海原祭



 名前の知らない鳥の鳴き声と部屋に差し込む日射しに、だんだんと脳が起きていく感覚がした。うーん、伸びをしようと腕を動かせばガサッという音が自分とベッドの間から聞こえる。

 
「あー、ついに今日か」


 その紙を手に取ると霞んだ思考でも理解できた。しわくちゃになった譜面のしわを伸ばしながら、あくびを一つこぼす。


  海原祭 当日である。






「よーっす!恵那!」


 開場30分前。自身のクラス模擬店の最終確認を行っていれば、廊下の向こう側から声がかかった。チラシにおとしていた視線をそちらに向ければ、予想通りの人物が手を振りながらこちらに歩いてきていた。


「おはよう、丸井」
「おう。そっちは順調?」
「まぁね、今中で最終調整してる。私はチラシの確認」
「ぅお、チラシから力入ってんな…ちょっと中覗いちゃだめ?」
「ダメダメ、入りたいなら客として入って。ついでに投票してってね」
「さり気無く営業かよ…恵那はやんねーの?オバケ役」
「私は午前の受付だけ。午後は演劇とフォトコンにステージあるから断った」


 そう言うと、今年忙しくね?と少し哀れみの視線を向けられた。こちらとしては部活柄か動いていた方が性に合ってるし、あまり気にしてはないけれど。
私のクラスはお化け屋敷という文化祭定番の出し物で、シフトが通常より削りやすく助かっている。あまり来れない変わりに、チラシ配りと宣伝はしっかり頼まれているが。


「丸井たちのクラスは何やるんだっけ」
「タピオカ!外で出店してる」
「すごいイマドキ…それ丸井の案でしょ」
「やっぱわかる?」


 ジャッカルにも同じこと言われた、と思い出したように笑う丸井。ちなみに仁王はタピオカを茹でる係らしい。なにそれ、面白い。ちょっと覗きに行きたい気分になった。しかし生タピオカを使うなんて意外と本格的なのは、発案者が丸井だからなのだろうか。


「で?何か用があったんじゃないの?」
「いや、暇だし折角だから皆のクラス回ってんの。午前は料理大会に時間持ってかれっしな」
「ああ、今年も出るのね」
「あったりまえよ!しっかり今年も優勝してくっから楽しみにしてろよぃ」


 気合十分な前回大会優勝者に、頑張れ頑張れとエールを送る。作ったお菓子の横流しを頼むのも忘れずに。


「それじゃ、そろそろクラス戻るわ」
「あ、うん。私で最後だったわけね」
「まあな、恵那のクラスが一番離れてっし」
「そうね。じゃ頑張って、仁王の監視」
「そこかよ…まぁ違いないけどな。お前もステージ頑張れよ、楽しみにしてっから」


 じゃあまた後でな!そう言って自分のクラスへ戻っていく。のかと思いきや、「時間あったら真田たちのクラス行けよ!面白いもん、見れんだろい」とニヤニヤした顔で告げ、今度こそ帰っていった。


「真田たちのクラス…A組か」


 はて。何をやると言っていたっけ。パンフは…鞄の中だ。

 あ、委員長!ちょうど良いところに!3-Aって何やるか知ってる? うん、知らない。えだって興味ないし…まぁまぁ教えてよ。
え、執事喫茶?それ本当???

…うん、大丈夫。ありがとね委員長。


「………これはなんとしても幸村を誘って顔出さないと」


 月光ちゃんが来れないから、いつもと変わらない文化祭になるかと思っていたけど。そうでもないらしい。


 さしあたってまずは、予定を組み直すところから始めようかな。






 海原祭 開催



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le fer Clair de lune