
Main
それは、甘い
56
「まりどのには、 ごかぞくは おられぬので ござろうか?」
「え?」
「このいえには まりどのしか おられぬ ようす。 まりどのの ちちぎみさまと ははぎみさまは… その、 いらっしゃらぬので…?」
「え…今さら?」
気まずそうに聞いてきた弁に一瞬ポカンとするけど、いるからね。
元気だから!すっごく元気だから!!
「そう言えばまりちゃんの家族の話って聞いたことないよね〜。」
「そうでしたっけ?」
「あー…いないのかい?」
「いるよ。」
「何で離れて暮らしてるんだ?」
「何でって…」
大学へ行こうと思ったけど、地元じゃめぼしいところはなくて。
東京へ出てきて卒業後、サヤカ先輩の会社に就職して。
で、そのまま。
「…今の私の生活基盤がこっちだから?」
地元は好きだけど、こっちで暮らしていくのに慣れちゃったからなぁ。
「まぁ、あまり気にする事じゃないですよ。ちょっと時間はかかりますけど、帰ろうと思えばその日のうちに帰れますから。」
「一度、挨拶に伺った方がいいと思うんだが…」
「挨拶!?そんなのいりません!!」
どんなフラグだって言うの!
この微妙な年齢の私が男を何人も連れて行ったら、盛大な勘違いをされてしまうでしょっ!!
やめてちょうだいっ!!
「ほら、それより弁の番だよ。」
まるくなっているカードを指して言えば、弁が真剣な顔で1枚めくった。
「ああっ… だいやで ござる…」
「弁丸様、ざ〜んねん!」
イイかんじに積み上がっためくりカードを渋々と引き取った弁だったが、両手に余るほどで笑ってしまう。
「弁、こっちおいで。ペアになろう!」
「よいので ござるか!?」
「うん。」
「あっ…!」
「うん?梵、どうかした?」
「…いや、何でもない。」
膝の上に座った弁に見やすいように、カードをマークごとに揃える。
「同じマークは出さないようにねぇ。」
「しょうち いたした!」
なんて最初は威勢が良かったものの、だんだんと動きが鈍くなってくる弁に苦笑する。
久し振りに早く帰れて、せっかくだからと夕飯後にみんなでトランプに興じていて。
時計を見ると、弁達がいつも寝ている時間は過ぎている。
そりゃ眠くもなるって。
「弁?眠くなっちゃった?」
「ねむ、くない…で、ござる…」
「寝ていいんだよ?」
「いやで ござるっ! まりどのと、 こうして いられるのは… ひさしぶり、 ゆえ…」
「ん…と、じゃあ横になれば?弁の代わりにゲームやっとくし。弁が近くにいてくれるの、私も嬉しいよ。」
「まことに ござるか…?」
「まこと、まこと!」
「なれ、ば… よこに なり、もうす…」
「はいはい、どうぞ。」
崩れるようにこてんと横になった弁に、ひざまくらをする。
小さい子にこういう事をする感覚って久し振り。
弁の柔らかい髪で遊んでいると、弁がはにかんで見上げてくる。
ホントに可愛いんだから。
「まりどの、 おうえん しているで ござるよ。」
「うんっ!」
「…ずるいよね、弁丸様。」
「ああ。これだから餓鬼は…」
「佐助も元親もまりちゃんに頼めばいいじゃん。」
「ばっ、馬鹿じゃねえのか!?」
「馬鹿は貴様だ、長曾我部。煩い。」
「松寿!お前、どこに…」
「まり。このようなものが冊子の間に挟まっておったぞ。」
2階から松寿が数冊の本を持って降りてきた。
手には…何だろう?
紙のようなものを持っていて…
「ん?どれ?」
「これは貴様だろう?」
「…松寿。お利口さんだから、それを私に渡そうか?今、すぐ!ねっ!?」
「何故そのように急いておる。」
「いいから、渡しなさい!」
「何ぞ、見られて困るものなのか?」
ホントに分かってない様子の松寿だったけど、あろうことかトランプの真ん中にひらりと置きやがった!!
何てことしてくれたのよっ!?
慌てて立ち上がった私の膝から弁が転がり落ちる。
「…いたいで ござる…」
「あっ、ごめん弁!それどころじゃなくてっ!!ちょっと松寿!」
「何ぞ?」
「何ぞじゃないっ!!返しなさいっ!!」
「ひどいで ござるう…」
「あぁっ!弁、ごめんって…」
わたわたとしている間に、それはもうガン見された。
「…これ、まりか?」
「…」
「そうなんだね?」
「…」
「てめえ、やっぱり…」
ススス…と下がったのは小十郎さんと猿飛さん。
「…え?」
ちょ…何で頭下げてるの!?
意味分かんないんだけど!!
「やはり、どこかの国の姫御前であられ…」
「違いますからねっ!!これは成人式の時の写真です!」
「せいじんしき…?」
「大人の仲間入りをお祝いする儀式です。小十郎さん達のところだと…裳着…じゃなくて、鬢削ぎに当たるのかな?男の子の元服みたいなものです。だから綺麗に着飾って、記念に写真を撮っただけで、みんなこんな格好をするんですからね!」
だから、早く元に戻ってください。
ほら、弁とか梵とか困ってるでしょ!
「まりは姫なのか?」
「違うから!違うよ、梵!!どこにでもいる一般人だからね!小十郎さん達の勘違いだからね!!」
元凶の写真に手を伸ばそうとすると、横からひょいと取り上げたのは慶次で。
…ニコニコと見比べないで。
「やっぱりまりちゃんは綺麗だねー。」
「…着物がね。」
「この絵、貰ってもいい?」
「あげないっ!返してっ!!」
眠さに負けてもう一度ひざまくらで眠ってしまった弁さえいなければ取り上げるのに…。
ぐっと握りしめた拳は、弁の頭を撫でることで消化した。
2018.08.27. UP
← * →
(56/96)
夢幻泡沫