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この想いは消せない
02
「なあ、若葉。」
「ん〜?」
「オマエさ、クリスマスどうやって過ごしたんだ?」
週末。
待ちかねたように若葉の家へ行った俺を、若葉はニコニコと出迎えてくれた。
中に入ると新しいゲームソフトが2本、ローテーブルの上に置いてあった。
…あの時のだ。
協力プレイしてよ。
そう言って準備を始めた若葉に、チリと胸が焦げる思いがする。
コントローラーを渡されて、ゲームのBGMが鳴り出しても、焦げつきは治らなかった。
ウダウダと考えるなんて俺らしくない。
直球で聞いてみたら、画面に集中していた瞳がこっちを向いた。
「…どうやってって?」
「一人で過ごしたのか?」
「あ、ううん。パーティーにお呼ばれされたよ。」
「パーティー?」
「うん。予定がないって言ったら『せっかくだから来れば?』って言ってくれてね。ローストビーフ、美味しかった!」
…聞きたい事はそんな事じゃない。
「どこのパーティーだ?」
「どこって…う〜ん、お兄ちゃんの仲間内の?」
「お兄ちゃん?」
「あれ?知らないっけ?私、お兄ちゃんがいるの。26だから棗の2こ上?」
「初めて聞いたぞ。」
「そっか。棗はたくさん兄弟がいるんだったよね。」
それなら、あの男は若葉の兄さんなのか?
…いや、全然似てなかったような気がする。
そしたら、その仲間内の誰かか?
だとしたら、親しすぎないか?
自分から腕に抱きつくって、相当気を許してないとできない事だと思うんだが。
チリチリと広がる胸の焦げつきに呼応するように頭の中が黒くなっていく。
「あっ!棗っ!!」
「…あ。」
「も〜!どうしたの?棗らしくない!」
珍しく若葉より早く脱落してしまった俺に、若葉がため息をつく。
「アドバイスもくれないし…何か考え事?疲れが抜けてない?」
「いや…何でもない。悪かったな。」
「ううん。棗が乗り気じゃないし、今日はゲーム止めとこうね。」
「ああ。そういやオマエ、年末はどうするつもりだ?」
「実家に帰るよ。お盆とお正月ぐらいは顔を見せろって言われてるし。棗は?」
「俺はギリギリまで仕事だ。終わったら俺も実家に顔を出すかな。」
「じゃあ、またしばらく会えない?」
「…3が日明ければ、どうせまた仕事だろうしな。」
「社会人は大変だねえ。」
「せいぜい今のうちに楽しんでおけよ。学生なんてあっという間に終わっちまうぞ。」
「知ってる?学生の冬休みは長いんだよ?」
「留年しないようにな。」
バカにして〜!と叩いてくる若葉は隠し事をしているようには見えなくて。
…俺の勘違いだろう。
年が明けて少し経ってから、若葉からこっちに戻ると連絡が入った。
次に会う時に棗のお誕生日お祝いしようね、なんてカワイイことを言ってくれた若葉だから。
予定より早く終わった仕事に、連絡も入れずに駅まで迎えに行った。
改札から出てきた若葉は意外にもコンパクトな荷物しかなくて、実家帰りの人間だと思えなかった。
「若葉。」
「っ、棗!?」
「時間ができたから迎えに来た。…けど、思ったより身軽だな。」
「うん。だって…」
「若葉。」
嬉しそうに駆け寄ってきた若葉の後ろから、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
…下の名前を。
「私の荷物、政宗に持ってもらってるから。」
「政宗…?」
「若葉。勝手に先に行くな。逸れるだろ。」
大きな荷物を2つ抱えた男が若葉を呼び捨てにする。
呆れた声音とは裏腹に若葉を見る目はとても優しくて、俺は頭を殴られたような気がした。
「政宗が遅いんでしょ。」
「…おい。」
「ん?なあに、棗。」
「…そいつは…誰だ?」
「…お前こそ誰だ。」
右目は髪で隠れているその男は、眼光鋭く俺を上から下まで舐めるように見てくる。
不愉快極まりない。
「ちょっと2人とも!こんなところで睨み合ってないでよ。」
「…若葉は黙ってろ。俺は朝日奈棗だ。若葉と付き合ってる。…オマエは誰だ?」
「…伊達政宗。そうか、お前が噂の棗とやらか。残念だが、若葉には俺の方がふさわしいな。」
「ちょっと政宗!!何でそんなこと言うの!?」
「本当の事を言ったまでだろ?いいから帰ろうぜ。疲れた。」
「…若葉。オマエ、浮気してたのか…?」
「ちがっ!!棗、違うっ!!」
「ソイツ、見たことがある。クリスマスの時、オマエと一緒にいたよな?」
「えっ…棗、見てた…の?」
「…見てたんだよ。若葉がソイツの腕に抱きつくのも、ソイツがオマエの肩に手を回すのも。」
「なんだ、声かけてくれればよかったのに。」
「そんなとこ見て、声なんてかけられるか?…最低だな。」
手ひどく裏切られた。
この場になんかいたくない。
俺は吐き捨てるように言うと、目を丸くしている若葉を置いてその場を去った。
「え…ちょ…っ、棗っ!待って!!」
後ろから若葉の焦る声が聞こえてきたが、足を止めるわけがない。
一秒でも早くこの場を去りたかった。
それからずっと若葉から着信もラインも来ていたが、見向きもしなかった。
言い訳を聞きたくなかった。
若葉は浮気をしていたわけで。
俺は2股を掛けられたわけで。
「…最悪だな。」
「何が?」
「…風祭。」
「よっ、お疲れさん。何が最悪なんだ?」
「…何でもねえよ。」
「あーっ!朝日奈が俺に隠し事するわけー?」
「…何でオマエに何もかも話さなきゃいけないんだよ。」
「だって、俺と朝日奈の仲じゃん。何が最悪なのかな?ん?話してごらんよ、朝日奈君。」
「気持ち悪いぞ…」
「いいから、ほら!」
狭い喫煙ルームの中でさらに近寄ってくる風祭にイラッとしたが、若葉との出会いはコイツに連れられた合コンが出会いだった。
なら、一応話しておくか。
新しいタバコに火をつけて一服吸う。
長く息を吐き出してから、俺は風祭に報告をした。
「…若葉と別れた。」
「えっ!?若葉ちゃんって、あの時の子だろ?」
「そうだ。オマエにムリヤリ連れてかれた合コンで知り合ったアイツだ。」
「え…どうして?」
「若葉が浮気してた。」
「はっ!?マジで!?」
「マジ。」
「…えー…ウソだろ?あの子、そんな風に見えなかったぞ。」
「だけどそうだったんだ。」
「えー…マジで?ちゃんと話聞いたのか?」
「聞くも何も、浮気現場おさえた。」
実家から一緒に帰ってくるなんて、よっぽど深い仲だろうが。
…ちょっと待て、むしろ俺の方がアソビだったのか?
今さらながら嫌な事実に気がつく。
「マジでー!?」
「しつこいな。ほんとだ。」
「だって、若葉ちゃんだろー?えー…朝日奈の勘違いじゃなくて?兄弟とかさ、単なる友達とかさ!」
「名前は聞いたが、名字が若葉と違ってた。若葉の実家からの帰りに、若葉の分まで荷物を持ってたんだぞ。」
「…えー、若葉ちゃんがー…?マジかー…信じらんねー。一度ちゃんと話してみろって。それで別れる事になったって遅くないだろ?」
「もういいんだ。」
半分も吸っていないタバコを灰皿にギュッと押しつける。
「分かった!今日は飲もう!」
「は?仕事が残ってるだろ?」
「だーい丈夫だって!終わらせるから!!」
「信用ならねえ…。」
「そうと決まれば、俺がんばっちゃうもんね!お先に!!」
後から来たはずの風祭が先に喫煙ルームから出ていく。
はあ…椿を見ているようだ。
でも、まあ…。
気が少し楽になったのは助かったか。
風祭におごらせるためには、俺も仕事を終わらせなきゃいけない。
うんと背伸びをして、俺もデスクに戻った。
2017.03.27. UP
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夢幻泡沫