言わなきゃ良かった▽夢主、カルマ共に中2設定
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「私、貴方の事、嫌い」
夕暮れ時の椚ヶ丘中学校本校舎屋上。
2人の少年少女が互いに向かい合う中、少女は唐突に赤髪の少年に向かってそう切り出した。
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少女―もといみょうじなまえは潮田渚の幼馴染である。
中学校生活も2年目に突入したものの同じクラスになった事は無く、それでも渚とは幼い頃からの仲であったので、未だに連絡を取り合ったり校舎で見掛けると挨拶がてらにちょっとした会話をしたりはしていた。
なまえが初めて赤羽業に出会ったのも、渚と学校で話していた時である。
「それでね、なまえ……」
「よー、渚君」
「カ、カルマ君!?停学明けたんだ?」
「んー、まぁね」
渚と話していた時に突如として目の前に現れた彼に、なまえは思わず眉を顰める。
カルマもなまえに気が付いたようで、「渚君、その子誰?」と尋ねていた。
「この子は僕の幼馴染のみょうじなまえ。クラスは違うけど、昔からの友達だよ」
「へぇ……俺は赤羽業。宜しくね、みょうじさん」
「……宜しく」
赤羽業。
クラスは違えど、その名はなまえも聞いた事があった。
成績は優秀な割に素行不良で頻繁に停学になっている、渚のクラスメイト。
こうして顔を合わせるのは勿論、口を聞いた事も初めてではあったが、渚と楽しそうに話す彼を見て、なまえが思った事は唯1つ。
(……私、この人の事、苦手)
だが、渚はどうやらカルマとは程々に仲が良いようだったので、なまえは渚にその事を伝えはしなかった。
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「みょうじさん」
その日は唐突に訪れた。
時は放課後。
ホームルームが終わった直後、彼はなまえの教室に突如として現れた。
「……どうしたの、赤羽君。
渚なら今日はもう帰っ―」
「違うよ。俺はみょうじさんに用があって来たんだ」
「来て」と言った彼は、なまえの返事を聞かない内に彼女の手を掴んで歩き出す。
なまえは戸惑いながらも、咄嗟に自分の鞄を掴んでカルマに着いて行った。
「此処でいーや」
辿り着いたのは屋上である。
進学校である椚ヶ丘中学校の生徒達は、普通の公共中学校の生徒達のように放課後に遊びに出掛けたり教室や屋上で取り留めのない話をして盛り上がったりする事はない。
教室や図書館に居たとしても、そういった生徒は大抵勉強に時間を費やしている。
その為、放課後の屋上には人っ子1人おらず閑散としていた。
「それで、話って何」
「話?特に無いよ、そんなの」
「はぁ?」
「だって俺、みょうじさんと話してみたかっただけだし」
そう言ってヘラッと笑うカルマ。
なまえはそんな彼の様子を見てフツフツと怒りが沸いてくるのを感じた。
「……帰る」
クルリと後ろを向いた所で、「待ってよ」と声が掛かり、再び手首を掴まれる。
「だから何―」
振り返ってそう言い掛けた所でなまえは固まった。
と言うのも、カルマの顔が予想以上に近くにあったのに吃驚したからである。
「……顔、近い。どいて」
「やだね。だってこうでもしないとみょうじさん逃げるじゃん」
「逃げないから。どいて」
掴まれた手を振り払うと、案外すんなりとカルマの手は離れていった。
それを少し意外に思いながらも、なまえは次の言葉を紡ぎ出す。
「私、貴方の事、嫌い」
カルマの目が大きく見開かれた。
「前々から赤羽君の噂は聞いてた。でも噂だけで人を判断しちゃダメだって、ちゃんと会って、話してみてから判断しようって、ずっと自分に言い聞かせてた。
だけど、実際赤羽君に会ってみて思った。赤羽君の事は好きになれない。
人の事見下してる感じだし、飄々としてて何考えてるか解らない。
渚は良い人だから、赤羽君に心を開いてるのかもしれないけど、私は渚みたいに善人じゃないから。
赤羽君は、確かに頭は良いのかもしれないけど、だからって素行不良が許される訳じゃないと思う。
担任の先生には気に入られてるみたいだけど……赤羽君は、いつか絶対痛い目見ると思う」
気が付いたら、なまえは思いの丈を全て口に出してしまっていた。
流石にまずいと思って恐る恐るカルマを見つめると、案の定彼は無表情になっていて。
段々と距離を詰めてくるカルマに焦りを感じて、なまえは少しずつ後退していった。
だが、彼女の背中はフェンスに呆気なく絡め取られてしまって。
ガシャンという音と共に、赤羽業は自分の両腕の中に少女を閉じ込めるような形でフェンスを掴んだ。
そして、先程の無表情とは打って変わってニヤリと妖しい笑みを浮かべる。
「……ねぇ、知ってる?
俺ってさ、あからさまに避けられると、俄然ソイツに近付いてやりたくなるタイプなんだよね」
「! なに、それ……」
「俺の趣味が嫌がらせと悪戯だって、渚君からは聞いてなかった?
だからさー……俺、今みょうじさんにすげー興味沸いちゃった」
責任取ってくれる?と首を傾げて、赤い髪の悪魔は笑う。
「……責任なんて、そんなの知らない。でも私は、何があっても赤羽君の事嫌いだから」
「いーよそれで。嫌がるアンタに最高の嫌がらせ……それって最高に面白い事だと思わない?」
「悪趣味。やれるモンならやってみれば?」
軽く挑発したつもりだった。
だが、カルマはなまえがそう言った途端に歪んだ笑みを満面に浮かべる。
これはマズいとなまえの脳内で警報がなった時には、もう既に後の祭り状態で。
「……へぇ、言ったね。じゃあ、遠慮なく」
そう告げた赤羽業を見て、なまえはつい数秒前の自分の発言を激しく後悔した。
(あんな事言わなきゃ良かった)
なまえは心の中でそう愚痴りながら、段々と顔を近付けてくるカルマをぼんやりと眺めていたが、観念したかのように目を閉じた。
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(暗殺教室企画『
感化する赤い声』提出作品)