1話

ぺち、ぺちと誰かが私の頬を叩いている。

おーい、と呼びかけるような声も聞こえる。

だけど私はまだ起きたくなんかなくって、うるさいな、だなんて思いながら寝返りをうとうとしたけど、なんだか動きにくくてそれも上手くいかず。

もう起きなくちゃいけないのか。
あまり良くない機嫌の中、ううん、と小さく唸り私はうっすらと目を開けた。


「ようやく目が覚めた?」
「へ、」

目の前に見たこともない男の子を映し、私の目は完全にぱっちりと開いた。

がばっ、と起き上がろうとして、頭にがん、と殴られたような鈍い痛みが走る。

「ううっ……」

そのまま消沈。あえなく元の体制に戻ってしまった私は、目の前の彼がにっこりと笑っていることに気が付き、歪めた眉はそのままに、口を開いた。

「……貴方は誰?」
「王馬小吉だよ!超高校級の総統なんだ」

君は?と聞き返されて、彼の言葉を咀嚼する暇もなく、慌てて答える。

「篠田メルです。私は、超高校級のメルヘン作家なの」
「へえ、篠田ちゃんも超高校級なんだね」
「そう……みたいだね」

改めて、彼の背後を見ると、よくわからない蔦のような植物と、どこか薄暗い天井が見えた。全然、私の知らないところじゃないか。
急に不安がよぎり、縋るように彼の薄い藤色の目を見た。

「ねえ、ここはどこなの?」
「さあね、どこだと思う?」
「……わかんない」

そう言うと彼はちょっと怒ったように口を尖らせた。
なんだか子供みたい、と頭をよぎった考えに、全くその通りだと自分で笑う。

「えーっ!作家なのにそんなんでいいの?もっと想像力を働かせなよ!!」
「そう言われても……」

ちょっと苛立ってしまいそうな言葉も、なんだか可愛く思えて仕方がなかった。
ほら立って、との声に、ゆっくりと寝たままだった体を起こす。

「待って、私膝枕されてたの……?」
「そうだよ!俺がさっきロッカーを開けたら篠田ちゃんが頭から落ちてきて、また気絶したみたいだったからね!にししっ」

何とも痛そうな言葉に、思わず自分の頭を抑える。それでさっきは頭が痛かったのか……。

「重かったでしょう、ごめんね」
「まあ、俺は総統だからね!少しくらいで痺れたりなんかしないよ!イテテ……」

王馬くんが痛そうに顔を顰めたけど、何をしていいかわからず、私はおろおろと彼の顔を覗き込んだ。

「え、大丈夫!?ほんとにごめんなさい……」

とその途端彼はにぱっと笑い、「まあ嘘なんだけどね!」と言った。

「総統たる俺がそんな弱い体してる訳ないじゃん!!」
「う、嘘なの?良かったようなそうでないような……」

あれ、王馬くんってこんな性格なんだ……?と内心首を傾げるも、このままじゃ埒が明かない、と私は無理やり話を変えてしまうことにした。

「もう……。ここは王馬くんも知らないところなの?」
「まあ、ね」

彼は立ち上がり、そのまま私に手を差し伸べてくれたので、有難く借りることにする。

「ありがとう」
「どーいたしまして!」

意外と男の子らしい手なんだなあ、だなんてぼんやりと思いながらスカートを軽く払い、足元に落ちていた本の形をした鞄を拾う。メルヘン作家に相応しい、と言って、私はこの鞄をとても気に入っていた。

「ところで王馬くん、これからどうするの?」

ふと、疑問に思ったことを王馬くんに尋ねると、彼はうーん、と口元に手を当てて考える素振りをしてみせた。

「俺ら以外に人がいるのか探しに行ってもいいと思うけどね」
「じゃあ行ってみる?」
「そうしよっか」

なら、と私がドアに近づくと、ドアが勝手に開き、思わず空いてしまった手を引っ込める。

「ここにも人がいたんですね!」
「あ?やったじゃねえかキーボ!」

白髪に黒い装甲のような服をきた男の子に、背の高くて美人な女の子。
彼らも2人組で行動していたらしい。
取り敢えず中へ行くよう手招きすると、2人はキョロキョロと教室を見回しながら中へ入ってきた。

「やっほー!」

それに楽しそうに手を上げて挨拶する王馬くん。私も、取り敢えずこんにちは、とだけ言って、彼らを追いかけた。

「ここも他の教室とは変わりなさそうだな」
「そのようです」

と2人が言った後、王馬くんの提案によって、私達は簡単な自己紹介をすることになった。

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