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この想いは消せない

03



仕事に目途をつけ、風祭と連れ立って会社を出る。
その途端、苦虫を噛み潰すような顔をする羽目になった。

「Hey.」
「…」
「無視すんなよ。俺の事、分かるだろ?」
「…分かりたくもねえ。」
「ずいぶんな言いようだな、おい。」

クックッと笑うその顔は男の俺から見てもイケメンだが、俺にとっては悪夢そのものだ。
関わりたくもないので避けるようにして進もうとすれば、待てよと肩に手を掛けられた。

「…気安く触るな。」
「こうでもしねえと、お前は止まんねえだろ?」
「止まる必要がない。」
「…ねえ、朝日奈。この人、誰?」
「…若葉の浮気相手だよ。」
「えっ!?この人が!?」
「ああ。」
「うひゃー、ちょっと危ない感じのイケメン!若葉ちゃん、やるねー。」

無遠慮に風祭がジロジロとソイツを見る。
いいぞ、もっとガンつけてやれ。

「…そのことだが。」

風祭の視線など気にも留めずにソイツが俺に話を振ってくる。
ふてぶてしい野郎だ。

「あ?」
「若葉だよ。お前と連絡がつかないってかなり落ち込んでる。」
「…だから何だ。」
「俺は若葉とお前が別れることを望んじゃいるが、若葉が悲しむ顔は見たくねえ。」
「…俺はキープにでもなってろ、と?ふざけんなよ。」
「お前、可愛くねえなあ。」
「…」
「俺と勝負しろよ。お前が勝ったら引き下がってやる。」
「…そんな勝負に乗るわけないだろ。」
「ほう?なら、本気で若葉と別れるつもりなんだな?俺は一向に構わねえぞ。」
「…」

ああ、そうだ。
…と即答できないのは、まだ吹っ切れていないからなのか。
いや、違う。
混乱しているだけだ、きっと。
風祭の言う通り、一度きちんと話し合った方がよかったのかもしれない。

「…分かった。」
「An?」
「その勝負、受けてやる。」
「Ha, 威勢のいいガキだ。」

鼻で笑うソイツに負けじと、グッと拳を握りしめて睨む。
風祭に飲みに行けないと断ろうとすると、面白そうだから付き合うととても乗り気な答えが返ってきた。

「でもさー、お2人さん。勝負するって何で?」
「Ah?そうだな…」
「考えてなかったのかよ…」
「じゃあさー、ここは公平に第3者の俺が決めるでどお?」
「いいぜ。」
「ああ。」
「えっとー、そしたら…あ、ゲーム!アーケードゲームがいいんじゃねー?今はやってるじゃん!確か、駅の反対側にゲーセンあったよな。」

なぜか先頭で歩き出した風祭の後についていく。
人気なだけあって、そのゲームの周りにはそこそこの人だかりができていた。

「やっぱ人気だねー。」
「おい、このゲーム…」
「ん?ライバル会社のだけど?朝日奈、やったことぐらいあるだろ?」
「そりゃ、あるにはあるが…」
「イケメンお兄さんはやったことある?」
「Ah?ああ、まあ…」
「じゃあ、ルールとか説明しなくていいよね。朝日奈もお兄さんも上手そうだから、楽しみだなー!」

順番が回ってきて、俺とソイツはプレイ台にあがる。

「設定は決めさせてやるよ。」

コントロール代わりのガンを片手に、上から見下ろすようにソイツが言ってきやがった。
…余裕なのも今のうちだけだ。
協力モードではなく、対戦モードを選ぶ。
どっちが多く敵を倒すか点数を競えば、結果なんて一目瞭然だろ。
負ける気がしねえ。

「朝日奈ー、頑張れー!お兄さんも頑張れー!!」

風祭の声が合図かのように、ゲームが始まった。
序盤はノーミスで通過したが、段々と敵も強くなってくる。
…それにしても。

「Ha!なかなかやるじゃねえかっ!!」
「…オマエもな。」
「すっげー!2人ともぶっちぎりじゃんかーっ!!」

思ってた以上にやってくれる。
倒しがいがある…が、気が抜けない。
いつの間にか勝負だと言う事を忘れて、ゲームに集中していた。
気がついた時には、勝負がついていて…。

「棗っ!!」
「…若葉…」
「やっと捕まえたっ!」

若葉が俺の腕を掴んでいた。

「若葉っ!その手を離せっ!!」
「うるさいっ!こうなったのって政宗が原因でしょ!!…棗、話を聞いて。」

途中で脱いだジャケットを着ようにも、若葉が手を離さずに着られない。
ハイスコアを更新したからか周りもざわめいていて、とにかくこの場から離れたかった。

「…分かった。」
「政宗も一緒に。それから、ええと…風祭さんでしたっけ?あの時は楽しかったです。…もしかして関係してます?」
「あー…コレ持ちかけたの、俺。あと、一応グチみたいなもんは聞いたかな。」
「じゃあ、風祭さんも一緒に話を聞いてくれますか?」
「俺は別にいいけど…。朝日奈、いい?」
「…ああ。」

そそくさとその場を後にして、近くの居酒屋へ移動する。
妙なメンツで居心地は悪かったが、若葉の話を聞こうと思えた。
昼間に風祭に言われたからか。
それとも、ゲームでアイツに勝ったからか。
スッキリとした気持ちが自分でも意外だった。



「はあっ!?」
「…だから、政宗は私のお兄ちゃん。」

乾杯をしなかったグラスを傾けていた俺に、若葉の言葉は衝撃すぎた。

「え…だって…オマエ『最上』だよな?ソイツ、『伊達』じゃなかったか?」
「そうだよ。政宗のお父さんと私のお母さんが再婚したの。」
「勝手に勘違いしている奴になんか、若葉は任せられないな。若葉、いい機会だ。別れろ。」
「嫌よ。私は棗が好きなの。」
「おまっ…!俺のこと、好きって言ってたじゃねえかよっ!!」
「政宗に対する好きと棗に対する好きは違う。」
「…ちょっと待て。再婚したんなら若葉は何で『伊達』じゃないんだ?そもそも顔つきも全然違うし、名字も違うから、俺はコイツのこと…」
「『伊達』になってもよかったんだけどね。親が再婚したのって私が大学に入ってからなの。また10年もしないうちに名字が変わる可能性があるでしょ?何回も変えるのもなー、って思って私だけそのままの名字にしたの。家族みんな納得してくれてるよ。ね、政宗?」
「ああ。そんな小さな事にこだわる必要ねえな。」

若葉の頭を優しく撫でるコイツに腹が立つ。
コイツ、伊達って言ったよな?
間違いなくシスコンだろ。

「若葉ちゃん、俺も聞いていい?」
「何ですか、風祭さん?」
「うん、何で伊達さんのことを名前で呼んでるの?だから朝日奈が勘違いしちゃったんじゃん?」
「あ〜…ちょっと事情があるんですけど。私と政宗、小さい頃からの知り合いなんです。兄弟みたいに育ってきたから、ホントの兄弟になるのは抵抗なかったんですけど。『お兄ちゃん』って今さら呼ぶのもなあって思ったし、政宗も拒否してきたし…それで、ずっと同じ呼び方で呼んでいるんです。」
「…だって、朝日奈。納得した?」
「…ああ、まあ。」
「納得しなくてもいいぞ。別れるんなら幸いだな。」
「もうっ!政宗、邪魔!!帰って!!」
「おい、若葉!?」

若葉がアイツの荷物を纏めてグイグイとテーブルから押し出す。
ぎゃあぎゃあと文句を言い合っている若葉達を呆然と見ていると、風祭が俺の頭を乱暴に撫でた。

「よかったじゃん、朝日奈。誤解、解けただろ?」
「…ああ。」
「『別れた』宣言は撤回な?」
「そうだな。」
「お兄さんは俺に任せとけって。若葉ちゃんとごゆっくりー!」
「っ…風祭!」
「んー?」
「…サンキュ。」
「今度おごれよ!」

にかっと笑って席を立った風祭が、若葉達に割り込んでいく。
そして、入れ替わるように若葉が戻ってきた。

「…棗。」
「…アイツは兄貴なんだな?」
「そうだよ。さっきも言ったけど、政宗に対する好きと棗に対する好きは違うからね!」
「どんな風にだ?」
「分かってるでしょ。政宗の好きは、兄弟の好き。棗の好きは、恋人の好き。」

…きっぱりと言い切りやがった。
若葉の言葉に頬が熱くなる。

「政宗のことは好きだけど、一緒にいても落ち着くだけ。棗は…一緒にいるとドキドキする。いろんな気持ちが一気に来て、言葉にするのが難しいの。私は棗と一緒にいたい。棗が好き、大好き。」

何も返せなかった俺に、若葉が正面からぶつかってきた。
…情けない。
年下の女にこんなこと言わせるなんて。
勝手に誤解したのは俺なのに。
若葉はきちんと話そうとしていたのに。
悔しさで顔が下を向く。
…違うな。
悔しさだけじゃない。
嬉しいんだ。
こんなにはっきりと言ってくれた女は、若葉が初めてだったから。
それなら…。
全力で返すのが、俺だろ。

「悪かった。話も聞かず、一方的に若葉を責めていた。オマエが俺のことを好きだと言ってくれて嬉しい。俺も若葉が好きだ…愛している。」
「な、つめ…」
「俺達、やり直すことはできるか?」
「…もちろん!」

帰ってきたのは、言葉と若葉自身。
ぎゅうと抱きついてきた俺より小さな体を、しっかりと抱き返す。
元に戻れてよかった。
心底そう思う。
俺は…やっぱり若葉のことを愛しているんだ。


2017.04.03. UP



140000HITS記念リクエスト。
いくこ様からの『棗彼女。兄だと分からずに勘違いした棗が夢主に冷たくし、それで落ち込んでいた妹を見かねた兄がケンカを売る。』です。
お兄さんはできれば政宗様で、ということでしたので。
初めて違う作品の登場人物を出演させてみました。
オチはどちらでもよいとおっしゃって下さったので、やっぱり彼氏に花を持たせてあげたいなぁとなっくんを選びました。
当サイトではちょっぴり不憫ななっくんが少しでも救われてたらいいんですけど…。

いくこ様、どうもありがとうございました。
なっくんは幸せになれそうですかね?




(3/3)


夢幻泡沫