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笑顔から力をもらえるのは

01



一目惚れだった。
新しいゲームのイメージキャラクターに決まり、初めての打ち合わせで彼を見た瞬間。
ありきたりだけど心臓を鷲掴みにされた。

「当ゲームの販売促進を担当しております、朝日奈棗と申します。以後、よろしくお願い致します。」

そう両手で渡された名刺をじっと見つめ、名前を脳内に叩き込む。
朝日奈棗さん。
『比』じゃなくて『日』。
漢字で『棗』。
それから目の前ですっと背筋を伸ばして立っている彼自身をもう一度しっかりと目に焼き付ける。
会社員らしくない明るい髪に、これまた会社員にしては珍しい明るい色のネクタイ。
スーツが似合う体格に、爽やかな香水の中に混じるタバコの匂い。
そして何よりイケメン!!

「…ぅわ、かっこいい…」
「は…?」
「あっ…いえ、何でもありません。失礼致しました。この度はイメージキャラクターに抜擢いただき、どうもありがとうございます。浦嶋南緒と申します。」
「はい、存じ上げております。ご活躍されている様子は毎日のように聞こえてきますので。お忙しい中で当ゲームのイメージキャラクターを引き受けていただき、こちらこそ感謝致します。」

『それでは早速で申し訳ありませんが、契約内容についてはなしをさせていただきます』と相手側のお偉いさんが話を切り出す。
机を挟んで正面に座った朝日奈さんはやっぱりかっこよくて、頬の緩みが抑えられない。
だけど。
自分で言うのも…だけど、私はアイドルだし声優だし。
変な顔なんて見せられない。
『仕事が楽しいです』の笑顔を貼りつけ、相手側に好印象を与えることが今この場での仕事。
にっこり笑って難しい話はマネージャーに任せた。
事前に聞いていた内容とほぼ変わりない契約履行を終わらせれば、次はゲーム内容と私の仕事内容についての説明に入る。
ちゃんと聞いてなきゃと思っていたら、朝日奈さんが立ち上がる仕草を見せた。

「…朝日奈さんって販売促進担当って言っていませんでしたっけ?」
「はい。正式な立場はそうなのですが、実は制作にも少しだけ携わっていまして。本日は私が説明をさせていただきます。」
「へえー、有能なんですね。素敵。」
「ありがとうございます。」

褒められれば誰でも悪い気はしない。
ふっと上がった口端がまたかっこよくて、胸がトクンと鳴る。
ヤバい…ホントにかっこいい。
レジュメに沿って説明する声も低く落ち着いていて、かっこよさに拍車がかかっていると言うか。
イケメン、イケボって…一般人なのがもったいないくらい。
その朝日奈さんの説明によると、私が担当するキャラクターは新兵卒主人公になるプレイヤーの上官でいわゆるサポート役。
ゲームの流れを教えて、進行のヒントを与えて、最終的には攻略の対象にもなり得るらしい。

「これまでは可愛らしいキャラや妹的立場のキャラを中心に演じてこられたと思いますが、今回は年上の女性キャラになります。クールで冷静な大人の魅力を引き出していただきたい。当ゲームを通して、浦嶋さんの新しい一面が世間を魅了する事を願っています。」
「はい。期待に応えられるよう、精一杯頑張ります。」

私を見る朝日奈さんの瞳にはヒットさせてみせるという意気込みが如実に表れていて、『大人の男』の力強さに脳がくらりと揺れる。
打ち合わせが終了する頃には担当キャラの性格も何となく掴めるくらいには資料を読み込んでしまった。

「…以上で打ち合わせを終わりますが、何かご質問等はございますか?」
「一ついいでしょうか?」
「はい。」
「あの…このキャラクターのモデルはいますか?」
「モデル、ですか?」
「はい。勉強不足で申し訳ないのですが、この手のゲームをした事がなくて。今の私ではゲームの世界の雰囲気を掴むこともできそうにないので、基になっている本ですとか映像などがあれば教えていただきたいです。」
「そうですね…ゲームは我々が一から考えた世界なので特にモデルはないですが、雰囲気を掴んでいただくのなら…」

そう言って紹介された物を資料の片隅にメモする。
移動する時に検索してみよう。
玄関までお見送り致します、とエレベーターを待っている時に朝日奈さんは私の横に立っていて。
頭一つ分の差。
ナイスな身長差じゃない?なんて心の中で浮かれてみる。

「…勉強熱心なんですね。」
「え…?」
「先程のモデルの件、正直なところ『アイドル』がこんなに仕事に真剣に取り組むとは思っていませんでした。」
「…それは…」
「ああ、いえ。あなたを軽視しているつもりはありませんし、失礼なことを言いました。申し訳ありません。…実はアイドルをしている人間が身近にいるんですけど、浦嶋さんのように勉強しているところを見た事がなくて…」
「同業を庇うようで申し訳ないですけど…今のご時世、『アイドル』の座に胡坐をかいているような人はあっという間に転げ落ちますよ。そのお知り合いもアイドルとして活躍されているなら、見えないところで相当の努力をしていると思います。」
「…私の失言でした。申し訳ありません。」
「いいえ。私も一応アイドルと言われているので…だからなのか、ご自分の考えを率直に言ってくれる人はなかなかいなくて。むしろ、好印象しかないです。私、朝日奈さんのことが好きです。」
「ははっ、これはありがとうございます。」

目立たないように裏口に回った私達に、朝日奈さんがドアを開けて支えてくれた。
マスクをして、帽子を目深にかぶれば、簡易的だがあまり目立たない。
そのままマネージャーが運転する車を待っている間、朝日奈さんも付き合ってくれた。

「大変ですね。」
「人気商売ですから。ファンの方なくしてアイドルはできませんけど…移動やプライベートは少し不便です。…内緒ですよ?」
「はい、もちろん。でも、私には想像のつかない世界です。」

朝日奈さんの言葉に返すのは苦笑に留める。
アイドルって言ったって、朝日奈さんと同じ一人の人間なんだけどなぁ。
だから恋だってする。
朝日奈さんに言った『好き』はホントの気持ちなんだけど…。
…分かってる?


2018.10.04. UP




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夢幻泡沫