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chanson du thème
Mon ami
「おはよう、舞ちゃん。」
「あ、健ちゃん。おはよう。」
隣から出てきた健ちゃんは、今日も大きなバッグを肩にかけていた。
「朝練?」
「おう、舞ちゃんは?」
「…課題?」
「俺に聞くなって。」
「だってぇー、難しいんだもぉん。」
「そんな甘ったるい声、俺に出されてもな…」
…そうだね。
困っちゃうよね。
あなたの隣にいることを、私はもう望めないんだもの。
「頑張れよ。舞ちゃんなら大丈夫だろ。」
「…健ちゃんはどうなの?もうすぐ大会なんでしょ?」
「うちは大丈夫だ。心配すんなって。」
「心配はしてないよ。」
健ちゃんは心配いらない。
去年も全国へ行ったし、毎日遅くまで練習をしているし、朝練だってしているし。
小さい頃から見ているから、人一倍努力家なのも知っていて。
ホント、私のお隣さんは前だけを見て突き進む力を持っている。
…羨ましい。
「あ…と、ゴメン。出掛けに時間取らせちゃった。」
「いや。」
「いってらっしゃい。ケガ、しないようにね。」
「舞ちゃんも気をつけて。」
夢を見るような年でもなくて。
現実を見るには幼くて。
今の私は中途半端だ。
授業に、課題に、レポートに、就活に。
やることはたくさんある。
一つのことだけを見ていればよかったのは、もう昔のことだ。
そう、今の健ちゃんぐらいまで。
「いいなぁ、高校生。」
「は?」
零れた独り言に、友人が反応した。
「いや、ね。お隣さんが高校3年生なのよ。部活に熱心な子で、朝早くから夜遅くまで部活三昧。私にもそういう時代があったなぁって思って。」
「あー、なるほど。舞、頑張ってたもんね。テニス部。」
「あの当時は黒くなってもひたすら球を打ってたなぁ。楽しかったなぁ。」
「県大会まで行ったんだっけ?大学でもやればよかったのに。」
「サークルも楽しそうだったんだけどね。やるなら本気で取り組みたかったから。残念だけど、この大学にそのレベルのサークルはないでしょう?」
「まあ、そうだね。」
「それに、サークル一筋ってわけにもいかないし。」
希望した学部は自分の学力より少し高く、学問を疎かにしたらおそらく授業についていけなくなり単位は貰えないだろう。
就職難な昨今、留年なんてリスクは避けたい。
難しいけれど勉強は楽しいし、友達だっているし、趣味だってある。
だけど、テニスに夢中になっていたあの頃がとても眩しく思えるのは何でだろう?
健ちゃんが眩しく見えるのは…何でだろう?
「舞ちゃん。」
「…あ、健ちゃん。」
「今日はよく会うな。」
駅からの帰り道、何気なしに空を見上げていると後ろから声がかかった。
「こんな暗いところで危ないよ?一人でボーっとつっ立ってるなんて。」
「大丈夫、誰もいないの確認したから。健ちゃんもいま帰り?」
「おう、帰ろうぜ。」
よいしょ、とバッグを担ぎ直して健ちゃんが歩き出す。
それをぼんやりと見ていると、数歩進んだところで彼が振り返った。
私が動かないでいるのを怪訝な顔をして首を傾げる。
「どうしたの?」
「ううん、別に…。」
「そう?なら、ほら。こっち来いって。」
…例えば。
これが数年前で。
私と健ちゃんは好き同士で。
夢だけ見ていればよくて。
いつも他愛ないことで笑っていられて。
思っていることを素直に出すことができて。
そんな関係だったならば、泣きたくなるだろうか?
「舞ちゃん?」
「…何でもない。帰ろう?」
鼻の奥がツンと痛んで、暗い中で瞬いている星がブレる。
体内の空気を入れ替えるように深呼吸して、私は足を動かした。
健ちゃんのそばにいると辛い時もあるけれど…。
健ちゃんを見ていると、元気をもらえる。
健ちゃんのことを考えると、しっかりしなきゃと思える。
…応援しているから。
ずっと応援している。
だから、前だけを見て。
自分が納得いくまで、夢を追いかけて欲しい。
2016.02.01. UP
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夢幻泡沫