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いつか一緒に

04



翌日、学院は騒然としていた。
コンクールに追加参加者が出た上、それがまた普通科からなのである。

「今回のコンクールはなんだかすごいことになりそうだね。」

直が言った言葉に、音羽は苦笑うしかなかった。



金澤に昨日のことを謝ろうと音楽棟に向かって渡り廊下を歩いていると、目の前に三人の女子生徒がいた。

「ちょっとよろしくて!?あなたが日柳さんとやら?普通科から選ばれたとか?音楽科を差し置いて選ばれるなんていいご身分ですわね。」

いかにもお嬢様といった感じの少女が、ねちねちと言葉を投げかけてくる。
音羽は耳に入れないようにしていたが、少女達は喋るのを止めない。
周波数の合っていないラジオから聞こえてくる雑音のような耳障りな声が延々と続く。
音羽がひたすら右から左へ流していると、気持ちが収まったのか彼女達は鼻で笑った。

「…聞いてますの!?とにかくあなたの演奏を楽しみにしていますわっ!」

漸く解放され、音羽は思わず溜息を吐く。

「どーもどーも、報道部2年の天羽菜美といいます!日柳さん、色々と聞きたいんだけど!」
「えっ…あ…」

突然現れた天羽に、音羽は反応できない。
そんな彼女に構わず、天羽は矢継ぎ早に質問を繰り出した。

「日柳さんって有名でしょう?特集を組みたいのよね。楽器は何?何で普通科からの参加なの?それから…」

迫ってくる天羽の手から、突然メモ帳が奪い取られた。

「その辺にしとけ、天羽。」
「土浦君!?」
「ちょっと、返しなさいよっ。大体いつからいたのよ、土浦梁太郎!!」
「いつだっていいだろ?初対面の奴にあれこれ聞くなよ。」
「性分なのよ!」

土浦からメモ帳を奪い返すと、天羽は

「ま、ひとまず退散するわ。」

と、嫌々その場から離れた。
茫然としていた音羽だったが、ハッとしたように土浦の方を向く。

「…ありがとう、土浦君。知り合い?」
「前にサッカー部の取材に来てさ。…そりゃあもう、根掘り葉掘り。」
「…」

もう少しで自身もそうなっていた音羽は、深く溜息を吐く。

「ほら、情けねぇ面してんじゃねーよ。俺で良けりゃ、話ぐらいは聞けるぜ?」
「…出たくないのよ、コンクールに。」
「日柳、お前さあ…」
「え?」
「事情はどうあれ、もう腹くくるしかないんじゃないか?いつまでもお前がそんな態度じゃ、音楽科の奴らに何言われてもムリないぜ?参加したくてもできない奴、たくさんいるんだからさ。」
「…それは…そうだけど…」

音羽がポツリと呟いた言葉で、土浦はハッとする。

「あ…悪い…言いす…」
「ごめんね、土浦君。私、もう行かなくちゃ。助けてくれてありがとう。」
「えっ?オイ…」

音羽は身を翻すと、気まずそうに口元を手で覆って立ち尽くす土浦から離れた。



「…くだらない?俺たち音楽科の生徒はより良い演奏のために日々努力している。」

教室移動のために音羽が廊下を歩いていると、音楽科の生徒が言い争っていた。

「普通科は努力していないと?」

その生徒に向かって、土浦がやけに突っかかっていた。

「音楽に対する姿勢の問題だ。君にとやかく言われる筋合いはない。失礼する。」
「…だよアレ。気取りやがって。」
「土浦君?どうしたの?」
「あ?ああ、日柳か。さっきの奴、月森蓮。同じコンクールの出場者だ。で、これをお前にだってよ。」

そう言って土浦は一枚のプリントを音羽に渡した。

「ありがとう…。って、えっ!?第一セレクションもう始まるの?」
「みたいだな。」
「『ひらかれしもの』…ね。」
「同じ曲でも弾き手の解釈によってだいぶ雰囲気変わるからな。」
「…詳しいね、土浦君。」

土浦の意外な一面に音羽は驚いて彼を見る。

「あ…いや。じゃ、俺行くわ。またな。」

土浦は少し困ったように頭に手を当てると踵を返した。


2013.04.05. UP




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夢幻泡沫