11.2/19(水)《2》サイドエフェクト

下の様子を見る限り、敵は撤退した様だった。

「お疲れさん」

「お疲れ様でした」

狙撃手組で挨拶を交わし、このまま解散の雰囲気。
途中で地上戦の援護へ半数が向かったので、屋上には人が最初の半分程しか残っていない。

「助かったぜ、緑川」

「あれ、もう終わり?」

当真に声をかけられた戦い好きな3バカの一人である緑川が不満そうな顔をしている。

「唯我ちゃんは撃つのに集中しすぎるから、周りの警戒も忘れんなよ。緑川がいなかったら、何度か犬に噛まれそうだったぜ」

「えっ、全然気付かなかったです。次ぎは気を付けます。緑川くんありがとう」

当真に注意され、集中し過ぎると周りの事に気付かなくなるのは前世でも同じだったので、今後直さなければと思う苗字。

「ま、俺にかかれば、一人で狙撃手組の援護なんて、軽いから」

緑川にお礼を言うと、自信家らしく自慢気に返された。
しかし、その言葉に別役が反応する。

「俺は噛まれたけどね」

「それは…まあ、レディーファーストだよ」

「そりゃないって」

二人の掛け合いに、くすくす笑い声が上がる。

「那須先輩と熊谷先輩が一人やっつけたって!」

隊の人から報告を受けたのだろう。
奈良坂に自分の事のように喜んで話をする日浦。
菊池川のサイドエフェクトが無ければ、どうなっていたかは分からないけれど、那須の鳥籠は綺麗で強いから憧れる気持ちも良くわかる。
サイドエフェクトやオリジナルの武器が欲しいと思う苗字であった。

「帰る前にちょっと確認したいことがあるので」

そう言って最後まで残って皆を見送り、上にも下にも誰もいない事を確認して、グラスホッパー特大サイズを地面に展開し、屋上から飛び降りた。
空に浮いている様な感覚が気持ちいい。
数十秒の空の旅は一瞬で終わり、今度は下に展開されたグラスホッパーで上にジャンプした。
一つでは頂上には届かないので、何個かグラスホッパーを追加し上へ上へと向かう。
落ちる時より多少時間がかかったが、無事屋上に戻れた。
グラスホッパーの耐久と跳躍力を確認するにはいい機会だった。

「あんたは何をしている?」

誰もいないと思っていた屋上には、キノコ派を装ったタケノコ派の奈良坂が居た。

「グラスホッパーの跳躍力の確認ですよ。ちょっと大空を跳んでみたいなんて思ってませんから。奈良坂先輩こそどうしたんですか?」

「大空を跳びたいって、馬鹿だろう」

グハッ…苗字のやわなハートに刃が刺さった。

「はぁ。東さんから唯我が狙撃手として初任務だから見ておいて欲しいって言われていたんだ」

会心の一撃を貰ったが、完全回復を受けた気分。
東の優しさに救われた。

「さすが東さん。優しすぎる超イケメン」

「まあ、あの人がその役目は貰ったと言って別チームに分けられたけど」

「ああ、だから当真先輩が私に付きっきりで色々教えてくれていたんですね」

納得。
同じ隊でもないのに、面倒見がいいなと思っていたら、東や奈良坂と当真で色々あったらしい。

「途中から見ていたけど、初めての割には上手くやれてたよ。今回みたいに雑魚が多い場合は問題ないけど、本来狙撃手は隠密性と確実性が求められるから、一撃で仕留める事も忘れるないように。途中何度か狙いを外していただろう」

何発か外していたのをバッチリ見られていたようだ。

「はい、気を付けます。言い訳じゃないんですけど、外していたのは、スコープを覗いたら何度かぼやけたんです」

「ぼやけた?トリオン体だから、視力が変化することはないはずだが」

視力が低い者もトリオン体になれば視力が強化されメガネいらずになる。
だから、視力低下は有り得ないと言いたいのだろう。

「んー、でも何をした訳でもなく、急所に集中した時にそうなってしまって」

「唯我、イーグレットを出せるか?」

「はい」

イーグレットを出現させて奈良坂に手渡す。

「スコープは正常だな。試しに、構えて、どこでもいいから照準を合わせてくれ」

「はい」

適当に家の屋根のアンテナに照準を合わせる。

「どうだ?ぼやけるか?」

「いえ、今は普通に見えます」

「次は標的に集中してみてくれ」

「はい。あっ…やっぱり、ぼやけます」

今まで綺麗に見えていたアンテナが、灰色しか分からなくなってしまった。

「…スコープ無しで同じ的が見えるか?」

「見えるけれど、小さいです」

さすがにトリオン体でも、スコープなしでは見え辛い。

「意識を集中させても?」

アンテナに意識を集中させると、不思議な事にスコープ越しと同じ様にくっきり、大きく見えてしまった。

「見えました!!スコープ越しみたいに良く見えます」

「おそらくだが、強化視力のサイドエフェクトかもしれない。定期検診は受けているか?」

半月に一度は本部の奨めで定期検診を受けている。
トリオン量の変化や、基礎データの測り直しを行い、自分に合った戦術を取り入れる為に必要な行為であった。

「受けていますけど、特に何も言われたことはないですね」

「つい最近発現したんだろう。今日は遅いから、明日にでも受けた方がいい」

「私にもいよいよサイドエフェクトが」

つい先程、サイドエフェクトが羨ましいと思っていたら、どうやら発現したらしい。
顔が(。-∀-)ニヤリとするのを止められない。

「確実じゃないが、そうだろうな。まあ、スコープで代用出来るからショボい系だが」

「う…。わかってますよ!いつかこのサイドエフェクトを使いこなして射程ナンバーワンのスナイパーになりますから!」

今はまだスコープ替わりにしかならない能力かもしれないが、菊池原の様に使いこなしてチームの役に立ちたい。
皆から実力を認められたい。

「そうか、なれるといいな」

「頑張ります。奈良坂先輩、付き合ってもらってありがとうございます」

話をしていたら結構時間が経過しており、既にランク戦が始まるっている時間だ。
奈良坂に付き合って貰った礼を述べる苗字。

「東さんの頼みだから」

「私ってちょっと前までアレだったんで、気にせず接してもらえると本当にうれしいんです。今後も兄弟子として、色々と教えて下さい」

「気が向いたらな。帰るよ」

ツンツンしている奈良坂に、いつか日浦くらいに親しくなれるといいなと思う苗字であった。

「はい。お疲れ様でした。あ、サイドエフェクトの事はショボ過ぎるのでまだ内緒にしていてくださいね」

口止めは忘れない。