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いつか一緒に

01



どこからか音楽が聴こえる。
少女は本から視線を外し、ふっと窓の外を眺めた。
窓際の席からはこの学院の緑が午後の風に揺れて煌めいているのが見える。
そっと目を閉じ、聴こえてくる音に耳を澄ます。
この音は…ヴァイオリンだろうか?
音楽科のあるこの学院はいつもどこからか音楽が聴こえる。
それが少女にとっては嬉しくもあり、切なくもあった。
外からの音に指が勝手に動き出す。

あ…フラット一つ落としている。

思わず笑みが零れる。
そんな少女を遠巻きに見ていたクラスメイトは息をのんだ。



日柳音羽、彼女は星奏学院でも1、2を争う美人と称されている。
緩いウェーブのかかった、腰まであるしなやかな髪。
大きな瞳も髪の毛と同様に明るい。
スタイルも申し分なく、日を浴びているのかと疑いたくなる程の透き通った肌。
いつも静かに本を読んでいる姿は儚げで、誰でも守りたいと思うような佇まい。

「お前、音楽が好きなのか?」

不意にどこからか声がした。

「え?」

音羽は教室の中をきょろきょろ見回す。
しかし、声をかけてきた人はいない。

「気の…せい?」
「気のせいではないのだ。窓の外にいる。」

その言葉に窓の外を見ると、羽根の生えた小さい何かが浮いていた。

「お前、我輩が見えるのか!?」
「…」
「我輩が見えるのだな!!」
「…何?」

音羽は驚きのあまり声が出ない。

「我輩の名はリリ!お前の名は!?」
「…何これ…」

あまりに動かなすぎたのだろう、どうしたのと直が寄ってくる。

「音羽?」
「あ…うぅん…」
「音羽と言うのだな!?」

相変わらず小さい何かが話しかけてくることに混乱が増す。

「ねえ…あれ、見える?」
「あれ?あれって?」

念のために直にも確認してもらおうと、その小さいものを指さす。
しかし、彼女の望む答えは返ってこなかった。

「…だよね。何でもないわ、ごめんね、変なこと言って。」

ニッコリ笑って音羽はそう言うと、サッとカーテンを閉めた。



「ねえ、聞いて聞いて!」

そこへ美緒が息を切らして駆け込んでくる。

「何よ、そんなに慌てて。」
「あのね、コンクールが開催されるんだって。」
「…コンクール?」
「そう。学校主催の音楽コンクール!でね、このコンクールには色々とあるのよ。」

美緒はキラキラと目を輝かせて逸話を話しはじめる。
この手の話になると彼女が止まらなくなるのを知っている2人は、苦笑しながら互いの顔を見合わせた。



次の日、音羽が登校すると、教室が騒がしかった。

「あーっ、音羽ちゃん!!たっ大変よ!!」
「え?」
「ちょっと来て。早く早く!」
「どうしたの?」
「いいから!!」
「どこに行くの?」

美緒は音羽の手を掴むと、廊下にある掲示板に向かって走って行った。

「…あぁ、これって昨日言っていたコンクール参加者の発表でしょ。」
「そうなんだけど…」
「これがどうしたの?」
「ほら、あそこ。一番下!!」

美緒に言われるままに音羽は視線を下に落とし、愕然とする。
参加者は音楽科の五人、そして何故か普通科の音羽が名前を連ねていた。

「音羽…ちゃん?」
「…何で…私が…」

音羽は眩暈が起きそうになるのを必死に堪えた。


2013.03.25. UPIT
2013.03.28. EDIT




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夢幻泡沫