「佐助さん。」
ニッコリと笑って私が呼べば、シュタンと現れる黒い影。
でもその顔は微妙に引き攣っていた。
「…何?」
「…何でそんなに嫌そうなんですか?」
「普段おとなしい桃姫ちゃんが俺様を呼ぶ時って、大抵なんかあるときでしょ。若しくは、無理を言う時。」
「…」
「間違ってる?」
「…無理では、ないですよ…」
「そんな可愛く不貞腐れたって駄目!…で?何の用事?」
苦笑して宥めるように佐助さんが聞いてくる。
「一緒におはぎを作ってくれませんか?」
「おはぎ?」
「え?」
「ごめん、知らないや。」
「おはぎですよ?あ、ぼたもちなら知っていますか?」
「ああ、牡丹餅なら知ってる。へえ、桃姫ちゃんのところはおはぎって言うんだ。」
「それぞれの季節の花に例えて春がぼたもち、秋がおはぎ…と教えられました。」
「ふ〜ん、風流だねー。」
「一緒に作ってもらっていいですか?幸村様のお許しはいただいていますので。」
「…先に旦那に話を通すとか、ほんと策士だよね。」
降参するように両手を挙げながら歩き出した佐助さんの横をついていく。
厨で必要な材料をあっという間に用意してしまった佐助さんには、いつものことながら驚かされた。
「…旦那、バレてるから。」
「…」
「早く出てこないと作ったこれ、あげないよ?」
「それは困るっ!!」
どこにいたのか、瞬時に現れた幸村様に佐助さんが溜息をつく。
「執務は終わったの?」
「…」
「終わってないなら出来上がる前にやればー?」
「…ずるいではないか。」
「は…?」
「なぜお主が桃殿の側にいて、某がいてはならぬのだ。」
「あのねえ…旦那は上田の城主でしょう!やることは山積みなんだから!!」
「ぐ…」
「出来あがったら桃姫ちゃんと持っていくから、おとなしく執務に励んでいなさい!」
「嫌でござる!某もここにいるでござる!!」
「…幸村様ってお料理されたことがあるんですか?」
「あるわけないでしょ。旦那、厨にいても邪魔なだけだよ?」
呆れたような声で私の質問に答えると、佐助さんは幸村様をしっしっと手で追い払う。
己の主に対してあんな態度を取っていいのかしら…
そう思っている間にも、二人の攻防は続いていた。
「…それなら、幸村様にも手伝っていただくのはどうですか?」
あまりに収拾がつかなさそうだったので提案してみる。
すると幸村様が嬉しそうに顔を崩した。
「聞いたか、佐助!某も手助け致す!」
「桃姫ちゃん!?取り消すなら今のうちだよ!?」
「きっと大丈夫ですよ。」
「何を心配しておるのだ、佐助?某、立派に務めを果たしてみせようぞ。」
袖を纏めて意気揚々と近寄ってきた幸村様に、擂鉢と擂粉木を渡す。
「この胡麻を擂ってください。ええと…半分ぐらい擂れたら見せてくれませんか?」
「相分かった。漲るぅぁあああ!!」
「幸村様!?優しく!優しくお願いします!!」
「あ〜あ、言わんこっちゃない…。桃姫ちゃん、ほんとに手伝わせるの?」
「ぬ、分かり申した。」
分かったと言っておきながら、ゴリゴリとすごい音を立てながら幸村様は簡単に胡麻をすり下ろしてしまった。
そこに砂糖とほんの少しの塩を加えて味を調える。
黄粉にも砂糖とほんの少しの塩、餡は粒餡と漉餡を用意した。
ご飯も半分ぐらいついて俵型にまとめる。
そこに好きなものをまぶせば出来上がりだ。
けれど、餡をまぶすのは難しい。
幸村様には転がすだけでいい黄粉と胡麻をお願いした。
粒餡で苦戦している私を横目に、佐助さんは漉餡をとても綺麗にまぶしている。
「…流石ですね。」
「お任せあれってね。」
「すごい上手…どうしたらそんなに上手に被せることができるんですか?」
「んふっ、手早く均等に伸ばすんだよ。」
「…難しい…」
「まあ、これは慣れもあるからね〜。俺様なんかしょっちゅう旦那に作らされてるからさ。おかしいよね、戦忍なのに…」
「ぬ、なれど佐助が作る団子はうまいぞ。」
「だから、俺様は戦忍なの!団子なら買えばいいでしょ!!あ、でもそうすると経費がバカにならないしなあ…大体女中がいるんだから、作るならそっちだよね…旦那も俺様をこき使うならそれなりのお給金を用意しろってんだよ…ああ、もう…」
ブツブツと内にも籠り始めた佐助さんは部屋の片隅で背中を丸めている。
私は慌てて作り上げると、佐助さんに見せに行った。
「佐助さん、どうですか?」
「…うん、上手だよ。」
「ありがとうございます。幸村様は出来あがりましたか?」
「うむ。しかとご覧下され!」
「うわぁ、丁寧に作ってくれたのですね。ありがとうございます。」
「桃殿が優しく扱ってほしいと言われていた故、某うんと気を付けたでござる。」
「美味しそうです!」
幸村様は幼子が泥団子を上手に作って褒められた時のような得意顔をした。
「んじゃ、八つ時にしますか。」
「はい。その前に…せっかく作ったのですから、お供えしませんか?」
「誰にであろうか?それと何故に…?」
それは…
私がいた世界では、今日が九月二十二日だから。
『秋分の日』という特別な日だから…。
「美味しいですね。」
「うむ!某、胡麻をまぶしたのは初めて食したがうまいでござる。桃殿はまこと、たくさんの甘味を知っておられるのだな。」
「ふふっ。桃姫ちゃん、口の端に餡が付いてるよ。俺様が取ってあげる。」
「きゃっ!?」
「なっ…な、にを…はれ…破廉恥だぞ、佐助!!」
「どこが?舌で舐め取っただけでしょ?」
「破廉恥っ!破廉恥でござるぁぁああ!!」
「えー…そんなことないよね、桃姫ちゃん?」
「…破廉恥です…」
「あら、顔が真っ赤。か〜わいい!」
2014.09.01. UPIT
2016.09.22. EDIT