03.天国巡りツアー
まだ昼間だと言うのに、晴れた雲の切れ間から流れ星が飛んできた。
上に、人を乗せた流れ星が
「ひっ…!えっ、えっ…うえぇ…!」
「カービィ…」
「う``えぇぇん!」
明るい星とは対照に、愁いの色を見せるカービィ。
そのカービィを見て、同じように悲しそうに眉間を歪めながら、ピーチはそっと小さな体に手を添えた。
――舞が、消えてしまった。
最悪な予想が頭の中に過るのは、先ほど見てしまったあの光景を思い出した為である。
謎の敵に襲いかかられたスタジアムで、ピーチ達は大事な仲間と離れ離れになってしまった。
マリオ、ゼルダの二人ならまだ大丈夫だ。あの二人は戦えるし、あの状態ならまだ命は助かっている筈。
だけど…あの少女は。唯一スマブラメンバーの中で戦えない舞だけは、『生きているのか』と聞かれれば…答えにくい。
「(舞ちゃん…っ)」
ピーチは真っ青になる自分の顔色に気付き、弱弱しく首を左右に振った。
そして、涙を堪え切れず泣いている小さな桃色の影に、なるべく落ち着いた声色で話しかける。
「大丈夫よ、カービィ。きっと舞ちゃんは無事だから」
「ひっ…、な、なんでぇ…?」
「舞ちゃんは…いつだって笑顔を絶やさないしっかりした女の子だもの。きっと、さっきの爆発にも飲み込まれていないわ。
だから、大丈夫。あたし達も舞ちゃんを信じて、早く見つけてあげましょう!」
にこっとピーチが明るく言うと、カービィの顔色が少しだけマシになった。
「うんっ」と涙目のまま頷くのを見て、ピーチも頷いた。
二人は白い雲が立ち込める雲海の中を、当てもなく突き進んだ。
「(舞ちゃん…、どうか無事でいてね)」
ピーチは、何も見えない淡い浅緋色の空を見上げた。
心の中で思うのは、妹のように大事に可愛がった少女の笑顔の無事だった…。
――そして、事態は地上だけでなく、遥か彼方にある『天空界』にまで広がっていた。
天国巡りツアー
「す、スタジアムが…!!」
清らかな聖水が溢れる天空界の映像装置に映った光景を見て、今まで熱い闘いの観戦に熱中していたピットの顔色が変わった。それも、悪いほうに。
彼の表情を蒼白へと変えた原因は、紛れもなく、たった今巨大なブラックホールに飲み込まれたスタジアムだった。
ピットは真っ白になる頭をバンと叩き、親衛隊長らしい真剣な顔つきで聖水の杯に両手を伸ばす。
「と にかく、落ち着かないと…。」
スゥ…と小さく息を吸うと、まるで彼の意志に呼応するかのように聖水が光りだす。
仄かな光を纏って映像を変えて現れたのは、ブラックホールに包まれる前のスタジアムの姿…。
どうやら、ピットは映像を戻したらしい。
「映像から聞こえた、舞の声…。彼女は、この演出を知らないって言ってた…。
まさか、マスターのドッキリ企画…?いや、でも…幾らイベントが大好きなマスターとは言え、観客を脅かすようなことするとは思えないし…」
ピットは、思考を巡らせながら流れていく映像をじっと静かに見つめる。
謎の戦艦と不気味な爆弾が現れたところで表情を歪めた。
「こんな敵…こっち(天空界)でも見たことがない…。しかもこの数、偶然この場に居合わせたわけじゃなさそうだし…」
…まさか、前々からこの大乱闘の企画を知って奇襲の機を狙っていた?
ピットは一つの仮説を立て、マリオとカービィが数多の敵に襲いかかられている映像を見つめた。
間違いない、恐らく自分の仮説は合っている。スーパースターが戦い終えた後、まるで疲れた彼らを始末しようとするかのようなタイミングで現れた敵の軍勢…。偶然と言うにはあまりに出来過ぎている。
「でも、何で…?大乱闘企画を潰すためか、この企画の発案者でもあるマスターと、クレイジーを憎んだ敵の陰謀…?でも、それならどうして舞を―――」
重々しくピットがある少女の名を紡いだと同時に、聖水に移った映像には両腕をロボットに捕まれて必死に抵抗している彼女の姿が。
そして、それは間もなく…禍々しくも恐ろしいブラックホールに姿を消されてしまった。
「…っ舞…!」
ピットは、映像が消えて静かになった聖水の杯についた両手を強く握りしめた。
彼女が捕まっている姿を見ていながら、自分はただ驚いて悲鳴をあげることしかできなかった。
今更になり後悔と罪悪感がふつふつと生まれ、ピットは目尻に涙を浮かべた。
「(舞…舞…。し、死んでないよね…?俺、まだ舞と十分話せてないよ…?
…そうだ、まだこれからいっぱい話すんだからっ。死んじゃ駄目…死んじゃ、嫌だ!)」
震える拳を握りしめ、気落ちする心に渇を入れる。
「マリオさん達が、いないのなら…っ。俺が、舞を…!」
今のピットは自分のやるべきことすらも忘れてしまい、このまま天空界を抜けて地上へと降りるつもりだった。
その決意を固め、引き締めた顔をぐっと上げた。
…その時、暗かった部屋にカツン、と高いヒール音が響いた。
「ピット」
「! ぱ、パルテナ様…!?」
名前を呼ばれて振り返ったピットの瞳に映ったのは、自分が守るべき主君であり、天空界の女神、パルテナ神だった。
凛とした姿で佇む彼女は「その様子からすると…、貴方もたった今地上で起きたことを目撃したようですね」と静かに言葉を紡いだ。
執務を放棄していたことがバレ慌てふためきながら、ピットはすぐさまパルテナの前に跪いた。
「も、申し訳ありません…っ。執務を投げ出し、このようなことを、してしまったお詫び…か、必ずやっ」
「いいのですよ、ピット。今はそれよりも重大なことがあるでしょう?」
優しく透き通った声に促され、ピットはおずおずと顔を上げた。
見上げた先の女神は怒ったような風貌は見せていない。ピットは心のどこかでホッとした。
「地上界で突如起きた、謎のブラックホール…」
「大変なことが起きてしまいましたね」
「パルテナ様…あれは一体、どこの手の者が…?」
「分かりません。詳しいことは、今、イカロス達に調べてもらっています。しかし…あまり犯人の正体が明かされることを期待しないほうが良いでしょう。恐らく、手掛かりは掴めません。」
ピットはパルテナの言葉に心底驚いた。手掛かりが掴めない、という弱気な言葉にではない。
『パルテナ神が犯人を見つけられなかった。』
それはつまり、誰にも見つからないという意味に近かった。
そもそも、天空界という高い場所に属する世界を統一する神にかかれば、目下に広がる地上界など、歩く蟻一匹でも見通せてしまうのだ。
その神が見つけられないとなると、これは由々しき事態である。
「ぱっ、パルテナ様が…見つけられない、なんて…」
「敵が地上ではなく別の次元に身を潜めているのか、或いは、何か特別な力で身を隠しているのか…。どちらにせよ、こんなことは私が女神になって以来初めてのことです。
無下に放ってはおけません。我々も地上の者たちに加担いたしましょう」
「へ…?」
加担の言葉の意味が分からず、ピットは元々大きな目を更に大きく開けて首を傾げた。
そんな彼の前で、パルテナは静かに右手を伸ばすと、掌の中から暖かい光の珠を作り出す。
ふよふよと漂うそれは、ゆっくりとピットの前に降りていく。
その意図が分からず反射的に光の珠の下に両手を広げると、それを待っていたかのように光の珠がブン…と音を立てて別のものを形成した。
「あ…っ!」
それは、紛れもなくピットの武器だった。
ぐ、と手で掴むと、主を認めたかのように左手首に光の輪が二重現れた。
手にしっかりと馴染む己の武器を見た後、目の前の主君を見上げる。
パルテナ神はピットの視線に静かに頷くと、右手をバッと広げた。
「お行きなさい、ピット。地上の人々を救うのです。それが、貴方に課せられた使命」
「は、はいっ!」
願ってもない出陣命令に、ピットは瞳を輝かせた。
そして、主君に背中を向けて部屋の一角にある透明の階段を駆け上っていく。
一段一段上るごとに、彼の心は生き生きと輝きを放って行った。
「(これで、堂々と舞を…助けに行ける…!俺が、守るんだっ。今度こそ!)」
最後の段を蹴ると、目の前には雄々しい扉。
扉はピットの意思を汲み取ったかのように、彼が手を伸ばして開けるよりも早く自ら両の扉を開いていった。
暗かった部屋に、天空界の青空の光が差し込む。
その光に抗うことなく、ピットは手に持った武器を握る手により一層力を込め、ダン!と力強く地面を蹴った。
そして、己の背から生える純白な翼をバサリと羽ばたかせ、大空を疾走した。
全ては主君の為、地上の民の為、そして…己が愛する、たった一人の少女の為に
「待ってて、舞…。俺が、必ず、君を助ける…!」
天空界に近い場所を漂う雲は、神聖な空気を十分に吸っているために普通の雲よりも厚く、そして地面のように確かな感触がある。
けれど、ピットは重圧のある雲をものともせず、まるで海を泳ぐ魚のようにすいすいと駆け抜けていく。
地上までは大分距離があるが、その道中に何があるか分からない。
ピットは警戒を怠ることなく周囲に目線を配っていた。
「特に、今のところ怪しいところはないかな…。
…うん?」
不意に、ピットは己にかかる風の匂いが変わったことに気付いた。
ピリ、と肌にかかる痛い風…。身震いをしたピットは、すぐさま近くの雲に着地した。
「何…?何か、嫌な感じがする…」
ピットはいつでも武器を振るえる体制をとって、辺りをくまなく見渡した。
視界に広がるのは雲海のみ。
だが…雲海のある一角から、重々しい音を立てて何かが姿を現せた。
徐々に音が大きくなり、鼓膜がビリビリと振るえるほどにまでなった時、耳を塞ごうとしたピットは目の前に現れたものを見てハッと息を呑んだ。
「あ、あれは…スタジアムを襲った、謎の戦艦…!?」
そう、彼の前にゆっくりと姿を現せたのは、空中スタジアムを襲った巨大な戦艦だった。
実物を見て驚愕に浸るピットだったが、彼の表情はすぐに変わることになる。
あたかも無視をして通り過ぎようとピットの頭上を戦艦が過ぎる寸前、船体の底から紫色の胞子が降り注がれたのだ。
それは雲海に着地すると同時に、奇妙な音を立ててロボットの姿を形成していく。
それらは間違いなく、マリオたちを襲ったロボット集団だった。
「っ。俺を、潰そうとしてる…?」
ロボット達はゆっくりと、だが確実にピットに向かって歩みよってきていた。
狙いは間違いなく自分だ。
戦場の空気にごくり、と唾液を呑み込み、ピットは己の武器に手をかける。
だが、敵の何体かが別の場所へ向かっているのに気付いた。
「…?何だ…?」
彼らの向かう先に何かがあるのだろうか。
ピットは奇襲をかけられないよう注意しながら、敵が向かう方向に目を向ける。
そして、驚いた。
「あっ…!あれは…マリオ、さん!?」
そう、敵が向かう先、ピットの視線が向かう先には、雲海に横たわるマリオだった。
しかし、その姿は色をなくし、金の盤に乗って無機質にポーズを構えている。
それは紛れもなくフィギュア化をしたマリオだったのだ。恐らく、先の砲撃でここまで飛ばされてきたのだろう。
敵の狙いが何か分かり、ピットは目を鋭くして高く跳びあがる。
ゆっくりと歩む敵よりも早くマリオの元に辿り着くと、彼を背に武器を構えた。
「ま、マリオさんは…お前らなんかに、渡さないっ!」
勇ましく吠えると、ピットは弓状になっていた武器を真ん中で分断させ、双剣へと変化させた。
「いくぞ…!!」
力強く雲を蹴り、ピットは目の前に迫っていた軍勢を素早い剣劇で霧払う。
ピットの斬激を食らった敵は、最初の胞子の姿になり、静かに宙に霧散していく。
先陣を切った仲間がやられたのを見て、後方の敵がピットになだれ込む。
後ろに控えている敵の狙撃隊の銃がピットを狙い、一斉に放たれた。
だが、ピットはそれを光と共に具現化させた鏡の盾で防ぐ。
鏡面を反射した敵の銃弾は、前を行く敵の何体かに辺り、敵を倒した。
すぐに鏡の盾をしまうと、ピットは前進するとともに両手に構えた双剣を自分の前で風車のように回す。
ピットの得意技でもある連続攻撃、エンジャリングだ。
「おおおおお!!」
ピットの凄まじい気迫と防ぎきれない連続攻撃に、襲いかかってきた敵が何体も消えていく。
ならば、とがら空きの背中を狙って数体の敵が回り込む。
しかし、敵の剣が振り下ろされるよりも早くピットは横に跳び、振り返りざまに右手の剣を横なぎに振った。
ザンッ!と音が響き、背中を狙った敵の数体が消えた。
段々と敵の数が減っていっている。有利に立っているのはピットだ。
「うん。このままいけば…、なんとか、凌げる…!」
くるりと宙で一回転すると、ピットは着地と同時に双剣を目の前で構えた。
再び敵の波に切りかかろうとした刹那、敵の波が突然打ち上がり、胞子となって消えた。
「なっ…!」
突如目の前で起きたことに驚くピットの視界に、大きな鉄の塊のようなものが現れる。
足の代わりにつけられたタイヤを支えに、球体状の鉄の胴体がどっしりと構えていた。胴体の上には生身であろう頭が出ている。
そして、何よりも目を引いたのは胴体の両脇から伸びている大きな二本の鎌だ。恐らく、あれで今の敵の波を吹き飛ばしたのだろう。
ピットの身長よりも大きな鎌にゾッとするも、自分に向かって振り下ろされた途端慌てて空へ飛び上がった。
ピットの服を掠めて、鎌はピットがいたところに振り下ろされる。
「あ、あんなの当たったら…痛いだけじゃ、すまない…!」
ぐ、と眉間に皺を寄せ、ピットは双剣を元の弓状の形に戻した。
空中から作り上げた光の矢をセットすると、弦を大きく引き、敵に向かって鋭い一矢を放った。
しかし、ピットの矢は敵の鉄の胴体に当たり、カン!と空しい音を立てて消え去った。
「弓矢が効かないっ…。遠距離戦は、無理かっ」
しかし、敵の攻撃範囲に入ってしまえば、あの巨大な鎌に一瞬で首をとられるのがオチだ。
唯一頼りになる遠距離攻撃は弾かれてしまう。
さて、どうするべきか。ピットは敵の攻撃を掻い潜りながら必死に思考を巡らせる。
ブンッと大きく振るわれた攻撃を屈むことで避けると、ピットの視界に色の違う、真っ白な雲の地面が見えた。
「!(そうだ…あそこならっ)」
瞬時に何かに気づき、ピットは今まで防戦に徹していた動きを変え、くるりと方向転換をする。
そして、敵に背を向けて一目散に逃げ出したのだ。
敵はピットが逃げ出したことに気がつくと、その巨体からは想像できないほどの速さでピットの背中を追いかけた。
走るだけでは間に合わないと踏み、ピットは自らの翼を駆使し、なるべく地面に近い低空飛行を心がける。
さっきよりも速度があがり、少しずつ敵との距離が開く。
敵もそれに気が付き焦ったのか、目と鎌をギラリと光らせて全力でピットを追いかけた。
―――それがピットの狙いだとも知らずに
ボコッ!
【…!?】
敵の長く巨大な鎌がピットを捉えるほどの射程距離に入り、狙いに向かって鎌を振りおろそうとした瞬間、今まで難なく走っていた敵のタイヤが雲の中に沈んだ。
驚いて反射的に見上げると、その先には自分を振り返り、空に浮かんでいるピットが見えた。
「天空界の雲は、確かに固体化してるけど…。白い雲は、物体を乗せれるほど、固まっていないんだ…!」
ピットの言葉を考える暇もなく、敵の体は雲をすり抜けて地上へと真っ逆さまに急降下していった。
もうさっきのように自分を支えてくれる雲はない。
落ちていく中、見上げる先にあるのは…純白に輝く真っ白な雲しかなかった。
敵の姿が完全に見えなくなるまで、ピットはその場に浮いたまま動かなかった。
暫くして、戻ってくる気配がないことを確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。
あの重厚な体だ、落ちていけば戻ってくることはまず無理だろう。
カシャリ、と音を鳴らせ、ピットは武器を手に飛躍する。
飛び立った先には、フィギュア化したまま横たわるマリオがいる。
その前に降りると、ピットはどうにかこれを人に戻せないかと考えた。
「えっと…確か、あのスタジアムでは……」
数分前に観戦していた時も、マリオはフィギュア化したカービィを元の姿に戻していた。
あの時は確か、下にある金の盤に触れたはず。
その時の光景を脳裏で思い出し、ピットは(性格上)恐る恐る盤に触れた。
―――刹那。
カッ!
「―――…っ」
「あ…!ま、マリオさんっ」
眩い閃光が辺りを包み、光が収まった頃には元の色を取り戻し、動いているマリオがいた。
喜びのあまり彼の名を元気よく呼ぶと、マリオは意識のはっきりしない頭を左右に振った後、声のしたほうを振り向いた。
「何だ?ここは、いった…」
マリオの視線がピットを捉えた瞬間、ピシリと音を立てて…再び固まった。
「Σええええ!?ちょちょちょっ、マリオさんっ!?ま、またフィギュア化…?ででで、でも何でっ」
マスターハンドに教わった知識によると、確かフィギュア化するのは瀕死に近い状態に陥った時だけ。
今はそんな時ではない筈だし…まさか、自分の顔は見ただけで瀕死になるほど酷いものなのだろうか!?
どんどん悪い方向に妄想を膨らませて慌てるピット。だが、硬直したマリオはそんな彼を余所に、不意にぶるぶると震えだした。
「…か……」
「へ?」
小さな声がマリオの口から零れる。
フィギュア化したのではないことが分かり安心した刹那、顔を真っ青に染めたマリオが悲鳴に近い叫び声をあげた。
「お、俺は!とうとう死んでしまったのかぁぁぁあ!?」
「ええっ!?」
…そう、言って。
「ちょ、ま、マリオさん…?どうしたんですか、急に。
マリオさんは、ちゃんと、生きてるじゃない…ですか…!」
「嘘だぁ!目の前に見える純白な翼っ。
それが背中から生えてるなんて、あの世からの使いでしかない…!まさか26の若さで死ぬことになるなんて!ぬおおおっ、何故あの時砲弾を避けなかったんだ俺の馬鹿っ!!」
「…あれ?え、もしかしてマリオさん……お、俺のこと?」
「当たり前だ!お前、天国に連れてくあの世の案内人だろ!?」
この人完全に自分が同じスマブラファミリーだってこと忘れてるっっ!!
まさか大先輩でもあり、自分が尊敬するスーパースターに忘れられてるとは思わず、ピットはショックのあまりふらりと倒れかけた。
この時ばかりは忘れられていたことへのショックと悲しみが大きく、普段のおどおどさも消え去っていた。
「ひ、酷いですマリオさん!お、俺、ピットですよっ!
たた、確かに新参者ですけどっ…マリオさんと同じ、スマブラメンバーじゃないですかぁっ!」
「…へ?…あ、そ、そうか!ピットか!す、すまんうっかり」
「ううっ、身を挺して先輩を守ったのに…。でも…思い出して、くれたから…」
「しかし、ピット。お前帰還している間に殉職したのか?俺より一足先にあの世の住人になってたなんて…。どうだ、天国は楽しいか…?その翼も慣れたらいいもんか?」
「Σマリオさん、本当に俺のこと思い出してますっ!?」
この翼は元々生えてたでしょうが!!
どうやらいくらか記憶が混乱しているらしく、そんなマリオを説得するのには時間がかかった。
――暫くして、漸く完璧にピットのことを思い出したマリオは不思議そうな顔でピットを見やる。
「ピット、お前はどうして此処に?天空界、だったか?お前の故郷にいる筈じゃなかったか?」
「お、俺の天空界は…スマブラ界の頭上に広がる空、です。地上での…マリオさん達の身に起きた事件を見て、飛んできたんです」
ピットは、いささか疲れていた。(そりゃそうだろう)
自分が原因だと分かっているマリオも、そんな彼に「…すまん。大丈夫か?」と労わりの言葉を投げかけた。
「俺たちに起きた事件…お前は見ていたのか?」
「は、はい。あの、天空界から…」
「そうか…。それなら知ってるとは思うが、俺は戦いの途中、何者かからの砲撃にやられちまったんだ。
だから、あの後皆がどうなったか分からない。ピット、俺が吹き飛ばされた後のことを教えてくれないか?」
「は、はいっ」
ピットは、自分がみたことをありのまま詳しく話した。
話が進むにつれ、マリオの顔つきが険しくなっていく。最後にピットの口から聞いた情報を聞くと、今までで一番驚いた顔を見せた。
「なっ、舞がブラックホールに飲み込まれただって!?」
「はい…。スタジアム全体を包み込むぐらいの、大きなものだったので…舞がどうなったかは…」
「そんな…嘘だろ…」
マリオは愕然と雲の地面を見つめた。数時間前までは、意気揚々と話しながら隣を歩いていた少女がブラックホールに飲み込まれた。それはつまり…。
最悪な結果を想像し、マリオは体を震わせた。一刻も早く助けに行かなければならない。
だが…、もう一つ気になったことがあり、マリオは口元に手を当てて考え込んだ。
「俺に砲撃を浴びせ、更にゼルダ姫を攫った犯人…。特徴からして、間違いなくワリオだろうな。」
「はい…。確か、ピーチ姫もそんな名前で、呼んでいました」
「あいつまでこっち(スマブラ界)に来てたとは驚きだが…あいつらしい悪巧みだ。今回の事件にも一枚噛んでいるに違いない」
「…?主犯、じゃあないんですか…?」
「それは違うだろ。ワリオは確かにずる賢い奴だが、こんな壮大な計画を立てれるほど頭は良くない。それに、主犯なら恐らく、堂々と乗り込んできた戦艦の持ち主だろう。ワリオはあんな戦艦を操縦できる腕は持ってないしな。」
「なるほど…」
確かに彼の言うとおり、ワリオが現れた後も戦艦は独りでに動いていた。
その説で言えば、ワリオは事件を起こした真犯人ではない。
「しかし、ゼルダ姫が攫われるとは…。予想外だった。大丈夫だろうか…」
「だ、大丈夫ですよ、きっと。ゼルダ姫は姫様ですけど…列記とした、スマブラメンバーの一員ですから。そう簡単にやられるとは…」
「いや、違う。俺が心配しているのはゼルダ姫じゃあない。
ワリオの身だ。」
は?
「ど、どういう、ことですか…?」
「考えてもみろ、ピット。あのゼルダ姫だぞ?フィギュア化しているとは言え、何らかの拍子に敵さんの元で元の姿に戻ってみろ。ワリオの生贄の元に、一瞬で血飛沫乱舞のお祭りが開かれるぞ。」
「…。(た、確かに…)」
本来ならば攫われて怖い思いをしているのではないか、と不安になるものだが…。
普段から腹黒お姫様の暴走を垣間見てきた彼らには到底そう思えない。
この時、彼らの思いは別のことで一つになっていた。『果たして、怖い思いをするのはどちらなのだろうか』…と。
何故か事件を起こした敵の身を案じるという奇怪な光景が雲海の一端で見られる。
沈黙と共に震えていた二人だが、彼らの真上を何かがもの凄い速さで駆け抜けたことに気づき、ハッと顔をあげた。
一瞬の時間差を置いて身にかかった爆風…。
それは、たった今頭上を通過し、遥か彼方に小さくなって見える戦艦を追う、一機の戦闘機。
「な、何…?今の…。戦艦を追っていったように、見えるけど…」
「あの戦闘機、どこかで見たような…?」
二人は、雲海の上を飛ぶ鉄の鳥を暫くじっと見つめていた。
暫くすると、先に我に返ったマリオがピットの顔を覗き込んだ。
「ピット、俺はこれから地上に降りようと思う。マスター達と連絡を取って、できるだけ仲間を集めながら、今回の事件を起こした犯人を探してみようと思うんだが」
「え?で、でも…犯人が誰で、どこにいるか、分からないんじゃ…」
「ああ。だから、そいつと繋がっているワリオと、ローブに身を包んだ謎の人物を探すんだ。そいつらから情報を掴み、真犯人を見つけ出す。」
マリオは自分の目の前に翳した手を、ぐっと強く握りしめた。
それはまるで、自分が決めた決意を表しているかのように強く、固い。
その姿を見たピットは、マリオの素早い機転と行動力に感嘆のため息を吐きだした。
「(マリオさん、やっぱり凄いなァ…。やられて、何の情報もないのに、前に進もうとしてるのが凄く分かる…。)」
「で、だ。ピット、お前はどうする?出来ればお前の力も借りたいんだが、お前が俺と違う目的を持っているのなら無理に引きとめることはできない。だが、もし良かったら、俺と一緒に来てほしい」
「お、俺は…」
ピットは視線を彷徨わせながら顔を俯かせた。
自分が課せられたのは、地上の人々を救うという抽象的な命である。
具体的にどんなことをしろとは言われていない。それ故に、ピットはこれから自分がどうするべきか迷った。
ただ…脳裏に過ぎる、暗黒のブラックホールを思い出すと、胸がちりちりと痛んだ。
会いたい人が、会えない状況にある。それが一番焦燥感を生み出した。
「(舞…)」
彼女が今、どうなっているのかは分からない。
だが、もしかしたら…あの騒動に乗じて、どこかに連れ攫われているのかもしれない。
そうなれば、敵の本陣に乗り込み、彼女の行方を吐かせるべきである。
具体的な使命が分からないのならば、今、自分自身がすべきだと思うことをやればいい。
ピットは、一度瞳を伏せてからマリオの顔をまっすぐと見つめた。
「俺も、マリオさんと一緒に…行きますっ。行かせてください!」
「決まりだな!じゃあ、よろしくなピットっ」
「はい!」
二人はお互いの手をパンと叩き合わせ、意気投合の意思を表す。
目指す先は戦艦が飛び立った方向。マリオとピットは、同時に体を前に向けた。
「行くぞ、ピット!」
「はい、マリオさん!」
二人は同時に雲海の地を蹴り、片方は高い跳躍力で、片方は優れた飛翔力で雲海の道を突き進む。
二人の胸にはそれぞれ熱い思いを秘められ、その思いは瞳に映り真っすぐと前を向いていた。
彼らの姿がなくなった後、雲海には穏やかな静寂だけが残った。
***
++inジャングル++
地上の遥か上。本来なら人の手など絶対に届かない空の上でマリオとピットが奮闘しているとき、蒸し暑さを伴う此処、ジャングルでも騒動が起きていた。
野鳥の声が空高く響き渡る平穏な森林たち。その一角で、微かな爆音を上げて何かが半球体状に膨れ上がった。
紫黒色の禍々しいそれは、スタジアムを襲ったあのブラックホールと全く同じだった。
突如起きた爆発に動物達が驚き、静かだった森が途端に騒がしくなる。
我先にと、動物の本能で安全なところに逃げていく動物達の中を、凄い勢いで疾走する一つの影があった。
それは、森にはとても似つかわしくない機械音を響かせ走る、一台の車だった。
しかも更に可笑しいのは、その車の後部座席には山のように積まれたバナナの山がある。
ぐらぐらと揺れるそれらを見事落とすことなく、車を運転するのは亀の甲羅をヘルメットとして被っている、マリオの敵キャラ、ノコブロスだった。
バナナの山の上には、山が崩れないよう支え代わりとしてクリボーが乗っている。
彼らは暴走族のように爆音と共に楽しげに笑い転げていた。
「思ったよりたくさん取れたなぁ!これならクッパ様も大喜びだっ」
「でも、本当に大丈夫なのか?これ、あの猿兄弟の縄張りから取ってきたやつだろ?あとが怖いぜ、きっと…」
「構いやしねえよ。どうせ誰かが食うんだ。それがクッパ様に変わっただけだし、この森にはまだまだバナナがあるだろ」
「…それもそうだな」
クリボーの不安も消し飛んだようで、二匹は似たような笑い声を高々と上げた。
だが、二匹はまだ知らない。彼らが盗みに踏み込んだ縄張りの主は、とても優しい心の持ち主だが、時には野獣のように恐ろしくなることを
そしてそれが、大好物のバナナに関連した時に現れることを
―――ガサガサッ
「ウホッ、ウホッ!」
茂みをかき分け、凄いスピードで駆け抜ける大きな影。
その隣には寄り添うように小さな影もいる。小さな影は、自慢の鼻でくんくんと匂いを嗅ぐと、何かに気づいて大きな影の背中に飛び乗った。
「ウキー!キッ!
(ドンキー、この先ッス!バナナの匂いがぷんぷんするッス!)」
「ウホッ?ウッホ!
(本当かディディー?よし、じゃあとっとと馬鹿な犯人たちを捕まえるぞ!)」
「ウッキー!
(もっちろん!)」
大きな影は、このジャングルの王者ドンキーコング。小さな影は、彼の弟分のディディーコングだった。
二匹はある連中を追って、憤激の念を抱きながら森の中を走っていた。
ディディーを背に乗せ、ドンキーが最後の茂みをかき分けると、目下に山道が見渡せる小高い崖に出てきた。
ずしん、と重たい足を立てながら崖の端に歩み、ドンキーはディディーと共に山道にじっと目を凝らす。
暫くそのまま待っていると、彼らの視界に狙いの連中の姿が見えた。
『ドンキー!いたッスよ!』
ぴょんぴょんと跳ねながらディディーが指さす先…、そこには、先のバナナの山を積んで山道を爆走するクッパの手下たちの車が走ってきていた。
そう、ノコブロス達が盗みに入った縄張りとは、何を隠そうドンキーたちの住処だったのだ。
こちら(スマブラ界)に帰ってきて、頼まれた仕事を終えた二匹は大好物のバナナを食べようと意気揚々と家に帰ってきた。
だが、山のように積んでいたバナナが家から姿を消し、慌てて周囲を探すと、足の遅いクリボーがバナナを抱えて走っている姿を目撃したのだ。
…あの体のどこでバナナを抱えていたのかは分からないが
『ちっくしょー。オイラたちのバナナを盗むなんてっ、あいつら許さないッス!ボッコボコにしてやるッスよ!』
『ディディー、待て。あいつらがもう少し近づいてから奇襲をかけよう。』
『えー…何でッスか?ここからオイラのピーナッツ・ポップガンで狙い撃てばいいじゃないッスか!』
そう言ってディディーは、どこからから木製の鉄砲を取り出した。
ドンキーは血気盛んな相棒に首を振って、再び視線を戻す。
『あまり戦場の範囲を広げると、動物達に被害が及ぶ。そうならない為にも、ぎりぎりまで敵を引きつけないと―――』
『ど、ドンキー!!』
相棒の不満に対して正論を説いている途中、その相棒の大きな呼び声に掻き消された。
落ち着きのない相棒に頭を痛めながら、ドンキーは渋々呼ばれたほうに振り返る。
だが、ディディーは血相を変えたまま「あわあわ」と空を見上げていた。
様子が可笑しいことに「何だ?」と疑問を抱き、ドンキーが彼の視線の先を辿って空を見やる。
そして、恐らくディディーが見ているのと同じものなのだろう。
視界に入った“それ”にぎょっと驚くと同時に、ディディーの悲鳴にも似た声が耳に響いた。
『ひ、人が…人間が降ってきてるッス〜!?』
二匹の驚愕を物語る双眸が、文字通り降ってきている人の姿を捉える。
しかし、その人間。姿に既視感がある。
空に溶け込んでしまいそうな水色の衣装に、風の抵抗を受けて暴れる樹木を思わすかのような茶色の髪…。
『あ、あれって…!』
ドンキーは、心底驚いた。
それは紛れもなく、今頃この世界の統治者及び管理者が催した企画の進行を務めている筈の少女…
舞であったのだから。
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