってたら何だと言うんだ?」

花島田は平の質問に答えずに、そばに来た月穂に恭しく一礼をした。

「月穂姫、お久し振りです。」
「こちらこそ。花若様にこのようなところでお会いできるなんて。」

花島田の礼に月穂も丁寧に返した後、2人は顔を見合わせる。
互いに吹き出せば、何となく近寄りがたかった雰囲気は一気に消えた。

「こっちに引っ越してきたんだ?」
「うん。実家に近い方がいいかと思って。」
「そう言えば、お母様から師匠が勇退されたって聞いたぜ。」
「ええ。おじい様からお父様に譲られてね。今はお父様が師匠、お兄様が若師匠。おじい様は大師匠って呼ばれているわ。」
「ふ〜ん…オメデトウゴザイマス。」
「ありがとうございます。小父様は?お元気?」
「おう。」
「小母様や英華ちゃんには会うけど、英達っちゃんは最近来ないから。」
「うっ…俺様はバスケで忙しいから仕方ないんだ。」
「バスケ?受験じゃなくて?」
「今は受験。少し前までバスケ。俺様は才能が零れるくらい溢れ出ているからな。」
「ハイハイ、お兄様が淋しがっていたよ?年が近い男の子なんて英達っちゃんぐらいだからね。」

花島田が『英達っちゃん』と呼ばれている。
平と万里は彼のことをそう呼んでいる人物を一人しか知らなかった。
そのことにも驚いたが、花島田と月穂は旧知の仲らしい。
近況報告を含め、ポンポンと軽やかに会話されていることに平と万里は目を丸くする。
互いに顔を見合わせた後、平が少しだけ戸惑うように聞いた。

「なあ、花島田。お前、安部と昔からの知り合いなの?」
「月穂嬢とか?お母様が習っている日舞の先生の娘さんだ。俺も小さい頃から出入りしてたから幼馴染みみたいなモンか?」
「ん、そうね。幼馴染み、かな。でもね、英達っちゃん!それは内緒なの!!」
「それって何だ?俺と幼馴染みのことか?それとも日舞宗家の娘だってことか?」
「日舞宗家〜!?」

えぇ〜!?と驚く平の驚く大きな声に、教室内の視線が一斉に花島田と月穂に向く。

「知らなかったのか?月穂嬢は日本舞踊安部流宗家のお姫様だぞ。頭が高ぁ〜い!!」

最終的に大層芝居がかった紹介を花島田がすれば、反射的に3Dの生徒達はははぁと頭を下げる。
月穂は額に手を当てて深く息を吐き出した。
ノリのいいこのクラスは短時間で馴染めてありがたかったが、できれば身元をあまり知られたくはなかった。
それを一発で全員に知らしめてしまった花島田は何と言うか…。
恨みがましい視線を送る月穂に気づかないまま、今度は平が飛んでもない発言をする。

「へえ〜、お坊ちゃまとお姫様ね〜。じゃあ花島田と安部って付き合ってんの?」
「え!?」
「は!?」

交互に2人を見比べて笑いながら聞く平に、月穂と花島田はギョッと目を向く。

「天野っ!キサマはと言う奴はっ!!俺にはマコトさんがいるだろうっ!!ああっ、マコトさんっ!どうかこのバカの言ったことなどお気になさらずに!この花島田英達の心は常にマコトさんのためだけに捧げておりますっ!!」

焦る花島田が朗々と真への愛を語っている横で、あまりに見当はずれなことに呆然としていた月穂も否定をしようと慌てて口を開いた。
すると、横から万里の手が月穂の口を覆う。
何事かと万里を見れば、しぃと人差し指を自分の唇にあてて黙ってと合図を出された。
コクンと頷く月穂の頭をいい子だねと言わんばかりにポンポンと頭を撫でると、真が花島田を黙らせたところでゆっくり万里が口を開いた。

「平、月穂の彼氏は花島田じゃないよ。…オレ。」
「…はあっ!?」
「だから、オレ。オレが月穂の彼氏。間違えないでね。」

バチっとウインクと共に宣言した万里の言葉は、悲鳴と共に東一中を混乱に陥らせた。



「よかったの?あんなこと言って。」
「良いも悪いも、アンタの彼氏はオレでしょ?それとも何?オレは愛人サンで本命は花ちゃんだとでも言うの?」
「…そう言う拗ね方、イヤ。」

月穂は正面に座っていた席から立ち上がると、万里の後ろに回って腰に手を回す。

「万里が一番。だけど万里は『みんなの万ちゃん』なんでしょ?」
「月穂の方が拗ねてんジャン。」
「私は拗ねていないわ。だけど必要以上の嫌がらせを受けるのがイヤなの。」
「仕方ないっしょ。『みんなの万ちゃん』はスーパー君なんだから。」

腰に回された月穂の手を取り手首にキスを落とす。
それからクルリと振り返り、綺麗な笑みを彼女に見せた。

「知ってる?手首のキスは欲望なんだって。」
「…バカ。」

頬を染めてぺシンと万里の額を叩くと、月穂は彼の腕に唇を触れさせる。

「…腕は何?」
「恋慕…」
「じゃあ…唇は?」
「…万里、分かって聞いているでしょ?」
「ん…」

クスクスと笑い合いながら、顔を近づけてくる万里に月穂はゆっくりと目を閉じた。
正に唇が合わさろうとしたその瞬間、それまでの甘い雰囲気が一気にかき消される音が万里の家に響く。

「…チッ。」

思わず万里が舌打ちをした。
玄関のベルの音にパッと離れた月穂の髪を一筋掬うと口付ける。

「髪は思慕、ね。」
「いいから早く出なさい。」
「ツレないの。」

あーあと苦笑いしながら席を立つと、ちょっと待っててと言って自室のドアノブに手をかけた。

「…真っ赤な月穂も可愛いよ。」
「っ、うるさいっ!!」

顔だけ振り返った万里がニヤリと口の形を変化させる。
思わず大声を上げた月穂をケラケラと笑いながら、万里は機嫌よく玄関へ下りていった。


2014.01.09. UP




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夢幻泡沫