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Eternal love to you
15
蒼乃の紹介は滞りなく盛大に終わり、俺達は祝福の言葉を次々と受け取った。
パーティーが始まる前に『ニッコリ笑って頷いていればいい』といった通りに蒼乃は俺の後ろで微笑んでいるだけだったが、淑やかな女性と周りは思ったらしい。
賢夫人になられますね、と評判は上々だった。
「おい、賢夫人だってよ。」
「ふふっ。こういう世界を知らない、ただの一般人ってだけなのにね。」
「変にスレんなよ?俺は今の蒼乃がいいんだからな。」
「…ありがとう。」
周りに集まってくる波も収まった。
慣れない環境に疲れているだろうと、はにかみを誤魔化すように髪をいじっている蒼乃の腰に手を添えて壁際に避ける。
スタッフからドリンクを受け取り二人で休憩していると、随分と懐かしい顔が声をかけてきた。
「竜の旦那、蒼乃。」
「…猿か。」
「お久し振り〜。」
ヘラヘラと手を振りながら近づいてきたのは猿飛で、思わず蒼乃を庇うように前に出る。
「なんでアンタがここにいんだ。」
「なんでって、そりゃないでしょ〜。竜の旦那んトコの会社がウチの母体会社を傘下に引き入れたんでしょ。今日はゴアイサツ要員。」
どうも猿飛佐助と申します、と出された名刺を見ると確かに猿飛の言う通りだった。
「さっきの発表、驚いた。お二人さん、婚約したんだね。おめでとう。」
「Thanks.」
「いつから付き合ってんの?」
「…アンタには関係ねえだろ。」
「いや〜、元カレとしては…ねえ?」
「…佐助に振られた後よ。政宗がずっとそばにいてくれたの。」
「へ〜…」
「佐助は?かすがちゃんとうまくいったの?」
「…それがさ〜。かすがのヤツ、地元を出ちゃってね。大学講師になった上杉センセの助手として研究室でお手伝いに勤しんでるよ。」
「そう。じゃあフリーなの?」
「そ、俺様とあろう人が彼女募集中。可哀想でしょ、慰めて?」
「Hey, 猿!」
「おっと!コワいコワい!!大事にしてるんだね〜。」
「ああ、アンタと違ってな。」
「…政宗。」
静かな声が俺の神経を凪ぐ。
ダメと制止するように裾を引っ張りながら、蒼乃が俺を止めた。
「ありがとう、政宗。」
「…猿の言うことなんか気にすんなよ。」
「大丈夫、もう子供じゃないし。私、ちょっと席を外すね。」
そう言って離れていった蒼乃を猿飛が目を細めて見送る。
その表情は見覚えがあった。
「…猿。」
「ん〜?なに?」
「アンタ、蒼乃を振ったのを後悔してんのか?」
「…そうだって言ったら?」
「ざまぁねえな。」
「あはっ、きっつ〜。…まあ、その通りなんだけどね。」
クシャリと前髪を掴むようにして猿飛がまたヘラリと笑う。
「蒼乃のこと嫌いじゃなかったからね。かすがが勘当されるかんじで地元を離れるなんて大誤算だよ。」
「…」
「蒼乃ってイイ子だよね。見た目もいいし、性格も可愛いし、従順だし。」
「…従順?蒼乃が?」
「え?絶対に反対とかしないでしょ?我が儘も言わないし。だから物足りないなあってずっと思ってたんだけど。」
「それはアンタがそうさせてたんだろ?本来なら男の顔色を窺うようなヤツじゃねえだろ、蒼乃は。」
「…そうかもね。竜の旦那は反対とか我が儘とかされたことある?」
「アンタに教える義理はねえな。」
「…あ〜あ、あんなに綺麗になっちゃって。逃がした魚は大きかったのかな〜。かすがが地元から出るなんてな…」
「そうやって他の女を出してる時点で、蒼乃を不幸にしてるんだ。仮にあのまま付き合ってても別れていただろうよ。」
「あは、ホントにきっついね〜。マイったな〜。」
苦笑いしている猿飛を冷めた目で見ていると、蒼乃が戻ってきた。
ごく自然と俺に寄り添うように立つ蒼乃を見て、猿飛が深い溜息を吐く。
「…ねえ、蒼乃。」
「なに?」
「竜の旦那と一緒にいて幸せ?」
「なに?突然どうしたの?」
「うん、ちょっとね…」
「幸せだよ。」
「え?」
「政宗と一緒にいるの、幸せ。」
猿飛の目が驚きで丸くなる。
横で見ていた俺も咄嗟に言葉を発せないくらい、綺麗な笑みだった。
「…そっか。改めて、オメデトウゴザイマス。お幸せに、ね。」
「佐助も。」
「あんがと。じゃ、俺様ほかの人にも挨拶してくるから。」
現れた時のようにヘラヘラと笑いながら猿飛は去っていった。
それを見送っている蒼乃をじっと見ていれば、急に彼女は俺を見た。
「…不思議。」
「何が?」
「佐助を久し振りに見ても、辛いとか苦しいってなかった。」
「…」
「こんなに自然に話せるなんて思ってなかったけど…話せてよかった。」
「…そうか。」
「政宗のおかげだよ。」
「Ah?」
「政宗が私を大事にしてくれてるから。『ぜってえ大事にする、反吐が出るくらい甘やかしてやる。』って言葉、ずっと守ってくれてるから。」
「…」
「ありがとう、政宗。大好きよ。」
「…当然だ。まだ反吐が出てねえだろ?もっともっと甘やかしてやる。」
「胸焼けしちゃうよ。」
「悪くねえよな?」
「悪くない。」
クスクスと笑う蒼乃をそっと抱き寄せる。
腕の中にいる大切な存在を一生かけて守るんだと固く心に刻んだ。
2016.05.30. UP
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夢幻泡沫