02.無限の闇に、さあ行くぞ!!


マスターとクレイジーが考案した大乱闘企画のメインイベントの主演を担ったボクとマリオ。
本当はスマブラメンバーみんないて、前の時みたいに赤チームと青チームに分かれてチーム戦を披露する予定だったんだけど…
なんでかみんな、企画当日に間に合わなかったみたい。

ホントはみんなと闘いたかったけど、マスターの、クレイジーの、何より舞の為に精一杯頑張ったんだ!

結果はマリオに負けちゃったんだけどね、えへへ。
それでもすーっごく楽しかったから、嬉しい気持ちいっぱいでお空を見上げたら…

海より淡い青色に染まっていた空が、急に怖いぐらいの赤に染まっていって…雲の間から大きな空飛ぶ船が出てきて…
その船から降り撒かれた敵は、どうしてかボク達を襲いかかってきた。

数もいっぱいで、敵も強力な奴らばっかりだけどっ。ボク…負けてあげないよ!
この闘いは負けちゃ駄目なの。舞もいるし!闘えない舞を、ボクが守ってあげるんだ!

舞に襲いかかる奴ら、みーんなボクが倒すもんっ!!

…でもあの艦の形、ボクどこかで見たことがあるような…?





無限の闇に、さあ行くぞ!!





皆さんこんにちは、女子中学生です。
今日も快晴な青空が続いていますね!いや〜、こんなに天気が良ければそりゃ敵さんもぞろぞろとお弁当持って大会に乱入もしたくな……

ってんなことあるかぁぁぁぁっ!!(ノリツッコミ)
どこの家族連れがピクニック気分で銃やら剣やらはたまた奇怪な生物連れて乱闘騒ぎ起こすんだっつの!
お出かけの際には車じゃなくて豪勢に軍艦だってか?ありえねええぇぇっ!!


「おぉぉい…大丈夫なのか舞?そ、そんなに姫達が怖いのか?若干狂乱してるぞ」

あ、マジで?


マリオの言葉に舞はピタリと暴走を止めた。
律儀に敵と戦いながら心配してくれたマリオに、声を掛けられない代わりに心の中で頭を下げておいた。


「(兎に角、あたしはあまり迷惑をかけられないわね)」


只でさえ敵が多い上に、自分が戦えない為に姫達やマリオとカービィがその分を補い、頑張ってくれているんだから。
兎に角舞は邪魔にならないよう、動かないように注意を払った。

一方、マリオ達も苦戦していた。
幾らスーパースターが二人とは言え、多勢に無勢だ。無理もない。


「(しかしっ、この敵の量は異常だ!俺達だけじゃ不利になる…っ)

…!そうだ…ジュゲム!!」


マリオはカービィに襲いかかろうとする敵に足払いを掛け、頭上を飛ぶ雲に向かって声を張り上げた。
すると、雲はふよふよと動き、マリオの目の前で止まる。
雲の上からひょっこりと、先ほど会ったカメラを抱えたジュゲムが顔を出した。


「はい、マリオさん!」

「悪いが、今すぐスマブラ屋敷に向かってくれ!それから、マスターとクレイジーに事態の現状を伝えて救援要請を頼んでほしいんだ!できるか!?」

「マスターハンドとクレイジーハンドにですねっ。分かりました!直ぐに伝えてきます!」


二つ返事で頷き、ジュゲムは雲に指示を仰いで、超特急で本物の雲の間を掻い潜って行った。
その様子を見届けてからマリオは再びカービィと背中合わせにファインティングポーズを構える。


「(兎に角、ジュゲムが戻るまでの辛抱だ)」

「ねぇマリオ…」

「何だ?カービィ」

「敵…なんか姫達の方ばっか狙ってない?」

「…?」


姫達が?向かってくる敵をポンプの水圧で黙らせ、マリオは後方を見た。
こちらに敵が一体向かえば、姫達には敵が三体向かっている。


「確かに妙だな…。まさか、敵の狙いは姫…?」


一つの可能性が生み出され、マリオは眉を歪めた。
もしこの仮定が確かなら直ぐに援護に向かわなければならない。
そう考えたマリオが助けに行こうと振り返った。


「――っ!ま、マリオ!上っ!!」

「!?」


振り返った先にいる舞が、驚愕の表情で上空を指し示す。
マリオは滑走する足に急ブレーキを掛け、舞の指が向く方向を視線を差し向けた。
すると、緑色のフードを被った何者かが謎の機体に乗ってマリオ達の頭上に現われた。


「何かしら?あいつ…」

「魔術師でしょうか」

手品師だよ〜

「いやっ、プリンセス天功よきっと!

頼むから静かにしててくれっ!!


最後に至っては女じゃないか!!
舞達の漫才に謎のフードを被った男の動きが一瞬止まる。しかし、自分の役目を思い出した彼は、自らが乗ってきた機体の下についている鉄球のようなものをストッパーから外し、それをスタジアムに落とした。


ズシィィンッ!!


大の大人の背丈分ほどありそうな鋼球が地面を揺らす。
成り行きを警戒しながら見ていると、何処からか両手を前に出した二体のロボットが現われた。

彼らはキャタピラの足でそれぞれ鋼球の両側に位置づくと、突きだした両手を、鋼球の四角い穴にガチャンッと音を立てて嵌める。
そして体を引き、両手を嵌めた状態のまま鋼球の蓋を両側に引っ張る。

赤い『×』印が描かれた表面部分が二つに裂け、中から姿を覗かせたのは…


「…っ!?なっ」

「なに〜?あのタイム」


思いもしなかった物にカービィ以外の者は目を見開いた。
それもその筈、鋼球の中から現われたのは、3分を切ったタイマー付きの禍々しい物だったのだから。
それが何なのか、それは戦場に全く免疫のない舞でさえも分かった。


「ば、爆弾っ!?」

「爆弾〜?」

「タイマー付きの時限爆弾よ!確かなのかは分からないけど…でもそれが確かならあの大きさだものっ、きっとこのスタジアムなんて吹き飛ぶわよ!」

「直ぐに止めないと!」


爆弾を止めるには、あの二体のロボットのどちらかを壊すか、或いは爆弾本体を叩くか。
ピーチの言葉に反応して、マリオは表情を引き締めて爆弾に向かって走り出した。


――ズゥゥンッ!!


「!? 今度は何だ!?」


急にスタジアム全体を揺らすほどの轟音が轟いた。
反射的に足を止めて、マリオは音のした後ろへ振り返る。

…瞬間、観客席一体を包む白い煙の中から黒い砲弾が打ち出された。
砲弾は弧を描き、目にも追えない早さのままかなりの勢いでマリオの体を直撃した!


「なっ!?」


ドガンッ!!


「うわああぁあぁっ!!」

「ま、マリオっ!!」


砲弾を諸に食らったマリオは、成す術もなく宙に放りだされ、空の遥か彼方へ吹き飛ばされる。
まさかあのマリオが反応できないなんて…。


「マリオぉ〜!」


驚きながらカービィが、マリオが飛んで行った方向へ追いかけようとすると…


――ガシャァァンッ!!


「キャーーッ!!」

「ペポ?」


カービィの背後から膨大な金属音が鳴り響いた。
何の音か気になったカービィが後ろを向くと、そこには、さっきまでいなかった花のような怪物がカービィを見下ろしていた。

頭に花弁を咲かせ、手は葉っぱで、足は緑の根っこで出来ている。
特徴の赤い水玉パンツとでべそはこの場にそぐわないが、瞳のない顔いっぱいに広がる口から覗く鋭い牙がカービィを狙う。

そしてさっきの金属音の正体が何かと言うと…
それは、奴の両手に持った鉄格子の檻が閉められた時に出来た音だった。
しかも檻の中には女性三人が閉じ込められている。


「舞!ピーチ、ゼルダ!」

「か、カービィ!助けてっ!」


右手の檻にはゼルダが、左手の檻にはピーチと舞が閉じ込められていた。
さっきの一瞬の内に捕まったらしい。

化け物は唯一外に出ているカービィを標的に定めると、雄叫びを上げて牙をむき出した。
しかし、小さな体に不釣り合いな大きな勇気を持つカービィは怯む様子を見せない。


「待ってて、三人とも!ボクがすぐに助けてあげるから!!」


勇敢にもハンマーを構えると、カービィは再び戦闘に勤しんだ。
カービィが歯向かってくることに気がついた化け物は、短い足を更に縮めて身を低くする。
そして何をするかと思うと、膝をバネにして飛びあがり、カービィの真上から垂直に体を落とした。


「カービィ!避けてくださいっ!!」

「わ〜っ!!」


慌ててゼルダの指示通り右に飛び退くと、ズシィンッ!と大きな音を立てて化け物がカービィのいた場所に落ちた。
その威力は亀裂が入った地面を見ると一目瞭然である。あれを食らっては、一貫の終わりだ。


「うわぁ…。危ないなぁ、もう!」

「カービィ!こいつはボスパックンって言う植物系のモンスターよ!」

「えっ?ピーチ姫、知ってるんですか?」

「ええ。以前、マリオが倒したことがあるの。あの時はこれよりもう少し小さかった筈だけど…間違いないわ!」


檻の中に閉じ込められながらもピーチは敵の観察を怠っていなかった。
カービィはピーチの助言に頷いて構え直す。小さな体を俊敏に走らせ、下からハンマーを振るい上げた。


「やぁっ!!」


ドンッと衝撃がボスパックンに与えられる。小さいながらに重い攻撃にボスパックンは怯み、今度は両手に持った籠を闇雲に振り回し始めた。


キシャアアアッ!!

ギャアアアアッ!!振るなァァァっ!!


勿論、中に閉じ込められている舞達も振り回されるわけで。
ピーチとゼルダは鉄格子に捕まって何とか耐えるものの、舞は顔を真っ青にしていた。


「あぁぁぁミックスされる〜…!朝に食べた物が胃を逆走してるーーっ!!

「くっ…舞ちゃん、頑張って!逆走したものはまた飲み込んでしまえばいいのよ!

「姫様がゲロ飲み込めとか言わんでください」


ぶぉん、ぶぉんと止む気配を見せない攻撃に、舞はとうとう叫ぶ気力も失ってきた。
このままでは不味い、本格的に舞が吐きそうである。


「じ、じぬ〜…、も、限界……吐く」

「舞ちゃん…!可哀相に…、ちょっと待っててねっ!」


舞の具合の悪さを目の当たりにしたピーチは、同情で垂れていた眉を吊り上げて、ギンッ!ともの凄い勢いでボスパックンを睨み上げた。


おんどりゃボスパックン!!テメェ何様のつもりであたしを振り回してんだっ、ああんっ!?

Σギッ…!?

「これ以上振り回そうってんならあたしが自由になった時、テメェをぐっちゃぐっちゃの潰れたトマト状態にしてその頭に咲いた花弁全部毟り取って焼いて喰うぞっ!!分かったかッッ!!


瞬間、ボスパックンが体をビタッ!!と急停止。


「(姫こえェェェっ!!)」

「ナイスですわ、ピーチ!」

「カービィ、今よ!奴の弱点はお腹のでべそだから!」

「うんっ!!」


え、何で何の違和感もなく進行してるの?
純粋に言葉を鵜呑みにしたカービィは、重そうなハンマーを短い両手で大きく振り上げた。
そのままボスパックンに向かって走り、滑走の勢いを残したまま渾身の力で振るう!


「う〜っ…やぁぁぁっ!!」


――ズガアアァァンッ!!


耳を劈く断末魔の悲鳴と、強大な爆発音がスタジアム一帯に轟いた。
爆発の衝撃で檻の鍵が壊れ、舞達を閉じ込めていた檻が壊れた。


わあああああっ!!

「舞!」


宙に投げだされた舞を見かね、カービィが助けようと駆け寄る。
しかし、小さな体で彼女の体を受け止めることはできるのだろうか?
そんな心配を余所に、カービィは大きく口を開き、一気に吸引する。


「スゥゥゥ―――バクッ」

Σおぶほっ!「」


なんと、口で吸いこむことにより受け止めた。
確かに無傷で無事に着地することはできたが…カービィに吸い込まれたことにより、今舞の体はカービィの口から上半身しか出ていない。
はっきり言って不気味な光景である。


「あ、ありがとうカービィ…」

「ふぉーいはひはひへ!(どういたしまして)」


お礼を言って舞はカービィの口からずるぅ…と這い出た。宛らその光景はホラー映画の貞子そのものである。
無事に体が出ると、四つん這いの舞の隣にカッとヒール音を立ててピーチが降り立った。


「舞ちゃん、大丈夫だった!?」

「ピーチ姫!大丈夫です、カービィのお陰で」

「良かったわ〜!カービィ、ありがとね」

「うん!」


にこやかにお礼を言い合う三人だった。
…しかし、騒動はこれだけでは終わらないのだ。


「ハッハ~!!」

「!?」


ガシャンッ!と、何か重い機体を揺らすような音と共に、何者かの声が舞達の目の前に降り立つ。
高らかな笑い声に、マリオやルイージに似たデザインの帽子。
ただ違うのはギザギザ形の髭に、黄色い帽子に書かれた逆文字のM、いわゆる『W』の文字。


「あなた…ワリオ!」

「ワリオ…?」


ピーチが呼んだ名前…。舞は確か聞いたことがあった。
マリオシリーズに出てくるマリオの悪版のようなキャラクター…。確かそんな名前だったような気がする。

記憶を思い返す舞の目の前にいる男、ワリオは、両手持ちの機械で出来た銃のようなものを向けてきた。


「へへっ、久しいなピーチ姫様よぉ!だが感動の再会も短めにしとこうや!」

「別に貴方となんか会っても感動しないわ。寧ろ吐き気のオンパレードよ、おめでと

「………」


な、なんだか敵がむごく見えるんだけどあたしだけ!?
ピーチの一言でブリザードが吹き荒れ、思わず直撃して口を閉ざし沈むワリオを舞は何とも言えない瞳で見つめた。

なんて声をかけたらいいのだろう…。と、気休めの言葉を必死に探している時、舞達の前方、ワリオの背後から曇り声が聞こえてきた。


「…つっ…、」

「ん?」

「あ…!ゼルダ姫!」

「舞さん…?ご無事で……、…?」


そこには、壊れた檻の瓦礫に埋もれたゼルダがいた。
上に乗った瓦礫を退けながら、ゼルダは初めて見るワリオに怪訝そうに眉を顰める。
するとワリオはゼルダと目が合った瞬間、ニタリと口元を歪めた。


「よーし…先ずは動けない得物を仕留めてやるぜ!」

「…!!ぜ、ゼルダ姫!逃げてください!」


ワリオの言動の意図が読め、舞は声を張り上げた。
彼女の注意にゼルダもハッと何かに気づき、よろめきながら立ちあがろうとする。

だが、ワリオの持つ機械の銃口に光が集まるほうが早い。身を寄せ合った光が弾けた瞬間、銃口から先端が矢印になった黒い光線が放たれた。
ゼルダが逃げるよりも先に黒い光線がゼルダの体を貫いた。


――カッ!

一瞬辺りが眩い光に包まれる。
眩しい光に耐えきれず、舞は腕で目を覆ったが、直ぐにゼルダのことを思い出しバッとワリオを見た。


…ゴトッ

「ハッハァ!!一丁上がりだぜ!」

ゼルダ!」


視界が開けた先で、フィギュアと化したゼルダを肩に担ぐワリオが笑い声を上げていた。
用を成すと、ワリオは何処からか持ってきたバイクに跨り逃げようとしていた。
しかし彼らもこのまま逃がすわけがない。カービィは空を見上げて大きく息を吸い込んだ。


「ワープスターーっ!!」

「ぴ、ピーチ姫…どうしましょう!?」

「あいつを見過ごすわけにはいかないわ!とっ捕まえて闇鍋の材料にしてやるのよ!

喰うんですか

「二人とも、乗って!これで追いかけよう!」


口論をしている舞とピーチが振り返ると、黄色く光る星にカービィが乗っていた。
その名前はカービィ曰く、ワープスター。結構な大きさがある為、三人ぐらいは乗れそうだ。
先ず先にピーチが乗り、舞もピーチの後ろに捕まるように乗り上げる。

ふと、舞は乗り上がる前に存在を忘れていた爆弾を横目で見た。
タイマーの時間を見ると、残り時間は1分を切っていた。


「じ、時限爆弾の時間が1分切ってますよ!」

「すぐに追いかけましょう!」

「カービィ、この星に方向出せる?」

「うん!ワープスター、ワリオが逃げたあっちの方に飛んで!なるべくお空を翔けて!」


すると、ワープスターは素直に言うこと聞いて浮かびあがった。
星の向きがワリオの逃げた方角に向きを変える。そして、瞬間的な早さで空を翔けようとした。

…その時だった。


ぐいっ!

「ぇ―――っ」


一番後ろに乗っている舞のコートを、何かが力強く引っ張ったのは


え!? 舞!


走り出したワープスターとは逆に、スタジアムに戻る形にされた彼女の体は当然ワープスターから落ちる。
思わぬ事態に舞は困惑して視線だけ後ろに向けると、そこには自分の体をがっしりと押さえているロボットがいた。


「えっなっ、離してよ!ば、爆発するって!!」

「舞ちゃん!」

「わ、ワープスター戻って!!」


ロボットの力は以外にも強く、舞の体を掴んで全く離そうとしない。
舞は抵抗しながら戻ってこようとするカービィの声を聞いて、ぎょっと顔を上げた。


「ちょっ、駄目駄目駄目駄目!!ばば、爆発するから!カービィ、そのまま行って!」

「で、でも舞がっ」

「いいから!!ゼルダ姫も助けないと駄目でしょ!?あたしは大丈夫だから!…多分…(ボソッと)
わ、ワープスター!さっきの指示は前言撤回!だから行って!てかはよ行け!!


ワープスターがカービィ以外の言うことを聞くのだろうか。
しかしその心配も無用らしい。意外にもワープスターは舞の叫び声に従い、再び方向転換してしまった。
「ちょ、ちょっと待って!まだ、舞が!」と呼ぶカービィの悲鳴にも似た声に耳を傾けながら、視界の隅で時限爆弾の残量時間を確認した。

残り時間はあと、2秒。


「うそ…!(間に合わないっ)」


もう見てしまった後だが、これ以上見たくないと言うように目をギュッと強く瞑る。
無意味な抵抗を最後に、舞は『死』の恐怖に耐えきれず、顔面を真っ青にして意識をなくした。

舞が意識を失くしたのと、カービィとピーチが爆弾の爆発範囲外に出たのと、時限爆弾がカウントダウンを終えたのは…ほぼ同時だった。


カチッ
―――ドガーーーンッ!!


「〜〜〜…っ!!」


空に逃げ切ることに成功したカービィは、目に涙を溜めながらたった今爆発したスタジアムを見下ろした。
もはやそこには、先ほどまで歓喜と平和に満ちていた闘技場はなく…

闇にも似た、絶望しか浮かばないような亜空の次元―――
半球体の『ブラックホール』が我が物顔で全てを飲みつくしていた。


「舞ーーーーっ!!!」


舞の姿は、見えるわけがなかった。






***




トンッ


「よし!これで最後だっ」


デスクの上で束になった資料の端揃えをしながらマスターは満面の笑顔を見せた。
漸く仕事を終えることができ、マスターは腕をめいっぱい伸ばした。


「は〜、思ったより時間がかかったなァ。クレイジー」

「そうだな。そろそろ向かわねば終わってしまうぞ。今は挑戦者の耐久組手の辺りか」


同じくパソコンの電源を落としながらクレイジーが一息ついて窓の外を眺めた。
彼の言う通り、早く行かないと挑戦者対スーパースターの試合に間に合わなくなってしまう。
そうでなくても、今企画を計画した主催者がいなければ話にならないのだから。

椅子の背凭れに全体重を乗せてから、体のバネを反動にしてマスターは立ちあがった。
ぐるり、と部屋を一通り見渡し、カラフルな色の生き物たちを見ると「よしっ」と手を叩いた。


「それじゃあ、行くとしよう―――」

「マスターハンド!クレイジーハンド!!」

「…お?」


喜々とした表情で部屋から出ようとした時、今正に向かおうとした入り口から誰かが飛び込んできた。
それは、息を切らしながら駆けこんできた、カメラを持ったジュゲムだった。


「ジュゲムじゃないか。どうしたんだい?…あれ?君は確か、企画の撮影をしている筈じゃ…?」

「そ、それが大変なんです!スタジアムが…マリオさん達が!」

「…何かあったのか?」


ジュゲムの異様な騒々しさにクレイジーも近寄ってきた。
落ち着く素振りを見せず、ジュゲムは百聞は一見に如かずと言わんばかりにカメラの画面を開いた。


「と、兎に角!これを見てください!!」


二人は揃って訝しげに首を傾げると言われた通り画面を覗きこんだ。
ジュゲムは最初の部分を早送りで飛ばし、ある部分まで来ると早送りを止めて通常のスピードで再生して映像を流した。

それは、謎の軍艦がスタジアムに不気味な雲を背負って現われた場面だった。


「…何だ、この赤黒い雲は…」


眉間に皺を寄せたクレイジーは、スタジアムの頭上に広がる雲を見て呟いた。
勿論マスターもこんなアクシデント用意も予想もしてなかった為目を見開いている。

雲の間から姿を見せる巨大戦艦。紫の胞子より形を成す謎の敵。
マリオとカービィを襲い、姫二人と舞を狙う敵の行動。
順々に流れていく映像を二人は愕然と見つめた。


「な、何だこれは…。スタジアムに一体、何が…?」

「…!」


クレイジーは何かに弾かれたようにカメラから離れた。
何処かへ走って行く彼に見向きもせず、マスターはカメラを凝視した。


「舞さんはこんなシチュエーションを用意してないと言っていましたし、マリオさんが救援要請を頼んでいました!」

「ああ、確かにこんなプログラムは設定していない。それに、この軍艦……」

「知っているんですか?」

「いや、まだ確証ではないんだけど…。……マリオ達は今も闘っているのかい?」

「多分。あの状況であれば、まだ―――」

「マスター!!」


ジュゲムと話し合っていると、マスターの後ろの方からクレイジーの呼び声が。
普段から大声を出さないクレイジーの声に、マスターも只ならぬ予感を感じて振り返った。


「なんだ?クレイジー」

「マリオ達がいる空中スタジアムが…とんでもないことになっているぞ!」

「何…?どういうことだ?」

「説明するよりも見た方が早いだろうっ、今向こうの受信映像をモニターに映す!」


真剣な面でクレイジーは巧みな動きでパソコンのコードを打ち込んでいく。
カチリ、と最後のキーボードが叩かれた瞬間、目の前一体を大きなモニターが支配した。
モニターに映された映像を見たマスターは、冷や汗を流しながら震える口を開いた。


「す、スタジアムが…ブラックホールに覆われている…っ!?」

「ジュゲム!お前が現場にいた時は既にこうなっていたのか!?」

「い、いいえ!私がマリオさんから言伝を頼んだ時には、まだ…」

「――っ!」


そうだ、マリオ達!
マスターの顔色が更に悪くなった。何故なら空中スタジアムには観客達も、マリオ達も、あの戦えない少女もいるのだから。


緊急事態だ!!これより全班に指令を言い渡す!!」


不吉な予感が胸にこびりつき、マスターはそれを振り切るように部屋一帯に声を張り上げた。


「A班は観客の安全確認!B班はスタジアムにいたスマブラメンバーの行方を調査!C班、D班は医療に努めよ!残りの班は二つに分かれ、私とクレイジーに同伴だ!
クレイジーに着く者は事件の調査と犯人の追跡、私に着く者は至急現場へ向かえ!!」


マスターの声が管理室に響き通った。
命令を受けたのはカラフルな生き物たちで、マスターの指令を聞き届けた途端機敏に動き回りだした。


「クレイジー、今言ったように私はスタジアムへ向かう!クレイジーは」

「ああ、分かっている。我はここに残り情報の伝達と指示を出す、司令塔を務めよう。ジュゲム、お前は此処に残ってさっきの映像を見せてくれ。貴重な手掛かりだ」

「はい!」


先ほどの映像を流したカメラを持ち、ジュゲムはクレイジーと共にモニタールームに入って行った。
残されたマスターは奥歯を噛みしめながら、棚に掛けていたグローブを手に取った。


「(こんな…こんなの、真実であってほしくないっ)」


彼は、もしこの世界に自分以外の神がいるのならば、その神に縋りつきたいぐらいだっただろう。
今は心の奥底で仲間の無事を祈り、両手にグローブを嵌めながらカラフルな生き物たちを従えて部屋を後にするしかなかった。


「頼む…!みんな、無事でいてくれっ!




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