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恋ってなあに? 番外編
初めての思いは永遠に消えない
天上で輝く月に川辺で囁く薄。
「風流だね〜。」
「京都でお月見なんて粋なことを。」
「タマタマなんだけどね。」
「今年は小望月なんだって。」
「…へ?」
「小望月。満月は明日、しかもスーパームーンらしいよ。」
「ふうん…まあ、ケンキョな日本人らしくていいんじゃない?」
ケラケラと笑いながら猪口を傾ける万里に、月穂は小さく息を吐きながら肩を竦める。
「いつの間に日本酒を飲むようになったの?」
「ん?オトナの付き合いにはいろいろとあるんだよ。」
「…私も同い年なんですけど?」
「なら、月穂も一献いかが?」
ゴクッと喉を鳴らして飲み干すと、万里は月穂に猪口を差し出す。
白い指でそれを受け取って微笑みながら酌をされる月穂は、はたから見ていてとても艶めかしかった。
「…キレイな女になっちゃって…」
「え?」
「なんでもない。」
「ふふっ、変な万里。」
「月穂姫の神々しさに平伏しているんですよ、パンピーのオレは。」
「パンピーじゃないでしょ、スーパー君?」
何年も前に使われた呼び名で互いに呼べば、次いで出てくるのは忍び笑い。
万里も月穂も目を細めて、目の前にいる愛しい人を見つめた。
「…知りあって10年か。あの時はいきなり頭上から花が降ってくるからビックリしたんだぜ?」
「とっても急いでいたからね。逆方面に向かっていた人とすれ違いざまにぶつかっちゃって、バランス崩して…。万里が手伝ってくれてすっごく助かった。ありがとう。」
「いや、オレも初めての世界を知ることができて楽しかったし。」
「万里の目、キラキラしてたもん。」
「でも月穂には振られてるし。オレを振るなんてことしたの、月穂だけだよ!?再開した後も知らんぷりしてくれちゃってさ。」
「あれは万里が初めにそういう態度を取ったのよ?」
「…少しぐらい意趣返ししたっていいデショ?」
「意趣返し、ねえ…」
「月穂はオレの『初めて』ばかり奪ってくね。」
「…言い方が卑猥…」
「あら、バレた?」
クツクツと笑いながら万里は月穂を後ろから抱き抱える。
そして白く匂い立つ首筋に顔を埋めながらヒソヒソ話をするように歌った。
「…その歌、久しぶり。」
「月穂が教えてくれたんだ…この歌が、こんなに甘くてキレイだって。ねえ、歌って?」
「私が?」
「うん。月穂の歌声、好き。」
「私は万里の歌声が好きだけど?」
「歌声、だけ?」
「そっくりお返しするわ。」
ささめき密やかに笑んで月穂はリクエストに応える。
小さな声で歌っているからか、少し掠れた淡い声が万里の心を揺さぶる。
月穂を好きになって良かったと思う。
長く付き合っている分、世間で言われている倦怠期だの修羅場だの…あまり思い出したくない時期もあったが…彼女の隣にいると素の自分でいられる。
中2での出会いが運命だと言うなら、カミサマも随分とサービスをしてくれたもんだ。
月穂を失くしたくない。
ずっとずっと側にいたい。
何よりも大切にして、俺の全てを捧げたい。
重いかもしれないが…本心なんだ。
マーキングするように鼻を擦りつける万里から、月穂はくすぐったくて身を捩って逃げる。
「どうしたの、万里?」
「別に?月穂がイイにおいだなあって思っただけだよ。」
「万里…?」
月に薄。
団子に酒。
オレに月穂。
「ね?ピッタリだろ?」
「なに言ってるの。」
クスクスと笑って逃げ出した身を寄せてくる月穂を、今度は覆い被さるようにして腕の中に閉じ込める。
「…月が綺麗ですね。」
「え?あ、うん。綺麗だね、今夜は不条理じゃないし。」
「そうじゃなくて…月が綺麗ですね。」
「万里?」
「…月が綺麗ですね。」
「…ああ。」
なるほど、と月穂の瞳が月光を反射する。
「死んでもいいくらい?」
「死んでもいいさ。」
「ふふっ。でも見て?朧月夜になってきた。」
「…オレの思いが通じたかな。」
トン…と押し倒して唇を重ねてきた万里を、月穂も蕩けそうになりながら受け入れる。
「月穂は…俺に光を与えてくれる存在だよ。」
「…どんな光?」
「『秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の かげのさやけさ』ってとこかな?」
月穂を軽々と抱き上げて奥に入ると、足でパタンと障子を閉める。
「秋だけじゃ足りない…ずっとオレの側にいてくれるだろ?」
「ずっと…?」
「そう、ずっと。…結婚しよう。」
「万里…」
上から見下ろす強い黒星に、月穂の瞼が濡れる。
「…私の方こそ、死んでもいいわ…」
しなやかな腕を上げ首に巻きつかせながら呟く月穂に、万里の口から笑みが零れた。
2014.09.08. UP
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夢幻泡沫