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いつか一緒に

02



とりあえずコンクールの担当の先生に話を聞こうと、昼休みに音羽は職員室に向かった。

「学内コンクール?」
「はい。担当の先生を知りたいのですが…」
「ああ…確か金澤先生じゃないかな。」
「金澤先生?」
「そうそう、音楽の金澤先生。」

丁度職員室にいた音羽の担任に聞くと、

「金澤先生、コンクールのことで生徒が訪ねてきてますよ。」

声を掛けてくれた。
その言葉に窓際にいた教師が反応する。

「コンクール?」

音羽は担任にお礼を言うと、その教師の傍に移動した。

「はい、突然すみません。私…2年の日柳と言います。」
「日柳?ああ…もしかして参加者の?」
「あの、そのことですが…私が選ばれるのはおかしいのでは…?誰かと勘違いされていませんか?」
「いや、お前さんで間違いないよ。」
「いえ、そんなはずは…」
「そんなこと言われてもなあ。選んだの俺じゃないし。」

我関せずといった感じで、金澤は外の景色を見ながら煙草を燻らす。

「そもそもさぁ、何で俺がコンクールの担当なんてやらなきゃならんのさ。」

そんな金澤の態度に、音羽も脱力するのを隠せない。

「それにお前さん、選ばれたってことは見ちまったんだろ?アレ。気の毒になあ、さすがに同情するぜ。まあテキトーに頑張れや。ああ…苦情・質問等は、直接アレに言ってくれ。」
「アレって…先生にも見えるのですか?」
「いや?全然。俺は校長から聞いたことを伝えるだけ。」

話が良く分からない方向に進んでいることに、音羽は頭を悩ます。
アレはきっとあの小さい何かの事を指しているのだとは分かる。
頭の中を整理しようとしている音羽に、金澤は思い出したかのように言葉を足す。
「…っと、そうだ。お前さんに伝言があったっけ。放課後、音楽科校舎の練習室棟へ来いってさ。多分そこにいるんじゃないか、アレは…」
「それは…」

どう言う事か聞こうとした音羽の後ろから、元気な声が響いた。



「かっなやーん!!」
「げ…」
「おれたち選ばれたよ、コンクール!」
「先生が担当だとお聞きして。」
「ったく、次々と。勘弁してくれ。」
「次々と?」
「あーっ、もしかして普通科から参加するコ!?」

元気が溢れて出ている男子生徒は音羽の両手を握ると、ぶんぶん振る。

「おれ、3年の火原和樹。専攻はトランペット。よろしくね!」

突然男の先輩に両手を握られたことに、音羽は顔を赤くして俯く。

「何だか嬉しいな。普通科のコも参加するなんて。楽しいコンクールになるといいね。」
「ほら、火原。そんな一方的に話したら彼女だって困ってしまうよ。」
「あっゴメン。」

もう一人の男子生徒に言われ、火原は漸く音羽の手を放した。

「本当にごめんね。僕は柚木梓馬です。専攻はフルートなんだ。」

その綺麗な人は自己紹介をする。

「ええと…確か日柳さんだよね…」

そこで柚木は言葉を不意に切った。

「日柳って…あの…」

火原も改めて音羽を見る。

「…初めて間近で会ったけれど、確かにトップを争うだけのことはあるね。音楽科にまで広まっているのも分かるなぁ。それで、楽器は何を?」
「そうだよね、何やってるの?ピアノ?」
「あっ…あの…」
「フルートだったら大変だなぁ。ライバルが増えてしまうものね。」
「いえ…ですから…その…」

ニコニコしながら楽器を聞いてくる二人に、音羽はどう返していいか分からない。

「私は…違います。先生、もう一度ご考慮をお願いします。失礼致します。」

いたたまれなくなった音羽は急いで職員室から去った。



放課後、音羽は練習室棟に向かう。
ずらりと並んでいる練習室のどこに入っていいのか分からない。
音がする練習室を覗くと、音楽科の生徒が楽譜と睨めっこをしている。

「よく来た、日柳音羽!我輩、お前に大事な話があるのだ!!」

上からの声にそちらを向くと、腰に手を当てて満面の笑みで小さい何かが飛んでいた。
音羽は慌てて辺りを見渡し誰もいないのを確かめてから、とりあえず空いている練習室に入る。

「あなたは一体…何?」
「我輩の名はリリ。ファータという種族なのだ。」
「ファータ?」
「そうなのだ。人間達には音楽の妖精と呼ばれることもあるな。ファータはな、この世に存在する全てのものは音楽によって幸せを得ると…音楽は幸せの源なのだと考えている。だから我輩達は世界が幸せに満ちるよう、世界のあちこちで音楽を広めるため活動しているのだ。」
「…そう、それで?」
「まあ普段は姿消しの魔法を使っているので人間には見えない…。しかしだな、実は我輩…ここ数日は魔法を少しゆるめた状態だったのだ。」
「どうして私にしか見えないの?」
「それは日柳音羽がファータと相性が良いからなのだ。昔は少し魔法をゆるめれば、我輩を見ることができる者が結構いたのだ…。だが今は…時代は変わったのだ。しかし、お前は違う。だから参加者に決めたのだ。」

少し寂しそうに、でも嬉しそうにリリは言う。

「…コンクールなんて無理に決まっているでしょ?」
「そんなことはないだろう?『Der Prinzessin Musai liebt』。」
「…どこでそれをっ!?」
「少し調べさせてもらったのだ。…なあ日高音羽、ここの言葉でオンガクとは音を楽しむと書くのだろう?その通りなのだ。音楽は誰にでも楽しめるもので、コンクールだって音楽科だけのものではない。それを分かってもらいたい…もっと身近に音楽を感じて欲しいのだ!」
「…今は日柳音羽、よ。どうしてそこまで…」
「我輩は…この学校の創始者だった男に命を救われたのだ。音楽を心から愛するいい奴だった。だから約束した。お前の学校に音楽の祝福を与えようと…。我輩はここが大好きなのだ。だからこそ…誰もが音楽を楽しみ学べる場を創りたいという、あいつの想いを大切にしたいのだ。だから頼む。我輩に協力してくれ…。我輩はもうお前に頼るほかないのだ。よろしく頼むぞ、日柳音羽。」
「ちょ…っと待って!」

音羽の言葉など聞かず、リリは消えてしまった。


2013.03.28. UP



作品中に出てくる外国語は、某翻訳サイトのものをそのまま引っ張ってきました。(今回はドイツ語です。)
オンマウスで、日本語が出てきます。
語学力ゼロの夢沫に正確な翻訳なんてできるわけないさっ!
…突っ込みはなしの方向でお願いします。




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夢幻泡沫