「シノン!! しっかりしろっ!!」
必死にシノンに呼び掛ける優一郎。
《ヨハネの四騎士》を駆逐していたのだが、その最中にシノンが攻撃のタイミングを外してしまい、隙を突かれ飛ばされてしまった。
それに気付いた優一郎が真っ先に向かい、抱きかかえた時には…彼女の後頭部には、かなりの量の血が流れていた。
「っ、う……」
まだ意識があるらしく、弱々しく袖を握る。
「シノア! 皆! シノンがっ……!!」
優一郎は、シノア隊の面々にも呼びかける。
その後シノンは新宿病院に搬送され、緊急手術を受ける事になった。
手術中、感情をあまり出さない真音は泣き崩れながら与一に寄り掛かり、シノアは涙を堪えるように震えている。
優一郎も、ただひたすら手術の成功を祈る。
それから1時間経ち、無事に手術が終わり容態も安泰している事が分かり、皆安堵する。
が…1日経っても、彼女の意識がまだ戻らない。
その時、医師からこう告げられた。
「脳の損傷が相当大きかったからね。少なくとも1週間は待たなくちゃいけなくなると思うよ」
「1週間……」
「それから…」と続けて告げられたその言葉に、全員驚愕する。
「軽い記憶障害が起こる事も、想定しておいてね」
誰もかれも、それは信じ難い事であった。
同時に、そんな事態を招いてしまった事を酷く後悔する。
中でも、優一郎は……
「っ、何でだよ…。何で、アイツだけっ!!!」
「優さん! 落ち着いてくださいっ!!」
「落ち着けるかよっ!! あの時、俺が早くアイツのとこに行けばっ……!」
やるせない思いが徐々に募り、膝を地面に付け涙を流す。
それ以降、優一郎達は日ごとに交代でシノンの見舞いに行き、彼女が目を覚ますのを待った。
すると、優一郎が見舞いに来た日に……
「シノン、今日与一がな…」
いつもと変わらず、今日あった出来事を話す。
だが、笑顔を見せるどころか起きる事すらない。
「…早く、お前の笑顔が見たいよ……」
そう呟きながら彼女の手を取った。その時、
「……っ」
「! 今、手が…!?」
握り返された事に驚いた優一郎は、素早くナースコールを押した後与一に連絡をし、シノア達に来るよう伝える。
すると、連絡を終えてすぐの事だった。
「……う、んっ…」
「シノン! 起きたのかっ…!!」
1週間ぶりに意識を取り戻した彼女に、良かったという想いから前のめりで話しかける。
が…次の瞬間、衝撃的な事を言われる。
「…だ、れ……?」
「っ……!?」
医師が言っていた事は、本当だった。
「嘘、だろ…? 俺の事、覚えてないのか……?」
「……」
彼女は困惑した表情を浮かべながら首を縦に振る。
「っ、じゃあ…シノアは?」
「シノア姉様の、知り合い…なの、ですか……?」
次々とシノア隊全員や知人の名前を出していくと、どうやら覚えているのはシノア・三葉・知人といった幼い頃から一緒にいた面々だけみたいだ。
「真音の事まで覚えてねぇなんて…」
段々と訳が分からなくなり、手で口を覆う。
彼女は本当に…記憶喪失になっている。
「あ、の…。大丈夫、ですか………?」
「…ああ。大丈夫、だよっ……」
少ししてシノア達もようやく訪れ、それぞれシノンの現状に絶句した。
「シノノン、僕の事…。覚えて、なかったっ……」
「真音ちゃん…」
与一はとめどなく涙を零す真音をそっと抱き寄せる。
「しかし、マズイな……」
「ええ…。しばらく、シノンは前線に出られないですね」
「どういう事なんだよ?」
君月の問い掛けにシノアは表情を曇らせながら答える。
「…さっき少しだけ話をしたのですが。シノンが覚えてる記憶は恐らく世界が崩壊する以前まで。つまり、《鬼呪装備》の出し方すらも覚えていないみたいなんです」
『!?』
「戻る見込みが無いと判断されたら、あの子は…もう二度と、私達と共に戦えなくなります」
「そんな、どうして……」
「医師はなるべく記憶療法力を入れると言っていましたが、私達も出来る範囲であの子の記憶を取り戻す協力をしましょう」
全員肯定の頷きをしたが、優一郎だけはまだ気持ちの整理が付かずにいた。
「優、そんな顔をしても何も始まらないぞ」
「お前も、ちゃんと双子妹の記憶を取り戻す協力しろよ」
「…分かってるよ、んなの……」
分かっているはずだが、このままシノンの記憶が戻らなかったら。
この先ずっと自分の事を思い出せずにいたら……。
そう考えると、無意識に怖じ気づいてしまう。
「っ、シノン………」
小刻みに震え上がる左の拳をより強く握り締めた……。
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