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いつか一緒に
03
コンクール参加者は昼休みに集合、そう聞いて音羽は音楽科の校舎に向かう。
音楽棟と普通棟は線対称上にあり遠い。
急がなければ、と音羽は階段を速足で歩いていた。
昼休みなだけあってすれ違う生徒も多い。
気をつけていたのだが、階段の半ばあたりで男子生徒と肩がぶつかってしまった。
不注意だった音羽は崩れたバランスを立て直せなかった。
そのまま下まで落ちていく。
周りがざわついているのが分かったが、起き上がる気がしなかった。
倒れたまま目を閉じていると、ふわりと体が浮く感覚がする。
それが妙に安心でき、音羽は意識を手放した。
どれくらい経ったのだろう、ふと目を開けるとカーテンが目に入った。
と言うことは、ここはおそらく保健室。
音羽はベッドから降りるとカーテンをそっと開けた。
「あら、起きたの?」
「はい、すみませんでした。」
「体、痛いところはない?」
「え…っと、大丈夫だと思います。」
保健の先生に言われて体を動かしてみるが、違和感はなかった。
「あなたとぶつかってしまった子が、あなたの荷物を持ってくるって言ってたわ。椅子に座って待っていなさい。」
私は職員室に用事があるから、と保健の先生は出て行った。
とりあえず言われるままに座って待ってみる。
「日柳音羽!大丈夫なのか?」
保健の先生がいなくなった途端、リリが現れた。
「リリ、大丈夫よ。」
「よかったのだ!参加できなくなったら困るのだ。」
「…参加するとは一言も言ってないけど…?」
「日柳音羽は…音楽が嫌いなのか?」
「…嫌いになれたらいいのに、ね。」
音羽は苦笑しながらリリに言う。
「頼む、我輩に協力してくれないか?」
眉を下げながら言うリリに、音羽は軽く息を吐いた。
「おっ、起きたのか?悪かったな、大丈夫か?」
そこに鞄を抱えた男子生徒が入ってきた。
「あ…はい。」
「俺、土浦。土浦梁太郎、5組。」
「…日柳音羽、2組です。」
「同学年なんだから、敬語はやめてくれ。」
「分かったわ。」
ふわりと笑って言う音羽に、土浦は軽く頬を染める。
「本当に悪かったな。」
「もう大丈夫だから。」
土浦から差し出される鞄を受け取って、音羽は立ち上がる。
「お前コンクールに出るんだろ?指とか怪我してないか?」
「うん。大丈夫そう。」
音羽の返事に土浦ははぁー…と安堵の溜息を吐き出した。
「…ところで、日柳。その…ちんまいのは何だ?」
「え?」
「お前の横にいる…そのちんまいの。」
「…見える、の?」
「おお!我輩が見えるのか?」
「うおっ!?喋った!!」
「素晴らしいのだ!土浦梁太郎と言ったな。お前、楽器は何をやっている?」
「はあ!?」
「お前もコンクールに参加決定なのだ!」
「おい、ちょっと待てよ!」
「今年は7人か。楽しみだな!!」
ぐふふ…と不敵な笑みを浮かべると、リリは消えてしまった。
「オイ、待てって!」
「…あー、やられたね…」
「やられたね…って。まさかお前もアイツに?」
「まぁ…お前『も』参加だって言っていたでしょ?」
「はっ、やってくれるな…。」
「今日のお昼休みに顔合わせだったの。」
「そりゃ悪いことしたな。」
困ったように眉を顰める土浦に、音羽は肩を竦める。
「うぅん、あんまり行きたくなかったから…」
「おいおい、何でだよ?やるじゃないか、普通科から参加なんて。」
「土浦君も、なんだけど…?」
「ああ、そうなっちまったんだっけか…。ま、なるようになるだろ?悪い、俺これから部活なんだ。」
「え?何部なの?」
「サッカー。」
ニッと口角をあげて土浦は言う。
「…と言うことは、もう放課後なんだ。」
「本当、すまなかった。」
「もういいって。部活に行かなくていいの?」
「やべっ!遅くなっちまう。コンクール、よろしくな。気をつけて帰れよ。」
土浦は音羽の頭をポンポンと撫でると、走って行った。
頭を撫でられることにくすぐったさを感じて、音羽は一人でクスクス笑った。
2013.04.01. UP
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夢幻泡沫