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それは、甘い
02
私の家は東京都下にある。
23区ではない、と言えば分かりやすいだろう。
社会人数年目が一戸建てを賃貸できる場所は都心からは遠いが、庭付きで隣とも少し距離のある場所。
会社から補助してもらっているおかげだ、ありがたい。
ご近所の目もあまりないのをいいことに、パジャマに上を羽織っただけの状態で庭に出る。
私だけサンダルを履くのはご愛嬌と言う事で、イケメンズは裸足のまま。
だって人数分なんてないもん。
移動する際に家の中を物珍しげに見回す彼らにとって、我が家にあるものは見た事のないものばかりだという事が容易に分かって頭が痛くなる。
時計をちらりと見れば既に夕方で、一体どれだけ寝てたんだと自分でショックを受けた。
「…聞きたい事を一つずつどうぞ。」
彼らに促せば、さっと目配せを交わした後に迷彩イケメンが前に出てきた。
「まず、アンタの名前。」
「名前を教えるのはいいですけど、あなた方の名前も教えてもらいます。」
「アンタに言う必要はない。」
「それならば、私も教える必要はないです。」
「分かってないね。俺様がその気になればアンタなんかすぐ殺せるんだよ。」
「そちらこそ分かっていないですね。私がこの場で殺されれば、警察がすぐに動きます。何のために庭に出たと思うんですか?」
死体が見つかりやすいように。
異変を気付いてもらえるように。
はったりをかませ、相手にのまれるんじゃない。
自分を励ましつつ理由をつらつらと述べていく。
「…それと、あなた方に外の様子を分かってもらうためです。」
最後にイケメンズのためでもあると言えば、え?と迷彩イケメンがキョトンとした。
「ここなら出ようと思えばすぐに出られますよね?強盗でないのなら…あなた方を見なかった事にしますので、出ていってください。」
お願い、出ていって。
私は平穏に暮らしたい。
迷彩イケメンから目を逸らさずにいたら、向こうから逸らした。
「俺様、ちょっと探索に行ってくる。その女が変な事しないか見張っててね。」
言うが早いか、目の前から迷彩イケメンが消える。
「は…え…えぇっ!?」
キョロキョロと忙しなく頭を振っている私を、イケメンズが不審そうに見ていた。
「…駄目だ、お手上げ。ま〜ったく分かんない。」
観念の言葉と共に徐に現れたのは、迷彩イケメン。
えっ、ちょ…10分も経ってないと思うんですけど!
探索するならもっとしっかりとしてっ!
「…因みにどこら辺まで?」
「ん?あの山から見渡せる範囲で。」
マジですかぁ…
深い深いため息が出る。
これは、もう腹を括らなくてはいけないかもしれない。
「…質問があればどうぞ。」
「…アンタの名前。」
「では、せめてあなたのお名前を。」
「…アンタが先。」
「約束をしていただけるなら。」
「分かった。」
「名前を言う約束ですからね。」
念を押す私に迷彩イケメンが頷いた。
「鈴沢まりです。」
私の返答にイケメンズが驚いたようにこっちを見た。
まぁ…何となく理由は分かるけど。
心持ち姿勢が良くなった彼らに軽く会釈してやると、ますます姿勢が良くなった。
「…猿飛佐助。」
「…本名ですか?」
「あは〜、疑ってんの?真名だよ。」
…頭痛がひどくなる。
だって、猿飛佐助って…
「ここはどこ?」
「東京…武蔵です。」
「俺様達を拐したのはアンタ?」
「違います。」
「俺様達はなんであそこにいたの?」
「私の方が聞きたいです。」
「…甲斐まではどうやって戻るか知ってる?」
「…山梨までなら分かります。」
「山梨?」
「…昔の、甲斐…です。」
あ、また空気が止まった。
窺うように迷彩イケメンこと猿飛佐助を見たら、忍者だって言うのに目を大きく開いて固まっていた。
「…今度は私から聞いてもいいですか?」
「…」
「…猿飛さん?」
「…あー、俺が代わってもいいかな?あ、俺、前田慶次ね。」
後ろにいたイケメンズから長髪の大柄さんが猿飛佐助に近寄ってきた。
「ほら、佐助。そんなに警戒しなくても、このお姫さんなら大丈夫だろ。主のところに戻ってな。」
ポンと肩を押された猿飛佐助が放心しながらイケメンズの方へ行く。
その後ろにいた赤い子が飛び出してきて、だいじないかっ!?と労っている。
なら、あの赤い子は…。
「お姫さん、何を聞くんだい?」
「…あぁ、失礼しました。それと姫なんて大層な身分ではないので、その呼び方は止めてください。」
「えっ!?お姫さんじゃないの?だって氏を持ってるじゃない。」
「この時代の人は誰でも名字…氏を持っているんです。ですから名字を持っているだけで身分が高いとはなりませんので、ご安心ください。」
それでですね、と一番聞きたかったのは。
「なぜ、あの部屋に皆さんはいたのですか?」
「うーん、それが分かってりゃ苦労はしないんだけどねー。でも話をすり合わせると、どうやらみんな急に体がふわりと浮いたかと思ったら気を失ったらしいんだ。で、気がついたら…」
「…私の部屋にいた、と。」
「ご名答。」
にっこりと嬉しそうに前田慶次が笑う。
「…因みに、前田さんは何をしていたんですか?」
「俺?俺は利(とし)の屋敷ん中でまつ姉ちゃんから逃げてた。竜の右目は独眼竜に…」
「おいっ!!軽率に言うんじゃねえ!!」
「あー、ごめんごめん。でもさ、ぼかして言ってたんじゃ、帰れるもんも帰れないと思うけど?それに、このお姫さんは悪い人じゃないって。なあ?」
…いや、振られても困るんですけど。
悪いか悪くないかはそれぞれが判断するものだろうし。
でも。
「私からあなた方に手を出すつもりはありません。…あなた方が私に危害を加えない限り、ですが。」
「ほらね!」
「何でてめえが胸張ってんだよ!?…おい、女!俺はともかく、この御方に何かあってみろ!てめえを…」
「それならあなたはここに残ってください。前田さん、家の中で続きを説明してください。」
「小十郎、おれは中に入るぞ。」
「ぼっ…お待ちください。」
「入るぞ。」
「…御意。」
まるで珍獣を放すようで良心の呵責を覚えなくもないが、中に入るもこのまま出て行くのも自由。
好きにしてください。
2017.07.10. UP
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夢幻泡沫