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それは、甘い

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「いやー、それにしても本当に別嬪さんだねー。」

あれからトランプはぐちゃぐちゃになってしまって、勝負どころじゃなく。
変な感じにキリもよかったので、子供達は寝かせた。
弁はテコでも動こうとしなかったので、ひざまくら継続中。

「…そんなにまじまじと見る物でもないから。ホント、もう返して。」
「えー!?」
「ほら、慶次!」

ようやく写真を取り上げたところで、小十郎さんが神妙そうに聞いてきた。

「なあ、まり。さっきの話を蒸し返して悪いが…」
「何ですか?」
「俺達はまりのご家族へ挨拶に伺った方がいいと思うぞ。てめえにこれだけ世話になってんだからな。」
「…あのですね、小十郎さん。」
「何だ?」
「散々ごまかしてきましたけど…私、結構いい年なんですよね。」
「…幾つだ?」
「それは黙秘と言う事で。で、ですね。そのいい年した女が男の人を連れて実家に帰るってことは、こっち世界では変に勘繰られちゃうんですよ。」
「は?」
「いや、やっぱり親ってものは子供に結婚してほしいんでしょうねぇ。私の親も人並みにそう言った希望があるみたいで、今あなた達と一緒に行ったら『誰がお相手なの!?』ってことになっちゃうんですよ。」
「婚姻の相手は親が決めるんじゃねえのか?」
「そういうパターンもありますけど、自由に恋愛して結婚するパターンの方が多いですね。」

入れてもらったお茶を飲みながら、深く溜め息をつく。
お見合いはなぁ…まだ遊びたいしなぁ…
連れて帰ったら煩いだろうなぁ。
あぁ、イヤだ。

「だから、挨拶なんてしなくていいんです。万が一、親がここに来ちゃった場合は…まぁ、その時に考えましょう。」
「ついでだから聞くけどよお、まりの家族って誰がいるんだ?」
「お父さん、お母さん、弟、それにおじいちゃんとおばあちゃんだよ。」
「へえ、爺様と婆様が達者なのか!」
「高齢化社会だからね、80歳過ぎまで生きることも割とあるんだよ。」
「八十!?」
「そ、米寿のお祝いなんてのも結構聞くよ。」
「すげえな…」
「まぁ…善し悪しがあるけど。でも、身内が長生きしてくれるのは素直に嬉しいよね。」
「ふ〜ん、でもこれで納得した。」
「何がですか、猿飛さん?」
「まりちゃんってさ、弁丸様達にすごく自然に接してるでしょ?ずっと慣れてるな〜って思ってたんだ。弟君がいたからなんだね。」

弁を見る猿飛さんの顔が柔らかくて、私もそっと弁の顔を見た。
ほっぺたとつつくとふにゃりと口を動かして、それからまた穏やかに寝息を立てる。

「…可愛い。」
「寝てる時はね〜。」
「普段も充分可愛いですよ!弁や梵を見てると弟を思い出します。弟とは年が離れていたので、お母さんと一緒に私もよく面倒を見てたんです。だからかもしれませんね。」

小さい子って可愛いよねぇ。
いつも全力で動いていて。
愛でたい。

「じゃあ俺もついでに聞いちゃおー!まりちゃんの育ったところってどんな感じなの?」
「私の育ったところ…?」

東京から結構遠くて。
日帰りの往復はかなりキビしくて。
中学も高校も何校もあるわけじゃない。
いわゆる田舎。
これだけ文明の利器が発展しているんだから、生活に困ることはない。
だけど、都市に比べて不便なのは確実で。
その分、自然に恵まれていて。
同年代との繋がりは強く、誰かが帰れば集まって飲み会なんてことはザラ。
閉じた瞼の裏に浮かぶ故郷を懐かしむ。

「…大好きな場所だよ。自然が豊かで、人間が温かくて。お祭りがね、すごく盛り上がるの。」
「祭り!?祭りがありのかい!?」
「夏…ちょうどもうすぐだね、この時期に大きなお祭りがあって。地域が一丸となってそのお祭りに向けて準備をするんだよ。あの熱気は、絶対に他のお祭りに負けないって言える。」
「へー、そんなに盛り上がるんだ。行ってみたいなー。俺、祭りって好きなんだ。あの熱気がいいよねー。」

うずうずとしている慶次に、あのお祭りは合うと思う。
できるものなら連れて行ってあげたいけど…

「まり。その祭りに行かないのか?」
「…だからさっきから言ってるじゃないですか。小十郎さん達を連れて帰ったら騒ぎになるって。私だけ帰るのもなんかちょっと…。だから、今年の帰省はなしですかね。」
「だが…」
「大丈夫ですよ。お祭りは来年もその先もずっとあるんですから。」
「…悪いな。」
「気にしないでください。」

さて、と。
うんと伸びをして、何だか重くなってしまった空気を変える。

「そろそろ寝ませんか?私は明日も仕事がありますし。」
「…ああ。そうだな。」
「じゃあ弁丸様もらうよ。まりちゃん、ありがとう。足、痺れてない?」
「大丈夫です。」
「右目の旦那。片づけ頼んじゃってもいい?」
「ああ。」
「ありがと。それじゃ、お先に。おやすみ〜。」

弁を担いで猿飛さんが足音も立てずに階段を上がっていく。

「それじゃあ、俺も寝るかなー。まりちゃん、おやすみ。」
「おやすみなさい。」

続いて慶次も2階へ上がっていく。

「小十郎さん、手伝います。」
「いや。てめえも早く寝ろ。明日起きられなくなるぞ。」
「…そこまで子供じゃないです。」
「洗いもんったって、このこっぷぐらいだ。あっという間に終わる。気にしねえで先に寝ろ。」
「…それならお言葉に甘えて。」
「ああ。」
「なら寝に行こうか、まり。」

元親が立ち上がる。
私を促した言葉に、小十郎さんがピクリと反応した。

「…まり。」
「…」
「分かってるな?」
「…はい。」

小十郎さんの無言の圧力ってホント怖い。
だけど…いい機会なのかもしれない。
訝しがっている元親にギュッと抱きついて、胸に顔をグリグリ擦りつける。

「…何だってんだよ?」
「元親…私、1人で寝れる。ありがとう、もう大丈夫。」
「…本当か?」
「ホント、ホント。狭かったし、重かったでしょ?ありがとね。」
「いや…まりが大事ねえって言うならそれでいいけどよお…」
「ふふっ。今日からゆっくり寝られるね。それじゃ、おやすみなさい。」

少しさびしいけど。
まぁ、しょうがないよね。


2018.09.03. UP




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夢幻泡沫