
Main
笑顔から力をもらえるのは
04
初めて彼女と会った時、『可愛いな』と素直に思った。
アイドルをやっているだけのことはある。
彼女は自分の魅せ方も、自分の商品価値も、何を必要とされているのかも、しっかりと分かっている。
同時にすっと気持ちが冷めたのも感じてしまった。
弟が同じ『アイドル』をやっているせいなのか、どうせこの人も表と裏が激しいのだろうと一歩引いて接しようと決めた。
…だが。
真剣に仕事に向き合う様を見て、風斗とは違うのかも…と冷めた気持ちが好感に変わった。
アイドルでいる時の姿も、声優でいる時の姿も。
俺が見る彼女はいつでも全力で仕事をしていて、彼女を主要キャラに迎えて正解だと思った。
「棗ー、南緒ちゃんとまだくっつかないのー?」
「…ふざけんな。」
「ふざけてねーって★なあ、梓!」
「うん。まあ、実際に棗が南緒ちゃんと付き合うようになったらちょっと面白くないけど。」
「梓には俺がいるだろー★」
「はいはい。でも棗、南緒ちゃんはいい子だよ。何が不満なの?」
仕事先で椿と梓と会い、休憩がてら自販機で飲み物を買い。
その流れで少し話していたところ、浦嶋さんの話題になった。
あれからも会うたびに『好きです』と伝えてくる彼女に、断るバリエーションがなくなって正直押されている現状だ。
椿と梓にもその現場を何度も目撃されて、一緒になって付き合えコールをしてくる始末。
はあ…頭が痛い。
「…そう言う問題じゃないだろ。ゲーム会社の社員と声優が付き合うのはどうかと思うぞ。」
「そうでもねーけど?」
「…相手はアイドルだぞ。」
「僕達の弟もアイドルでしょ。そんなの今さらじゃない。」
「オマエらと同じで俺をからかって楽しんでいるだけだろ?…迷惑なんだよ、仕事に支障が出る。」
ガリ、と頭を掻きながら溜息も一緒に出てくる。
勘弁してくれよと椿と梓を見たら、二人とも気まずそうな顔をしていた。
「…椿?梓?」
「あー…」
「…棗、最悪。」
「は?何がだよ。」
「…後ろ、見てみ?」
椿が指で示しながらの言葉に、首を捻りながら振り返って…ああ、やっちまった。
「…浦嶋さん。」
「すみません。棗さんが来ているって聞いたので挨拶に伺おうと思ったんですけど…。迷惑、でしたか。」
『何が』をあえて言わない彼女だが、間違いなく聞かれてしまったのだろう。
いつもの笑顔がナリを顰めて、真っ直ぐ見つめてくる瞳が下を向いてしまっている。
「…あー…その…」
「…」
「その…何と、言うか…」
「…すみませんでした。私、ずっと棗さんに嫌な思いをさせてしまっていたのですね。申し訳ありませんでした。でも、きっぱり言われてよかったです。」
「いや、その…」
「私、棗さんのことを諦めます。あ、お仕事は最後までしっかり務めさせていただきますので。これからは一声優と一社員として接して下さい。変に気を遣わないでもらえるとありがたいです。」
「…」
「では、失礼しますね…朝日奈さん。」
真っ直ぐな瞳が俺を見る。
にっこりと笑った顔が俺の前に現れる。
声のトーンもいつもと変わりなく、振られた女の悲壮感もない。
完璧なアイドルとしての浦嶋南緒がそこにいる。
丁寧に頭を下げて戻ってしまった彼女に声をかける時間がなかった。
…どう声をかけようと思っていたんだ、俺は?
なぜ胸に隙間風が吹いているような気がしているんだ?
「…あーあ。」
「どうするの、棗?」
「…どうするったって…」
「棗ー、南緒ちゃんのことホントは迷惑じゃなかっただろ。」
「は…?」
「だよね。なんだかんだで楽しそうに見えていたけど?」
「は?…冗談だろ?」
「やっぱ梓もそう見てたかー★」
「分かりやすすぎるよ、棗。棗が南緒ちゃんと距離を取ろうとしてたのって、棗の会社のゲームに南緒ちゃんが出ているからでしょ?何かトラブルが起こると困るから南緒ちゃんと付き合うなんて考えなかった。…じゃあ、南緒ちゃん個人のことはどう思ってたの?アイドルでも声優でもない南緒ちゃん。『浦嶋南緒』そのものは?」
梓が詰め寄るように言葉を重ねてくる。
浦嶋さんといて楽しそうに見えた…?
梓だけじゃなく椿にもそう見えていた…?
浦嶋さんが声優だから、アイドルだから、告白を本気ととらえなかった…?
じゃあそういうの全てを取っ払ったら…?
は、と短く息が零れる。
彷徨っていた視線を向けると、呆れたような仕方がないなというような顔で薄く笑う梓がいた。
「今日の夕飯は棗のおごりね。」
「あっ、じゃあ焼肉行こーぜ★」
「おいしいお店を声優仲間に教えてもらったから、そこがいいな。」
「そうと決まれば、今日の仕事を頑張るかー!」
「棗も早く仕事に戻ったら?僕達が終わったら連絡入れるから。椿、行くよ。」
「頑張るぞー★」
ポンと両肩をそれぞれに叩かれ、それを合図に向かったのは浦嶋さんが収録しているスタジオ。
さっきの言葉を訂正させてほしい。
浦嶋さんのことをアイドルや声優として見てしまっていたが、どの仕事に対しても真剣に取り組む姿は好ましいと思う。
ただ一人の女性として見ようとしても、まだ知らないことの方が多い。
だから、友達から始めませんか?
俺のことも『エデンゲームズの朝日奈棗』でなく俺そのものを見て欲しいし、俺も浦嶋南緒そのものを知りたい。
スタジオから出てきた彼女にそう話せば、真顔だったのが綻んだ。
『まだ私にもチャンスがあるんですね、棗さん』と嬉しそうにしている浦嶋さんは…正直なところ可愛いと思う。
2018.10.25 UP
2000000Hits&5周年リク。
いくこ様より『ブラコンの棗相手で、声優もこなすアイドルで棗に片思い中。見かける度にアタックしすぎて、双子にからかわれる棗に「迷惑なんだよ」と言われる。』です。
オチは三つ子の誰でもいいとのことでしたが、ここはやっぱりなっくんで。
当サイトのなっくんはちょっと不憫な子なのですが、今回も兄二人にからかわれてしまいました(笑)
大好きなんですけどね、なっくん。
いくこ様、どうもありがとうございました。
だいぶお待たせしてしまい申し訳ありません!
← * ー
(4/4)
夢幻泡沫