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それは、甘い
01
私は疲れていた。
それは間違いない。
だって11連勤もすれば、誰だって疲れるじゃない!?
ようやく仕事に目処が立って、上司からもお許しをもらい。
限界だった体に鞭打って自宅に帰ってきたのが昨日の夜。
フラフラだった。
だけど、きちんと鍵を二重に掛けたし、チェーンだってきっちりした。
窓だって開けてない。
余計な事は何にもしてない。
メイクを落として、着替えて、ベッドに入っただけ。
お腹は空いてたけど、体が欲しがっていたのは睡眠。
だから、貪るように布団にくるまって寝た。
はず、なんだけど…
この状況は…何!?
「おはよ、動かないでね。」
目を開けた途端、アップでイケメンが現れた。
…のは、いいんだけど…いや、よくない。
両手を頭上で纏めて掴まれ、イケメンのもう片方の手で首を掴まれている。
そう、首。
ご丁寧に頸動脈を抑えてくれているイケメンに逆らったら。
たぶん、殺されるんじゃない…?
「俺様の質問に答えてくれる?」
にっこり笑っているその顔に親しみや優しさはない。
パニックになった頭では何も考えられず、震えるように頷くしかできなかった。
「ここはどこ?」
イケメンの質問に目だけキョロリと動かして場所の確認をする。
ほら、もしかしたら…もしかしたら、知らないうちに夢遊病とかになってるかもしれないし?
でも…
「わ、たしの、へや…」
掠れた声しか出なかった。
いや、しょうがない。
よく声が出たもんだ。
頑張った、私!
「だろうねえ、ぐっすり寝てたもんね。そうじゃなくて、地名。甲斐?奥州?四国?安芸?京?外、俺様が見た事のない景色なんだけど。」
…イケメンの質問がよく分からない。
だって、甲斐も奥州も昔に使われてた地名だし。
外の景色って…どこか変わっている場所でもある?
「…そと、みたい…」
「え?」
「そ、と、みたい…です…」
「は?なに言ってんの?俺様達を拐してきたのはアンタでしょ!見なくたって分かるじゃん!!」
「かどわ、かす…ゆう、かい?そんなことっ…!」
するわけない!
と言いたいのに言えなかった。
思わず起こそうとした体をイケメンががっちり押さえてくれたから。
束ねられた手首と、首だけで。
「っ…ぅ、ぐっ…ごほっ…」
「動かないでねって言ったでしょ?アンタを殺すぐらい簡単なんだよ。俺様がちょ〜っと力を入れれば、ね。死にたくなきゃ答えれば?ここはどこ?」
「…」
「死にたいの?」
「…ゆうかいなん、て…してない、です…そっちが、ごうとう…しに、きて…」
「強盗?馬鹿にしないでくれる?そんなことする必要なんか俺様達にはないんだよ。いいから、ここはどこ?」
怖いくらい抑揚のない声で言われて涙が滲む。
呼吸できるくらいには気道を確保されているはずなのに、息苦しさが拭えない。
だんだん息が浅くなってきているのが分かる。
「ていこう、しませんから…そと、みせて…」
「…変な事したら即殺すからね。」
やっと、本当にやっと。
イケメンがどいてくれた。
おそるおそる上半身を起こしてギョッとする。
広くもない私の部屋。
頬に傷のある強面のイケメン、大柄でイイ体をしている左目を隠したイケメン、髪がものすごく長いこれまた大柄なイケメン。
その後ろに隠されているように座っている赤と青と緑の可愛い子供達。
…美形だらけだわ。
と言うか、この部屋にこんだけ人が入れるんだ。
どうでもいい事を考えられるあたり、現実逃避をしているというか。
『怖い』という感覚が麻痺してしまったみたい。
そろいも揃って不審者を見るような目で私を見てくる彼らを認識した後。
ギギギ…と首を回して、いつの間にか後ろにいる初代イケメンに聞いてみた。
「…おなかま、です…か?」
「アンタに関係ないでしょ。早く外を見れば?」
「…」
コントローラーで動かされているようにぎこちなくベッドを下りる。
おぼつかない足取りで窓まで行き、カーテンを開ければ眩しさに目がくらんだ。
眉を寄せ、目を閉じる。
そして少しずつゆっくりと明るさに慣れるように目を開けていく。
窓から見えた景色は何の変哲もない風景だった。
「…同じ事聞くよ。ここは、どこ?」
「わたしの家…東京…」
「とうきょう?聞いたことないんだけど。嘘ついてもアンタの身にいいことなんてないよ。」
「は…え…?東京を知らない…?え…どこから来たんですか?」
聞いてからふとさっきのイケメンの言葉を思い出す。
甲斐…って山梨だよね?
奥州は…東北。
四国はいいとして、安芸は広島。
京はきっと京都の事。
え…なんで昔の地名なの?
もう一度イケメン達を見る。
みんな、見事に着物や袴をはいている。
初代イケメンだけは…迷彩柄のよく分からない、でもよぉくよぉく見れば忍者っぽい格好をしてないでもない。
「…忍者?この時代に?」
ポツリと零した言葉に部屋の空気が止まった。
同時に嫌な予感をビシバシ覚えて、背中に冷や汗がすうっと流れる。
「東京…江戸、いえ…武蔵と言えば分かりますか?」
「…武蔵?アンタ、北条の手の者なわけ?」
初代イケメン改め、迷彩イケメンの言葉。
パニックを通り越して変に冷静になれた。
いや、頭の中は真っ白だし、視線は定まらないけれど。
「ウソでしょ…え、ウソ…」
まさか、そんな。
あり得ないし。
でもさっきの感触は本物だし、苦しさや怖さも本当に感じた。
ドクリと鼓動が鳴り響く。
「…取りあえず、庭に出ませんか?」
この変な空気から逃げたくて出たのは、突拍子もない提案だった。
2017.07.03. UP
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夢幻泡沫