09.モーニングコールと事件は突然に
無事にタロとサルを敵から取り返し…取り返すは言い方が可笑しいけど。
まあとにかく、無事に助けることができたので、私達は三人仲良く手を繋いで(ここ、重要)村への帰路についた。
おかげさまで、またあの霧深い森やら薄暗い洞窟やらを通ることになったとも。
いや、どの道通らなくてはいけなかったんだけどね?
でもね、モンスターが…!
一回倒して来た筈なので、何でかまたモンスターがリスポーンしてたのよ!
きっとこれは、「只で萌はやらんよ」という腐の神様が課した私への試練なんだろう…とか厨二臭い理由をつけながら、私は再びカンテラを振り回したのだった。
…あれ、作文?
「なあ、舞…。ずっと思ってたんだけど、それカンテラの使い方間違ってんじゃねえの?」
「何を言う、タロ少年よ。都会ではカンテラを使って痴漢や不審者や魔物を撃退するのが常識なんだぞ」
「「Σええっ!?そうなのか!?」」
「Σうおおぉいっ!?」
ちょっと待てッ!!
タロはまだ分かるとしても、リンクまで騙されてどうする!!(汗)
思わぬ返答に私もツッコむのを忘れた為、隣二人は嘘だとも知らず「へー、知らなかったなー」等と言い合っていた。
な、何かゴメン…。純粋な少年らを騙して…。
モーニングコールと事件は突然に
「―――おーい、リンク!舞!」
「!? あ、あの声…モイさんだ!」
丁度洞窟を抜けた時、キコルの小屋のある道のほうからモイさんの声が聞こえてきた。
慌てたタロを見兼ね、リンクは「タロ、先に村へ帰ってろっ」とこっそり耳打った。
急いでタロがその場からいなくなると、丁度入れ替わるようにモイさんが私達の前に現れた。
「お前たち、無事か!?」
「ああ、大丈夫。オレも舞も無事さ!」
「そうか、良かった。息子から、森の奥に行ったタロが戻ってないと聞いて、飛んで来たんだが…」
「(わーお、早速バレテルー)」
モイさんは冷や汗を流す私とリンクに気付かず、穏やかな表情で「お前たちが連れて帰ってくれたんだな…すまなかった」と言っていた。
ごめん、タロ…。どうやら君が家に帰ったら阿修羅(両親)が仁王立ちして待っているようだ。
「なあ、リンク…。近頃、この森はちょっとおかしくないか?」
「? 可笑しいって…?」
「ああ、舞はまだ来たばかりだから知らないんだったな。元々ここ、トアル地方には魔物なんて出ないはずなんだ」
「けど、最近この森を中心に魔物がぽつぽつと現れだして、その領土を広げていってるように思うんだ。今はまだ、オレとモイで何とか退けてはいられるんだけど…」
「もしこのまま魔物が領土を増やし続けていけば、俺達だけでは太刀打ちできなくなる。悪いことでも起きなければいいが…」
リンクとモイさんは暗い表情で少し俯いた。
この村が最近“物騒になってきている”と言っていたのはこのことだったのか。
一見長閑に見えていたけど…そんな裏事情が隠れていたなんて…。
「…ああ、それはそうと二人に伝えなきゃいけないことがあるんだ。」
「? 何だ?」
「村で異変が起こってな。うーん、異変と言うより、奇妙なことと言ったほうがいいかな。」
モイさんは自分の髭を撫でながら宙へ視線を向ける。
よく意味が分からず、私とリンクが揃って首を傾げると、モイさんは苦笑して踵を返した。
「まあ、百聞は一見に如かずだ。とにかく、村に戻ろう。ここで夜を迎えると、魔物だらけになって危険だからな」
確かに、ここに長居は危険かもしれない。
空も黒くなり始めている。
私達は同時に頷き、先導するモイさんの背中を追いかけた。
この時、村で起きた“異変”の正体が、私に深く関連するなどとは到底予想できなかった。
++inトアル村++
「さあ、村に着いたぞ。疲れてるとこ悪いが、このまま村長の家へ行くぞ」
空がすっかり黒く染まった頃、私達三人は漸く村に辿り着いた。
村の所々に建てられた松明の明りを頼りに、私達はそのまま村長さんの家へ直行した。
…その際、近くの家からすっっごく怒った声が聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
そして、それはタロを叱りつけているのだというのは――
「タロ、マロ!あんた達何やってたんだい!」「ち、違うよ母ちゃん!オレは…」「そうだ、おれは何もしていない。タロに命令されただけだ」「タロォォオ!!」「Σテメェ、マロ!裏切りやがったなーっ!!」
……間違いではないだろう。(どんまい、タロ。 By舞)
「村長、モイだ。リンクと舞を連れてきたぞ」
コンコン、短いノック音と共にモイさんが扉の前で話しかける。
少し経ってからガチャッと扉が開き、村長さんが顔を出した。
「おお、モイか。すまんな、わざわざ。」
「気にするな。じゃあ、俺は家のこともあるから、先に帰っているな」
「ああ、ありがとう。おやすみ」
「おやすみ、モイ!」
「おやすみなさい」
モイさんは私達の頭をポン、と撫でると、向かいにある家へ続く坂道を上って行った。
少し見送ってから、私とリンクは村長さんに促されるまま、家へと入った。
「コリンから聞いたぞ。お前さん達が、子ども達を助けてくれたんだとな。ありがとう」
「オレは慣れてるから、大丈夫さ!それに、今回は舞も一緒だったから心強かったよ」
「おお、そうだな。舞もすまんな。村に来て早々大変なことをさせてしまって」
「あ、いえ私は何も。リンクのお陰で、私も子どもたちも無事でした。彼のお陰です」
そう、お陰で私は無事だったんだ…。
それにプラスしていっぱい萌えをいただいたからなっ!!(いい笑顔)
「(何やら舞が悦に浸っておるが…)と、ともかく、二人を呼んだのは他でもない。
お前さんらが子ども達を助けに行っとった間、村で奇妙なことが起こったのじゃ」
「ああ、モイも言ってたよ。詳しい話は聞かされなかったんだけど…奇妙なことって、一体何があったんだ?」
リンクが問いかけると、村長さんは後ろにある扉に一度視線をやってからもう一度振り返り、私達に教えてくれた。
「実はの…今日、ファドの牧場に見知らぬ男が倒れていたそうなんじゃ。ファドが言うには、牧場の手入れをしている途中小屋にいた山羊達が突然騒ぎ始め、何事かと思い見に行ったら…小屋の中に一人の青年が倒れていたらしい」
「見知らぬ、青年…?突然に?」
「ああ。牧場に人が入った気配もなく、突然“現れた”そうなんじゃ。不思議なことにのう…」
「あの…その人、誰かに襲われたんですか?」
「いや、見たところ外傷はなかった。じゃが、ひどく衰弱しておったよ。
今はイリアの看病の甲斐もあって幾分か顔色も良くなっておるが、まだ目を覚ましておらん」
「外傷もなく、衰弱して…?それって、まるで一昨日の舞みたいじゃないか!」
え、私?
驚いたように見てくるリンクに困惑しながら視線を返すと、村長さんが困ったように頷いた。
「左様。リンクには一昨日言ったが、こんな事件はわしが村長になって初めての事じゃ。
それがたった3日で2度もあるなんて…。舞を責めるわけではないが、何やら不吉な予感がするのう…。」
「…モイさんから聞きました。近頃、森の様子が可笑しくなってきているって…。それと何か関係あるんでしょうか?私達が突然ここへやって来たことには」
「うーむ、まだ分からん…。一体、何が起こっているのやら…」
顎を撫でる村長さんの表情は険しかった。
私も思わず困惑する。どういうことだろう…私、疫病神になり始めてるんだけど…。
冷や汗を流しながら沈黙の空間に浸ること数分。
突然村長さんの後ろの扉がガチャリ、と開き…
「お父さん、舞は来た?」
「おお、イリア。ああ、舞なら来ておるよ。リンクと一緒にな」
「ホント!?良かった、無事だったのね!リンクは別にどうでもいいけど」
我らがイリア嬢が現れた。流石、こんな時でもブレていない。
黒いこと言いながら笑顔で駆け寄ってくるイリアを受け止めると、横からリンクがイリアに話しかけた。
「イリア、オレ達も男の人を見てみたいんだけど、部屋に入ってもいいかい?」
「え、何リンク…。貴方もしかしてそっちのケでも目覚めたの?ならいいわよ、どうぞ入って!邪魔者は一人でも多く消えてほしいものっ、特に無駄に美形な野郎は」
「イリア…貴方一体リンクに何の恨みが…」
「ケ…?とにかく、ありがとう!さっ、舞行こう」
リンクが私の手を引くと、イリアの目がぎょっと見開かれた。
「ハァ!?何舞までそっちの世界に引きずり込もうとしてるのよ!?舞は私のなんだから、こっちの世界で留まるの!」
「いや、寧ろ今イリアが留めようとしてる世界が危ない方向に逝ってると思うんだけど…」
「そんなことないわ、舞。乙女は清らかで美しい関係が築けるの!さあ、それを証明するためにまずは私の部屋へ行きましょうかv」
「Σ部屋引きずりこむ時点で清らかじゃねぇぇぇっ!!イリアは可愛いけど、私はまだこっちの世界にいたい!」
「あっ、ちょっと舞〜!」
危ない世界へ行こうとしているイリアから離れ、私はリンクの手を掴んで奥の部屋へと逃げ込んだ。
会話の内容についていけていないリンクは首を傾げていたけど…
青年よ、純真な君は知らなくていいんだよ(遠い目)
半ば強引にバンッ!と扉を開けると、すぐ目の前に男の人が寝ているベッドが見えた。
綺麗な刺繍が施された布団から視線を滑らせ、眠っている男の人の顔を見る。
……え…?
「この、人かな…。確かに村では見たことないな」
固まって動きを止めた私を追い越し、リンクが男の人の元へ歩み寄る。
彼に続き、イリアも近くへ寄って行った。
「どう?リンク。この人は好みじゃない?寧ろ好みって言え」
「好み…?どういうこと、イリア?そんなことより心配だよ。早く良くなるといいんだけど」
「心配するってことは…脈はあるってことね!?よしよしよし、その調子で危ない橋を渡って男たちの楽園を作っちゃえ!それで舞は私のものよっ」
「?? 何だか今日はイリアの言ってることが分からないな…。
…あれ?舞!ずっとそこでボーッとしてるけど、どうしたんだ?」
リンクが未だに動かない私に気づき声をかけてきた。
その声にやっと弾かれ、思い出したように私はリンクの声も聞かず男の人が眠っているベッドに駆け寄った。
リンクが突然の私の行動に「舞?ど、どうしたの?」と困惑する。
それを余所に私は男の人の顔をよく見て、再認識した。
この人は知ってる。否、この知らない場所の中で何度も私が必要とした人。
「―――兄さん…!?」
「え…?に、兄さん!?」
「えっ、この人、舞のお兄さんなの!?やだっ、挨拶しなきゃ!」
いや今は無理だし、貴方の挨拶って何の挨拶ですか。
「な、何で兄さんが、こんなことに…ッ!」
ベッドで眠る兄さんは少し辛そうに眉間に皺を寄せている。
そっと額に触れてみると体温が冷たく、一瞬こっちまで冷やりとした。
顔を覗き込んでいると、私の隣に並ぶようにリンクがしゃがみ、兄さんの手を取って脈を測った。
「…脈打ちが少し早いな。イリア、これでもまだマシになったほうなのか?」
「ええ。最初家に来た時は呼吸すら怪しかったの。今は大分良くなったほうよ」
これでマシになったほうということは、最初見つけられた時は本当にやばかったのだろう。
どうしてこんなに衰弱してるのかは分からないけど…
「リンク…私を見つけた時も衰弱してたって聞いたけど、こんなに酷かったの?」
「いや、最初舞を見つけた時がこれぐらいの症状だったんだ。だから回復するにも早かったんだけど…。イリア達の話からすると、この人の症状は相当酷いと思う」
「そう、なんだ…」
大丈夫かな、兄さん…。早く治るといいんだけど。
早く治って、目を覚ましてくれれば落ち着いて話をすることができるのに…。
兄さんをじっと見ていると、リンクが控えめにトン、と肩を叩いてきた。
「舞。お兄さんのこと心配だろうけど、今日はそろそろ家に帰ろう?」
「リンク。でも…」
「大丈夫よ、舞。今日は私が看病するから、この調子でいけば明日にはきっと良くなると思うわ!」
「イリアなら安心できるさ!それに、もう夜も遅くなってきてるし、舞に何かあったらそれこそお兄さんが目覚めた時に心配するよ。」
「…そうね。」
私の勝手な都合でリンクにも迷惑をかけてしまうのも嫌だし。
まだ不安を残しつつも、私とリンクはイリアに挨拶をして部屋を出ることにした。
「おお、リンク、舞!どうじゃった?」
「村長。あの人、舞のお兄さんらしいんだ」
「な、何!?それは本当か?」
「はい、間違いなく私の兄です…。すみません、まだ目が覚めてないので、今日一日村長さんの家で看ていただきたいんですけど」
「ああ、構わんよ。イリアとわしで彼を看ていよう。お前さん達は今日のこともあって疲れておるじゃろう。早く帰って休みなさい」
「ありがとうございます」
申し訳ないと思いつつも、確かに今日は疲れたから早く帰りたい。
いや、私はただカンテラ持って振りまわしただけに過ぎないんだけど。
寧ろ疲れたのはリンクのほうなんだけど。
村長さんにも頭を下げて挨拶をし、リンクと一緒に村長さんの家を後にした。
空を見ると、月は大分高くに昇っている。
「うわー…大分遅くなったなァ。早く帰ろう、舞!オレお腹空いちゃった」
私の心情を思ってか、リンクは明るい表情でそう言った。
今日一日…いや、出会ってからずっと迷惑をかけているのに、リンクにばかり気を遣わせて…
いかんとですね、私!!
「ありがとう、リンク」
「? うん、どういたしまして?」
急なお礼だったからか、リンクは疑問詞のような返事を返してきた。
そんな彼の姿に笑いつつ、私たちは家へと帰る道を辿った。
早く兄さんが元気になって、目を覚ましますように…
ただただそれだけを願いながら。
―――リンクと家に帰ってすぐに眠りについた。
それから暫くして、気がつくと…私は真っ黒い場所にいた。
足は地に着いているけれど、私の周りを囲むのは全て黒、黒、黒。
私にできることは辺りをきょろきょろと見渡すことだけ…。
暫く立ったままでいると、真っ黒い空間の中に小さな光がぽっ、と浮き出た。
何だろう、あれ…。
怪訝にじーっとそれを見つめていると、小さな光はそこだけじゃなく色んなところに浮かびあがった。
それらは最初にできた光に集まり、少しずつ大きくなっていく。
最終的には両手で持てるぐらいの大きさになった。
おー…どういう意味か分らんけど、何かすごい。
まあ、少し大きい光という以外特に変わったことは……
―――…舞、
Σ喋ったァァァアア!?
た、珠が喋った!幻想的な筈なのに何でだろう私がいる所為かギャグに感じるのはっ。
内心ビクビクしながら見ていると、光の珠は続けて何かを発した。
―――ごめんなさい…。
え… 何で謝られたの?
うーん、特に謝られるような覚えはない筈なんだけど…。
よく分からず頭を掻いている間、光の珠は悲しそうにふよふよと揺れていた。
―――ごめんなさい…、ごめんなさい…。
光の珠は何度も何度も謝り続けるばかり。
流石に申し訳なくなってきたので止めようとした時、今まで真っ黒いだけだった空間が歪み始めた。
私も正常に立っていられなくなり、空間と共に意識を遠くへと飛ばしてしまう。
最後に、光の珠の悲しげな懺悔を聞きながら
―――巻き込んでしまって、ごめんなさい……
――チュン、チュン
「…っう、うーん……」
目に当たる眩しい光に誘われ、渋々ながら目を開ける。
見えたのは窓際に泊まる二羽の小鳥と眩しい太陽の光。
ああ、夢か…。
そう思いながらのろのろと体を起こす。
下の階を覗いてみたが、リンクの姿は見えなかった。
くそっ、今日は寝顔チェックできなかったか…!!
「先に起きて、村にでも行ったのかしら…」
まだ覚醒しきれてない頭で答えを導き出し、今まで寝ていた布団を簡単に片づけた。
ぐっと伸びをすると少し頭がすっきりする。
「…今朝の夢、何だったんだろう…」
よく意味が分からないまま終わってしまったが、あの夢の意味は一体何だったんだろう。
もしかして、誰かに謝られる予知夢とか。だとしたらすげーな私の夢。どんなところで予知夢発揮してんの。
「まあ、いいか。異変があればあった時だし、何もなければそれに越したことはないし」
結論、あまり気にしないという方向に至った時には一階に下りきっていた。
さて。これからどうしようか…。
兄さんの容態も気になるし…リンク探しがてら、村に行ってみようかしら。
うん、それがいい。
「朝から押しかけても悪いだろうけど、村長さんなら早起きしてそうだし、イリアもきっと歓迎してくれ―――」
…ドドドドドドド!!
――バターーンッ!!
「舞おはようーーッッ!!!」
「Σギャーーッ!?朝の挨拶にしては騒音すぎやしないかあああッ!!?」
急にけたたましい音と共に扉が開かれ、今から会いに行こうとしていたイリア嬢が朝の挨拶を大声で放った。
思わず自分でも意味不明なツッコミをしつつ驚いている間に、イリアはずんずん私の目の前にやってきた。
と言うか、な、何か……
「い、イリアさん…怒ってらっしゃいませんか?」
そう、何故か彼女は怒っていた。
表情もそうだが、ムカムカとしたオーラが体から放たれている、気がするんだけど…。
「説明は後!兎に角、私に着いてきて!ぐずぐずしてたら、リンクが戻ってきちゃうわっ」
けれどイリアは私の質問に答えるより先に手を掴んできて、今入ってきた入口に戻った。
え、えー?何が起きてるかさっぱり分からんけど、今の言葉の中に疑問な台詞が…。
「って、ちょ、ちょっと待って!イリアっ、私兄さんの容態を見に行きたいんだけど…」
「あ、お兄さん?お兄さんなら、もう大丈夫よ!
今朝、顔色が完全に良くなっていたわ。今はまだ眠っているけど、きっと疲れで眠っているだけだから、目が覚めたら元気になっている筈よっ」
「ほ、本当…?兄さん、無事だったんだ…良かったァ」
「ごめんね。会いたいだろうけど、まだ寝ているから、その間に舞にちょっと付き合ってほしいの。終わったら一緒に家に行きましょう!」
本当は兄さんの姿を少しでも見ておきたかったけど…イリアには看病の件でお世話になってるし、ここは彼女の言うことを聞こう。
「ところで…リンクと何かあったの?」
「そうなのよ!あの無駄イケメン、前々から馬鹿だとは思ってたけどこれほど馬鹿だとは思ってなかったわ!!もう死ねばいいのにッ!!」
軽いノリで聞いてみると、イリアは般若のように恐ろしい形相でそう返してきた。
落ち着けイリア!言葉もだが顔もおっそろしいことになってるぞ!!(汗)
けれどはっきり言う勇気はなく、ただ私は大人しくイリアについて家の前の梯子を下りた。
…って、ちょっと待て。
家の前に梯子あるのに、何でさっき扉開ける前に『ドドドド』って音したんだ?
「それはね、私がふんばりダッシュで勢いのまま梯子を駆け上った時の音よ」
「シリーズ違うし何でイリアそんなことできるの」
「乙女はね、窮地に追い詰められた時何でもできるのよ!」
小学校の時に0点を取ってお母さんから死ぬ気で逃げようとしたけど、私にできたのは顔面スライディングだけだったぞ。
イコール私は乙女じゃないってことなのだろうか…。
「兎に角、妖精の泉に行きましょう!エポナ、行くわよ」
イリアは家の横で待機していたエポナの手綱を右手に、左手に私の手を引っ張って横道へと入って行った。
妖精の泉…?また、何で。
「イリア、そろそろ説明がほしいんだけど…。何でエポナを連れて妖精の泉に?それに、リンクと何があったの?」
「リンク、今朝エポナと一緒に牧場に行って山羊追いの手伝いをしていたのよ。で、その帰りに私とお父さんがリンク達に会ったの」
成程。朝から姿が見えなかったのは牧場に行ってたからなのか。
朝から仕事に行ってたのに、私ときたら…。本物のプー太郎か!
「その時、エポナが怪我しているのに気がついたの。リンクに聞いてもはっきり言わないし…。きっと山羊追いの時に何かの弾みで怪我させたんだわっ」
「(怪我って…もしかして、昨日森に行った時に?
あー、そっか。イリアは知らないんだ…)」
「だからね、反省するまでエポナは返さないって言ってきたの。妖精の泉に連れて行って、早く治してあげなきゃ」
そうこう言ってる間に泉に着き、イリアは私の手を離してエポナを泉の中央へ連れて行った。
どうしよう。私が説明すればいいんだけど、何て言えばいいのか…。
「ハァッ、ハァッ…!イリア姉ちゃんっ」
「コリン!」
「あ…舞お姉ちゃん、おはよう。あのねっ、リンクのことなんだけど」
泉の入口からコリンが息を切らしながらやってきた。
何か言おうとしたけど、何かに気づいたイリアが急いで入口に駆け寄ってきて、泉に繋がる入口の門を閉じてしまった。
「コリン、リンクも来てるのね?」
「え?う、うん…僕と一緒にきてたけど」
「またエポナに無茶をさせる気ね…。絶対に許さないわ!」
イリアは相当怒ってるのか、コリンの言おうとしたことにも耳を貸さなかった。
どうしよう、とコリンと目を合わせる。
すると、少し遅れて門の外側に誰かが走ってきた。
「イリア!何で門を…!!」
「リンク!」
「あ、舞!おはようっ。昨日の疲れはもう取れた?」
門越しから私に気づいたリンクは、ニパッと笑顔を浮かべてそう聞いてきた。
この緊迫した空気で人の気遣いができるリンクはある意味凄い…。
返事を返そうとすると、イリアが門越しのリンクに向かって きっ、と鋭い目つきで振り返った。
「リンク、エポナを連れ戻しに来たのならダメよ!
少しは反省しなさい!そして泣いて土下座をして私に『許してください』と涙ごいしなさい。それまで、扉は開けないから」
それだと一生この門は開かない気がする。
「イリア、頼むよ!エポナがいないと、城への献上品を届けられないだろ!?」
「えっ、し、城への献上品…?」
「ああ、そうなんだよ…。大事なものがあって、それを正午までには届けなくちゃいけないんだ!
その為にはエポナがいないと間に合わないんだよっ」
思いがけぬ言葉に驚き、私は思わず反芻した。
一体どういった経緯でそうなったかは知らないし、何を届けるのかも知らないけど…
リンクがとても大事な仕事を任されたのだということだけは分かった。
それなら急いで何とかしないと。
何とか説得を試みようとすると、先にコリンが門に駆け寄った。
「リンク。イリア姉ちゃん、昨日のこと知らないんだよ…。
うまく言えるかどうかわからないけど…ボク達にまかせてよ。」
「そ、そうね。コリンの言う通り、イリアは私達が何とか説得してみるわ!」
「二人とも、でも…」
「大丈夫。舞お姉ちゃんがいるから、きっと上手くいくよ。
だからリンクは、その間にあっちの裏の穴からまわっておいでよ」
そう言ってコリンは、少し離れた場所にある穴の空いた壁を指した。
リンクも理解したようで、私達を危惧しながら見た後、頷いて裏の穴へと回った。
私はコリンと一緒にイリアの元へ向かう。
「イリア!エポナの怪我なんだけど、それ、リンクの所為じゃないの。昨日、森に行った時についてしまったものなのよっ」
「舞、リンクに法螺話を吹き込まれたの?駄目よ、信じちゃ!」
「嘘じゃないよ、本当だよイリア姉ちゃんっ。リンクと舞が、昨日森に行ったタロを助けに行ってくれたんだ…。僕も見たんだっ、本当だよ!」
コリンも加担するとは予想外だったのか、イリアが驚いたように彼を見た。
「エポナがいなかったら、きっとタロは魔物に食べられちゃってたと思う…。
だから、エポナが怪我したことを怒らないであげてっ」
「コリン…」
「イリア、私からもお願い。リンクとエポナは、タロの為に必死だったの。エポナが怪我したことは、一緒にいた私も反省するわ。だから、お願い。彼を許してあげてくれないかしら?」
「舞…。
…そんなことが、あったの…。」
冷静になってくれたようで、イリアは私達の話を聞いて少し考えるように俯いた。
「でも…」と彼女が言葉を紡ごうとした時、離れたところからパンパン、と土を払う音が聞こえた。
目を向けると、そこには穴から出てきたリンクが申し訳なさそうに立っていた。
「イリア!」
「リンク…。そんな横穴からこそこそ入ってくるなんて、やっぱり反省してないんじゃないの?」
「(た、確かにタイミングは超絶悪かったけど…!もの凄い気まずい空気になったけども!!)」
「イリア、ごめん。エポナのことは謝るよっ。だから頼むよ、許してくれないかな?
オレが城へ献上品を届けないと、この村の信用を下げてしまうんだ。そうなれば、村の皆に申し訳が立たなくなる」
「……」
イリアはリンクの声を聞きながらエポナに手を伸ばした。
すると、エポナは嫌がるように身を震わせ、ゆっくりとリンクへ歩み寄って行った。
…まさかエポナ、イリアの腹黒オーラ感じ取って逃げたんじゃなかろうな(汗)
「エポナ…酷い目にあったのに、それでもシモベのようなご主人のほうがいいのね…。」
「(なんちゅーこと言うの)」
「…このコなら、大丈夫よ。幸い怪我も大したことなさそうだし、一緒に連れて行けるわよ」
「そうか…!良かったっ」
リンクはイリアの黒発言が聞こえなかったのか、純粋に嬉しそうにエポナの体を撫でた。
私は君の耳がどんな構造してるのかもの凄く知りたいわ。
…ところで、聞きたいことがあるんだけど。
「ねえリンク、これからお城へ行くの?」
「ああ、そうだ!舞に言うの遅くなっちゃったんだけど…。
村の献上品である、剣と盾をオレがハイラル城へ届けることになったんだ。だから、暫くオレはこの村を離れることになるんだけど…。
それで、良かったら舞も一緒に行かないかな?」
「Σはいっ!?な、何で…?私なんて一緒に行っても迷惑だし、足手纏いになるだけよ?」
まさかのリンクからのお誘いに驚く私に、彼は落ち着きながら理由を述べた。
「ほら、舞は今故郷がどこにあるか分からないって言ってただろ?
ハイラル城下町には旅人や商人が多く集まるから、色んな情報が集められるだろうって村長が言ってたんだ。
だから、そこで舞とお兄さんの故郷に関する情報を集めたらどうかと思ってさ!どうかな?この村よりはきっといい情報があると思うよ!」
「成程…。それは、確かにいい考えかも。でも…」
まだ兄さんが目を覚ましてない以上、兄さんの傍を離れるのは心配だ。
折角リンクが私達のことを考えて誘ってくれたのに、悪いとは思うけれど…今はもう少し兄さんの様子を見ていたい。
自分の中で結論を出し、私はリンクに断りを入れようと口を開いた。
――…ドドドド…
「…?り、リンク…」
「どうした?コリン」
「な、何か…大きな音が、近付いてきてない…?」
「え?」
コリンが不安げな表情でリンクに問いかける。
確かに、さっきまで気付かなかったけど、何か大きな音が辺りに響いている。
音が大きくなるに伴い、地響きも大きくなっていく。
辺りをきょろきょろとする中、真っ先に何かに気づいたリンクがバッと門に振り返った。
―――バアアアンッ!!
「えっ!?」
「キャアッ!」
「な、何だ!?」
平穏になった空気を再び壊すように、泉への門を何かが突然ぶち破ってきた!
混乱する視界に映ったのは、数頭の猪とその上に跨る緑色の魔物。
【グオォォォッ!!】
リーダー格の魔物が法螺笛のようなものを吹いた途端、一気に魔物が私達に向かって押し寄せてきた。
「っ皆逃げろ!!」
「! コリン!!」
「舞お姉ちゃんっ」
リンクの声に弾かれ、私は一番近くにいたコリンの手を引っ張って走り出した。
魔物が二匹、私とコリンを狙ってくる。
嫌な汗が背中に流れたが、それでも走る足を止めなかった。
…しかし、
「キャアッ!!」
「! イリアッ!!」
ゴッ!と嫌な音の直後、イリアの悲鳴が響いた。
声のしたほうを見ると、魔物が持っていた棍棒で殴られたであろうイリアが気絶していた。
い、イリアが…負けた…!?
あの黒の女王でもあるイリアが負けただとっ!?信じられん!!
…い、いやっ、そんなこと言ってる場合じゃないっ。
リンクも気付いたようで、私達はイリアの元へ駆け寄ろうと体を反転させる。
だが、一瞬動きが止まった所為で敵との距離が縮まってしまい、振り向いた直後私の頭部に打撃が振り落とされた。
ゴッ!!
「ぃっ…!!」
「舞お姉ちゃん!」
頭に激痛が走り、ふらふらと揺れた後、すぐに体が倒れた。
バシャッ!と泉の水が跳ねる。
「っ…い、だ……」
「舞ッ!?」
ぼやける視界に、私の周りの水が赤く染まるのと、リンクと思わしき影が私に向かって駆け寄ってこようとしている姿が見えた。
「舞っ!!!」
「リ…、ク」
彼に手を伸ばせば、救われると思った。
ふるふると震える手を伸ばそうとするも、意識が暗転する速度のほうが早かった。
遂には手を伸ばす力もなくなり、先の体のように泉にパシャッと落ちた。
リンクの叫び声のような声を聞きながら、私の意識は完全に途絶えた。
―――意識が途絶える直前、包帯が巻かれている筈の右手の甲が…微かに光ったような気がした。
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