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この想いは消せない
01
社会人2年目にして立派な社畜と化した俺に出会いなんてなかった。
…はずなのに、転機をもたらしてくれたのは他でもない風祭だったりする。
ムリヤリ連れて行かれた合コン。
そこで出会ったのが、若葉だ。
最上若葉、4つ下の20歳。
琉生と同い年…若いな…。
地方から上京していて、こっちにあまり知り合いがいないんです…なんてちょっと寂しがっていた顔にグラッときた。
何回か会っていくうちに。
意外と負けず嫌いなところや、そのくせ涙もろいところに、何と言うかこう守ってやりたいと強く思うようになった。
『付き合わないか?』と言った俺に目を丸くして驚いた後、はにかんで笑う若葉をカワイイと思った。
「若葉、悪い。待たせた。」
今日こそはと仕事場を早く出たつもりだったが、待ち合わせ場所に着いたのは時間を過ぎてから。
若葉は何も頼まずに、スマホをいじって待っていた。
俺が声をかけたのに気がつくと、首を左右に振ってスマホをしまう。
「そんなに待ってないよ。」
「だが、待っただろ?」
「まあ…少しね。でもホント、そんなに待ってないから。それより、お腹が空いちゃった。」
「詫びだ。何でも好きなもん頼んでいいぞ。」
「やった!…お酒は?」
「そういう店だろうが。」
苦笑しながら備え付けのメニューを開いてやる。
若葉はどれにしようかなあ、なんてペラペラめくりながらデンモクに注文を入れていった。
「…おい。クリーム系ばかり頼むな。」
「何だっていいって言ったの、棗だよ?」
「確かに言ったが…俺が食うもんがないだろ。」
「一緒に食べようよ。」
「クリーム系は苦手だって言ってるだろ…」
「む〜…じゃあ、これ。ノーマルとスパイスとどっちがいい?」
「…スパイス。」
「こっちは?どのソースにする?」
「わさび。」
「わさび〜!?私が苦手って知ってるのに。」
「お互い様だろ。」
「ジョッキ生?」
「ああ。」
「私は〜…」
何度も居酒屋に来てれば、頼むものなんて分かってくる。
若葉は俺が好むものもいくつか頼むと送信ボタンを押した。
しばらくして運ばれてくる料理と飲み物に、ネクタイをはずしてグラスをカチンと合わせる。
「お疲れさん。」
「お疲れ様。」
話すのは若葉の方が多い。
大学で何をしてるとか、カテキョのバイトが面白いとか。
俺があまり話さないのは、男が年下の女に仕事のグチを零すなんて格好つかないと思ってるから。
「それでね、左門君の成績が上がってね、左門君のパパとママに喜んでもらえてね、それでね、あのね…」
若葉が弥みたいなしゃべり方をするようになると、だいぶ酔ってきたという事で。
「そろそろ出るか。続きは俺の部屋でな。」
「あ!そしたら観たいDVDがあるの。レンタルショップに寄っていい?」
「ああ。明日は休みだからな。いつまででも付き合ってやる。」
「わ〜い!棗、ありがとう。」
「その代わり、オマエも俺に付き合えよ?」
「ん?何に?」
「何って…分かるだろ?」
耳に唇を寄せて囁けばビクリと反応する若葉に、クツクツと喉が鳴る。
「何を想像した?ヤらしいな。」
「…ヤらしいのは棗だもん。」
上目遣いで睨んできたってカワイイだけだ。
人目を盗んだキスを押しつけ、伝票を持って席を立つ。
若葉は真っ赤な顔をして口をパクパクさせた後、慌てて荷物を纏めて追いかけてくる。
店の外でようやく追いついた彼女の手を握り、帰宅ラッシュがだいぶ緩和されたであろう駅に向かった。
ずっとこんな調子だったから、俺達の間に不穏なんて感じていなかった。
俺が仕事で忙しい時は、ラインでやり取りをするぐらいで。
初めからそうだったから、若葉はそういう類の人間だと思っていた。
年末はオモチャ屋にとって一番の稼ぎ時で、付き合って初めてのクリスマスは確認するまでもなく仕事が入っていた。
「…悪い。」
「え?仕事なんでしょ?」
「そうだが…」
「ん〜…じゃあ、あのメンドくさいセリフ言ってもいい?」
「は?」
「仕事と私、どっちが大事なの?」
「…」
「…って言われたら、棗は冷めちゃうでしょ。それに仕事でどうしようもない時がある事くらい、私にだって分かる。」
「…悪いな。」
「ううん。のんびり過ごすから気にしないで。」
「週末は必ず空けるから。クリスマスからは遅れるが、一緒に過ごそうぜ。」
「うん。楽しみにしてる。」
通話を切って少しだけ物足りなさを感じながらも、仕事へ戻る。
それからは本当に地獄で、ラインも最低限しかできなかった。
クリスマス当日は、外回りで関連商品の売れ行き具合を確かめて回っていた。
やはり子供達はクリスマスにおねだりをするらしく、ソフトを中心に販売数が伸びていて嬉しく思う。
…思えば。
調子に乗ってどんな客層か実際に見てみようと、バックヤードからフロアに出たのが間違いだったのかもしれない。
「…若葉?」
ゲームソフトのコーナーには親子連れが数組いた。
その中で一人、ソフトをいくつか手にして眺めている女性は俺の彼女で。
遠目に見てもめかしこんでいるのが分かる。
これからどこかに出かけるのか?
こんなところで何やってんだ?
そう声をかけようとしたら、男が若葉の側に寄ってきた。
若葉も楽しそうにソフトを見せて、たぶんどれにしようかなあなんて話しているんだろう。
最終的に残った2本を、男が両方とも若葉から取り上げて。
若葉は嬉しそうに男の腕に巻き付いた。
ああ、2本とも買ってやるんだな。
あの男が、若葉に。
傍から見て、それはとても仲が良さそうで。
自社のソフトが売れたのに、ちっとも嬉しくなかった。
大体、あの男は何なんだ!?
クリスマスを一緒に過ごす男女なんて、そんな関係しかないだろう!?
だが、若葉は俺の彼女で。
だけど、俺に会う時以上にキレイな格好をしていて。
…訳が分からない。
ざわつく心を押し込めて、俺はそこを離れた。
2017.03.13. UP
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夢幻泡沫