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本当にほしいと思うもの

06



「今日の姉さん、かっこよかった。」
「ん?」
「撮影の時の話。」
「ああ…」
「ほとんど裸の状態だったのに、ハサミを振り回している相手に向かっていくなんて信じられなかったけど。」
「んー、でもあれが私の仕事だから。」
「姉さんの体に傷がついたらどうするの?せっかく綺麗なのに。」
「仕方ないんじゃない?それが仕事だもん。」
「…姉さんって自分の事に無頓着すぎ。」

けろりとしている絵美に、風斗は呆れたように肩をすくめる。
いつものように夜遅く、リビングには2人以外いない。
風斗はカチャカチャと食後のお茶を用意している絵美に、ひっそりと視線を送った。
ジャケットだけ脱いだスーツ姿の下には、一日中見ていた下着姿があって。
恋人同士という設定でベッドの中で触れていて。
女性らしい肢体に自分の身体が反応しないように精一杯頑張った。
はっきり言おう。
拷問だった。
だけどその分、雰囲気は出せて快調に撮影は進み。
そのあと起きたアクシデントには、本当に息をのんだ。
男として守りたかったのに。
その相手はあられもない姿のまま颯爽と自分から離れていってしまい。
流れるような身のこなし。
アクション映画を見ているようなスマートさ。
それでいて一撃で片をつける強さ。
現実離れしていた。
…やっかいな人を好きになってしまったものだ。
だけど、それが自分らしい。
風斗は目を瞑って息を吐き出すと、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

「…風斗?どうかした?」
「姉さん…」

音に反応して視線を上げた絵美のところまでいくと、後ろからさらりと髪を手で梳いた。

「…こっち向いて。」
「風斗?」

絵美は言われるままに振り向き、首を傾げて風斗を見る。
女性にしては少し背の高い絵美だが、風斗はそれよりも高い。
自然と見上げる形になった義姉の頬に手をすべらせると、風斗はそっと囁いた。

「姉さん、好きだよ。」
「ふ、っ…んっ…!」

自分の名前を呼ぼうとした唇を塞ぐ。
隙間に舌を割り込ませ、絵美の舌を絡め取るように動かした。
下手だっていい、背伸びだと思われても構わない。
しつこく何度も何度も角度を変えて追い縋っていく。
薄目越しに絵美を見れば、苦しそうな表情で頬が赤らんでいた。
やがて観念したように絵美が風斗の胸を叩く。
リップ音を残して唇を離すと、濡れて光っていて目に毒だった。

「…なん、で…」
「今の僕じゃ姉さんに敵わないのは分かっている。だけど、好きなんだ。」
「あのねえ…風斗ぐらいの子からしてみれば、私は立派なオバサンでしょうに。」
「好きになったら年とか立場とか関係ないでしょ。僕は姉さんが好きなの。僕のものになってよ。」
「…」
「…って、今は言えないのは分かっている。だから、見ていて。近いうちに…そうだな、あと3年もあれば充分。姉さんが…みんなが何も言えないくらいの男になるから。」
「風斗…」
「僕を選びなよ。姉さんが欲しくてたまらないんだ。」
「…そう言うのはまだ早いでしょ…」
「覚悟しとけば?年とか立場とか、そう言うどうでもいい境界線なんか越えてみせる。絶対に捕まえるから。」

にやりと笑って風斗は顔を近づけた。
思わず目を瞑った絵美の顎を掬い、唇にもう一度口付ける。
呆然と唇を手でおさえている彼女にケラケラと笑うと、風斗はポンポンと頭を撫でた。

「これからの僕のこと、しっかり見ててよね。おやすみ、絵美さん。」

玄関が閉まる音が聞こえるまで動けなかった。
絵美は力が抜けたようにその場にしゃがみ込む。

「な…」

言葉が出てこない。
弟にしか思ってなかった存在からの、まさかの告白。
けれど言動は『男』そのもので。

「な…ちょ、え…ええっ!?」

パニックになった頭を抱え込むようにして、絵美は顔を隠した。


2017.06.12. UP



140000HITS記念リクエスト。
れっど様より『風斗夢。絵麻姉で芸能人とボディーガードの話』です。
ふーたんは生意気だし、エロいし、エロいし、エロいし…。
だけど、そんな彼が年上のお姉様に軽くあしらわれているのってかわいいと思います。
『今まで世界各国VIPのSP経験がある凄腕のボディーガード。芸能人の身辺警護を担当する。』という設定をいただいたので、このお姉様はできるお方だなと。
だったらふーたんを振り回しちゃえ!
…と思ったのですが。
最後に逆転する辺りがふーたんの風斗たる所以だと思います。

れっど様、長らくお待たせ致しました。
楽しんでいただけたのなら幸いです。




(6/6)


夢幻泡沫