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花は輝き月は笑む 番外編

蛇心の功名 02 



「えっ!?梵ってば、あの異国人が奥に入るのを許してるの!?」
「…仕方ねえだろ。pianoが置いてあるのは桃の部屋なんだから。」
「いやいや、本丸奥殿によく知りもしない奴を入れるなんて…。大丈夫なの、その…えっと…かるろす、とか言ったっけ?」
「ああ、今のところは…」
「ぴあのを直すのってそんなに時間かかるものなんだ?」
「いや、それは初日で終わった。」
「じゃあ何で!?」

成実が驚くのを煩く思いながら、政宗は脇息に凭れるように姿勢を崩す。
すかさず小十郎が嗜めたが小さく舌打ちで返した。
政宗はずっと思っていたのだ。
面白くない、と。
ピアノ奏者が現れた日から桃花の関心はそちらへ向きっぱなし。
夫婦水入らずの会話もピアノの話ばかりになってしまっている。
毎日のように聞かされる話も、顔を見せるカルロスにも、うんざりしているのだが…。

「…桃が楽しそうにしているんだ。止めさせるのは忍びねえだろ。」
「いやいや、梵!そう言う問題じゃないでしょ!!部外者に城の奥まで知られるって拙いから!」
「I know.」
「知ってるんならすぐに止めさせないと。乱世が終わったからと言ってまだまだ油断できないでしょ!?」
「…成に言われなくても分かっている。」
「しっかりしてよ、奥州筆頭!」
「煩え…」
「しかし、政宗様。成実殿の申される通りです。桃の方様のお楽しみを奪ってしまうのは確かに心苦しく思われるでしょうが…」

珍しく正論で迫ってくる成実に顔を歪めていた政宗は、続く小十郎の言葉に今度こそ苦虫を噛み潰す。
そんなこと、忠言されなくても分かっている。
分かっているし、止めさせるのは簡単だが、桃花のことを考えると…。

「…ふうん。だから、ここのところ苛々してたんだ。」
「…は?」
「桃の方をかるろすに取られちゃって面白くないんでしょ〜?」
「…」
「梵ちゃん、可愛い!正直に桃の方に言えばいいのに〜!かるろすとばっか一緒にいないで俺の隣にいろ、って!」
「成、てめえ…」
「あ〜あ、いつまでもらぶらぶで羨ましい〜!もう一人期待できそうだな〜?」
「…そこに直れ、成。」
「怒っちゃいやん!」

にやにやと目を細める従弟にこめかみが浮き立った。
かちゃと政宗の左側が鋭く鳴ったのを聞いた成実は慌てて謝り、勢いよく距離を取る。
そんな彼の後ろに、これまでなかった気配が現れた。
弛んだ空気が一変する。
低い声で『何だ』と外に問うた成実に、小さいけれどもはっきりと聞こえる声が答えた。
『桃の方様に異国人が異様なほど近づいております』、と。
それを聞いて真っ先に動いたのは政宗。
恐ろしい形相で敷物を蹴り上げるようにして立つと、小十郎も成実も目に入っていないかの如く走り出した。
二傑も慣れたもので、遅れを取ることなくついていく。
奥へ奥へと進んだ先に正室付きの侍女が座っていた。
ならば、この中に桃花がいる。
当主のただならぬ様子に怯えて伏す侍女達へ一瞥もくれずに、政宗は襖を開けた。
忘れている力加減を示すかのように大きく鳴った音に、中にいた者の目が一斉に向けられる。
中では桃花とカルロスが手を取り合って体を寄せていた。
その光景を見た政宗は、まばたき一つの間に居場所を変える。

「…政宗様!?」
「Hey, you…竜の宝珠に手を出すたあ、いい度胸してんな。」

桃花の驚愕した声を無視し、白く光る切っ先を異国人の首元に当てながら竜王が低く唸る。
脂汗を流したまま微動だにできないカルロスを、小十郎と成実は素早く取り押さえた。
政宗は抜いた刀を肩に置き、同じく固まってしまっている妻を睨みつける。

「…何をしていた、桃。」
「…ダンスを教わっていましたが…」
「Danceねえ、dance…へえ、dance…」
「政宗様…?」
「そのdanceとやら、俺にも教えてくれよ。」

言うや否や、政宗は桃花の打ち掛けをはぎ取った。

「人払いだ、全員出てけっ!」
「政宗様っ!?」
「梵、無体をしちゃ駄目だ!」
「煩え、早く出ていけっ!!」
「喜多さん…っ!」
「桃の方様!政宗様、どうかお静まりください!」
Off with you!喜多、アンタもだ!」

まだ残っている者がいるにも関わらず、政宗は桃花の帯を解いていく。
それで細く白い手首を纏め上げ、恐怖で動けなくなってしまっている彼女の着物を剥いだ。

「ま…さ宗様、話を…」
「なあ、俺とも踊ってくれよ?」

のしかかるように首筋に頭を埋め、噛みつく。
くっきりと残った己の歯形ににんまりと口の端を上げると、妻の顎を片手で持ち上げた。
抵抗できない赤い唇にかぶりつく。
滅茶苦茶にしてやろうと舐りまわしていたら、己の唇に鈍い痛みが走った。
思わず顔を離す。
痛む部分を舌で舐めれば、鉄の味がした。

「…随分な誘い方だ。」
「…話を、聞いてください。」

うっすらと涙を溜めて桃花が睨み上げている。
乱れた息の中、小さな声ではあるがはっきりとした意思が見て取れた。
細かく震えている手を押さえるように固く握りしめている様子に、政宗もほんの少しだけ冷静になる。
覆い被さっていた己の体を退かすと、桃花も縛られた手でなんとか体を起こした。

「…カルロスからダンスを教わっていました。」
「あんなに親密そうにしていて『踊ってた』は苦しいぜ。」
「あちらの国のダンスは男女がペアになって踊るものです。日の本の能とは全く違います。」
「なら、そんなもの教わる必要はねえ。」
「…一曲でも踊れれば、政宗様のお役に立てると思ったのです。異国の方からダンスに誘われたのに、当主の妻が踊れないなんて申し訳なくて…」

ほろりと落ちた彼女の涙に胸の炎がじくじくと鎮まる。
そっと近付いた政宗にビクリと体を震わす桃花に舌打ちをしたくなったが、深く息を吐き出していなした。
纏め上げていた帯を外してやり、多少赤くなってしまったそこを擦る。
政宗がしていることを黙って見ていた桃花だったが、己の手首に触れていた骨ばった手を掬い上げて甲にキスをした。

「…Sorry, 桃。」

バツが悪そうに呟いた政宗に、桃花は小さく首を振る。
己の気持ちが伝わったと分かって彼女も安心したようだ。
再度手の甲へ唇を落とす桃花に、政宗もすっかり落ち着いた様子で妻の頬を左手で撫ぜた。

「…手の甲へのキスは『敬愛』、だったな。」
「はい。私がお慕いし尊敬しているのは政宗様です。」

綺麗な笑みを浮かべた彼女はすっと夫の懐へ入ると、膝立ちになってその顔を両手で包んだ。
普段はそんなことをほとんどしない桃花だから、政宗は驚いて目を大きくする。
その態度にほのかに表情を柔らかく緩めると、桃花はゆっくりと唇を寄せた。
首筋へ、頬へ、唇へ。
そして眼帯を外して右目へ。

「…そこにも意味があんのか?」

桃花の背に手を這わせ、腰を抱き寄せ、胸に顔を埋めながら政宗が問う。

「…ふふ、どうでしょうか?カルロスに聞いてみます?」
「Ha, また嫉妬させる気かよ。悪いhoney beeだ。」

くつりと笑った竜王は戯れの言葉を放つそこを噛み付くように塞ぐ。
番が乱れるその様を楽しんだ後、覆い被り余すところなく己が印を赤々と付けた。



ふた月後、果たして成実の予言は当たった。
生温かい目で祝いの言葉を述べる従弟に六爪を見舞ったのは言うまでもない。


2018.12.27. UP



200000HITS記念リク。
ノア様より『花は輝き月は笑む番外編、嫉妬に狂う政宗からの甘々でもう一子』です。
甘いシチュエーションをご希望でしたので、頑張ってみました…が…政宗様の甘さを書くのは久しぶりだったので、訳もなく恥ずかしかったです(笑)
そして、相変わらず成ちゃんにはにぎやかし要員として活躍してもらいました。

ノア様、リクエストをどうもありがとうございました。
甘さは足りましたでしょうか?




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夢幻泡沫