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笑顔から力をもらえるのは
02
「みんなー!楽しんでますかー!?」
マイクを向ければウォー!!という野太い声とキャー!!という高い声が返ってきた。
この会場が一体となっている感覚にテンションはがんがん上がっていく。
「今日は遊びに来てくれてありがとー!こんなにたくさんの方に会えることができて嬉しいです!最後まで楽しんで行ってくださいねー!!」
たくさんのアーティストが出演するフェスティバルは、自分の出番自体はそう多くはない。
間奏で観客に話しかけ歌い終わる頃には息も切れ切れなんだけど、それを見せたらアイドル失格だから。
カメラに抜かれているのを意識しながらにっこり笑う。
肩で息をしているのはご愛嬌ってことで。
次に登場するアーティストを紹介してステージ袖に捌けると、お疲れ様ですの声と一緒にタオルが差し出された。
「朝日奈さん!いらっしゃっていたんですね!」
「浦嶋さんのパフォーマンスを実際に見たことがなかったので、今日はお誘いいただけてありがたかったです。あんな大きなステージの上で一人なのに、とても盛り上がっていましたね。」
「フェスティバルって割と盛り上がりやすいんですよ。それにまだまだこれからです。本命は大トリの彼らなんですから。」
そう言ってようやく現れた6人組にチラリと視線を流せば、朝日奈さんもそちらを見て『ああ』と呟く。
「fortteも出ているんですね。」
「やっぱりご存知でした?」
「はい。」
「彼達、同じ事務所なんです。我が社一推しのアイドルグループ。」
スタッフに渡されたドリンクを飲みつつ、朝日奈さんから差し入れられたタオルで汗を押さえつつ、彼らを見たままごく簡単に説明する。
すると、そのうちの一人が気付いたたように私達の方へ近づいてきた。
「南緒ちゃん、お疲れ様。いいカンジだったね!」
「ありがとう。今日のお客様、結構ノリが良さそうだよ。風斗君達の、楽しみにしてる。」
「うん、ありがとう。」
小悪魔キャラでお姉様方を虜にしている風斗君が、その可愛らしくも男っぽくなってきた笑顔を見せた。
「ところでさ。その人、どうしてここにいるの?スタッフじゃないでしょ?」
「ああ、うん。こちらはね、これから声優の方の仕事でお世話になる朝日奈棗さん。私のステージを見たことがないって言われたから、関係者でバックに通して袖で見てもらったの。朝日奈さん、こちらは…」
「ふーん…南緒ちゃん、そいつ体力が自慢だけのハコネスポ魂だよ。その仕事、うまくいくといいけど。じゃ、またね。」
朝日奈さんの紹介をしようと思ったのに、風斗君はよく分からないことを言ってメンバーの元へ戻ってしまう。
風斗君が私のことを知らせたのかヒラリと手を振ってきたfortteのメンバーにガッツポーズを作って応援を送ってから、私は朝日奈さんを見た。
「…風斗君と知り合いなんですか?」
「ああ、いえ…まあ。前に『知り合いにアイドルがいる』って言ったのを覚えていますか?あれは風斗のことなんです。」
「へえ、そうだったんですね!fortteのステージを見られたことは?」
「テレビ映像でなら、ですけど。」
「それなら、今日は是非見ていかれてくださいね。映像と全く違いますから!袖からで見づらいかもしれませんが。」
「はい、そうさせてもらいます。」
「風斗君達、すごいですよ。歌もダンスも圧巻なんです。人気があるからテレビや雑誌にたくさん出ていると思われがちですけど、それ以上に彼らのパフォーマンスが見ている人を魅了しているからなんです。」
「…身内を褒められると照れますね。」
「身内…?」
「風斗は弟です。と言っても俺は一人暮らしですし、風斗もなかなか家に帰っていないみたいなのであまり会いませんが。」
「兄弟ですか!?」
うわっ、ビックリ!
朝日奈さんと風斗君が兄弟って…。
あまり似ていないんですね、なんて口実に呟きながら苦笑する朝日奈さんをじっと見る。
わあっ!と歓声が袖裏にも届けば、始まったのはfortteのパフォーマンスだった。
舞台の方へ顔を向けなくても分かる。
彼らの努力は並大抵のものではないから。
そして、本番は練習以上のものを出せる彼らだから。
チラリと朝日奈さんの顔を見上げると、目を大きくして舞台を見ている。
「…本当に初めてのようですね。」
「…はい。うわ、驚いたな…」
「それこそ身内自慢じゃないですけど、個人練習はともかく6人が揃って練習できる時間はほとんど取れていないと思うんです。それでもあれだけ揃えられるって、個人の努力の賜物ですよ。もちろん、風斗君も。だからこそ彼達はトップアイドルとして君臨していられるんです。」
「…風斗のことを生意気だと思っていましたが、それなりのものがある…と。」
「自分にプライドを持たないとアイドルは続けられないですよ。風斗君が生意気なら、私なんか朝日奈さんにどう思われてしまうか…」
「浦嶋さんは謙虚な方ですよ。風斗なんかと比べたら失礼です。」
「ふふっ、ありがとうございます。朝日奈さんに嫌われないようにお仕事をもっと頑張らなきゃ。」
「期待しています。」
「応援してくれますか?」
「はい、もちろん。」
「嬉しい!やっぱり朝日奈さんって素敵だなあ。好きです!」
「はは、ありがとうございます。」
「私を知ってください。」
「ええ。」
「嬉しいです。私を好きになってくださったら、もっと嬉しいんですけど。」
「…浦嶋さんと知り合ってからまだ日は浅いですが、いい人だなと好感を持たせていただいていますよ。」
いい人って…。
自分の好きな人から一番言われたくないワードじゃない。
今のは聞かなかったことに…。
あ、でも『好感を持っている』って言ってくれたからまあまあの手応え?
じっと朝日奈さんを見つめながら少し拗ねたポーズを見せる。
それからにっこりと笑って『嬉しいです』ともう一度言えば、私の機嫌を損ねたかと焦っていた朝日奈さんは明らかにホッとした表情を浮かべた。
あなたはあくまで商品ですって言われたみたいで凹む。
だけどそれを見せてしまえば朝日奈さんに『面倒くさい女』って認識されてしまうと思うから。
「私、ラストまで出番はないので一度楽屋に戻ります。朝日奈さんはどうされますか?」
「実はこの後、社の方で会議が入っていまして…。浦嶋さんのご活躍を最後まで見られなくて申し訳ないのですが、ここで失礼させていただきます。」
「分かりました。お疲れ様です。今日はわざわざ見に来てくださってありがとうございました!」
「とんでもない。こちらこそ本来でしたらチケットを取るべきところですのに、関係者パスを融通していただきありがとうございました。それでは、これで失礼します。」
「お気をつけて。」
会釈をして背中を向けた朝日奈さんが本当にあっさりと行ってしまうものだから。
「…バカ。」
誰にも気付かれないように小さく呟いた。
2018.10.11. UP
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夢幻泡沫