1.2/15(土)《1》気付いたら唯我

「うるさいぞ唯我」

そう言われて横に座っている男から自慢のカールされた黒髪を掴まれ、ストレートになるくらいの力加減で引っ張られた。
普通は痛いはずの行動も、トリオン体であれぱ痛みも感じず、嫌がらせにしかならない。
痛みはなかったが、横にいる人物が信じられなくてつい不自然な行動をとってしまった。

「出水公平?」

「おいこら。先輩を指差してフルネームで呼び捨てとはいい度胸じゃねーか唯我」

出水公平がしゃべっている。
それは当たり前であって当たり前ではない光景。


ビーーーーーー


電源がついていた目の前にあるテレビモニターからブザー音が鳴り、画面にはスーツ姿の男性が雪ダルマと共に映っていた。

「このシーン見たことがある」

「お前普段も可笑しい奴だけど、今はもっとヤバイぞ」

出水が何か話しかけているが、全く耳に入ってこない。
もう頭の中では、別の事で一杯だった。
雪ダルマが不釣り合いな、あの二宮が雪ダルマを作ったのかと思った記憶。
それは今の私ではなく、この世界がワールドトリガーとして漫画で描かれていた世界に生きていた私の記憶。

そして今の私の名前は先程呼ばれた様に唯我。
唯我苗字。
ワールドトリガーで、唯我といえば太刀川隊のお荷物、B級にも劣る実力、金持ちのバカだった。

「嘘でしょう!何で私は唯我なの?」

「は?いやいや、マジで怖ぇし。もう帰れ」

髪を引っ張られながら、太刀川隊の作戦室から追い出されてしまった。
確かに、訳のわからない事を言い出して、会話にならなければ今日はもう帰った方がいいのかもしれない。
唯我だから、はっきり言ってここでの役割なんてないに等しい。



ボーダー本部基地にいつも迎えにくる、苗字専用のリムジンに乗って帰る。
家はマンションの最上階にあった。
家族は一緒に住んでいない。
居るのは使用人が3人と苗字。
いつ近界皆(ネイバー)に襲われるかわからない三門市になんて住めないと、家族全員がこの街を出ていった記憶が甦る。
苗字のわがままで、ボーダー隊員になりたいと言った時には少しだけ反対されたが、結局娘に甘い父親は何でも許して何でも与えてくれた。

そこまで思い出し振り返りながら、今までの記憶は全てあると確信を持つ。
一瞬で前世での記憶も甦った為、頭が混乱していたが、ここはワールドトリガーの世界。
何故この世界に転生したのか分からないが、唯我尊に成り代わったのなら、役立たずのまま終わるより、一矢報いたい。
それにラストを知らない為、どんな敵が来るのか分からず、成り代わった苗字では唯我尊と違う行動をして死んでしまうかもしれない。
三門市を出ても、アニメの様に誘導装置が効かなくなる場合世界中が危険なんだ。
生きる為の努力をすること決意した。