短編
Strawberry time

※カルマ、夢主共に2年生


私には好きな人がいる。
赤羽業君。
今年からクラスメイトになった男の子だ。

彼はすっごく頭が良いのに、素行不良でよく暴力沙汰を起こすから、女の子の大半からは怖がられている。
私も当初はカルマ君が怖かった。
何でそんな柄の悪い子と同じクラスになっちゃったんだろうって、ちょっとだけ神様を恨んだ。

でも、それは間違ってたんだ。
だって私は、カルマ君が悪い人じゃないって、知ってしまったから。





ある春の日の帰り道、私は偶々柄の悪そうな男達に絡まれて困り果てていた。
そんな時に助けてくれたのがカルマ君だ。


「だいじょーぶ?みょうじさん」


カルマ君は男達を倒した後、私にそう尋ねた。


「あ、うん。ありがとう。
……カルマ君、私の名前、知ってるの?」

「? 知ってるよ。みょうじなまえさん、でしょ?」

「……うん。でも、どうして?」

「どうしてってそりゃ……クラスメイトなんだから知ってて当たり前じゃない?」

「!」


正直、びっくりした。
あまり学校に来ないあのカルマ君が、クラスメイトの名前を知っていただなんて。
そして、噂だけで偏見を持っていた自分が恥ずかしくなった。


「カルマ君って、実は良い人だったんだね」

「!」


私がこの時発した言葉に、カルマ君が珍しく目をまんまるに見開いて驚いていたものだから、私は思わず笑ってしまった。





あの一件以来、私は時々カルマ君が登校すると、彼に話し掛けるのが習慣になっていた。
カルマ君はいつも変な味のオレを飲んでいて、好きな映画監督がいたりと、意外と文化方面でも詳しいところがある。

彼に話し掛ける私を見て、友達はアイツと関わるのはやめた方が良いと忠告してくれたけど、私はカルマ君は悪い人じゃないよと言ってそれを振り切っていた。





7月に入り、本格的に夏が始まった。
昼休み後から学校に登校したカルマ君は、夏なのに相変わらず黒のカーディガンを身に纏っていて、とても暑そうだった。
何で夏でもあんなの着てるんだろう。
とは言え、流石に春よりは素材も薄手だし、袖も短めみたいだけど。


「日直は日誌を書いておけよ。
それと赤羽、ホームルームが終わったら職員室に来い。以上!」


大野先生の一声でホームルームが終わった。

あ、日直って私じゃん。
面倒だなあ……

私は溜息をつくと、教卓から日誌を引っ張り出して自分の席に座った。


「じゃーね、なまえ」

「あ、うん。ばいばーい」


クラスメイトが次々と出て行き、日誌を書き終わる頃には教室には私しかいなくなっていた。


「よしっ」


後はこれを職員室の大野先生の机の上に置いておけば終了だ。
そう思って立ち上がった時だった。


「……あれ?」


カルマ君の椅子に、黒いカーディガンが掛けてある。

これって、カルマ君のだよね?
暑くて脱いだのかな?

私は日誌を自分の机に置いてからカルマ君の席に向かい、まじまじとカーディガンを見つめた。

やっぱり私、カルマ君が好きだなあ。
カルマ君にその気がなくても、今だけは、せめて心の中だけでは、カルマ君の事を好きでいさせて下さい。

きっと彼はまだ大野先生と話している最中だろう。
私はほんの出来心で、彼のカーディガンに恐る恐る手を通した。

あ、カルマ君の匂いがする。
それに、すっごいぶっかぶか。

胸の奥がキュッとした。
やっぱり好きだなあ。

そして、カーディガンを脱ごうとした時だった。

ガラガラガラッ。

その音と共に、扉の向こうから顔を覗かせたのは、私が恋をしている人物で。
珍しくYシャツ1枚のカルマ君は、襟をかなりはだけさせ、裾もほぼズボンから飛び出ている。
彼は私の姿を目に捉えた途端、あの一件の時みたいに目をまんまるに見開いた。


「ぁ……私……ちがッ……ごめ……」


どうしよう。
嫌われる。引かれる。

私が狼狽えている間に、カルマ君は私の方に歩み寄っていた。


「何、してんの?」


いつもより棘のある言い方に、私はビクリと肩が震える。

どうしよう。
でも、私はもうどうせカルマ君に嫌われただろうし、いっそのこと自分の気持ちを素直に言っちゃった方が良いのかな……


「答えてよ。どうしてみょうじさんが、俺のカーディガンを着てるのか」

「……」

「みょうじさん」


私は、ギュッと拳を固めた。


「……き、なの」

「は?」

「私、カルマ君が、好きなのっ……」

「!」


カルマ君が、再び目を見開いた。


「好きなの……。ただ、カルマ君が好きなのっ……。
ごめんなさい、私なんかが、カルマ君を好きになって、ごめんなさい……」


思わず熱いものがこみ上げて来て、私は必死に手で覆って顔を隠す。
私、泣ける立場じゃないのに。
こんなに狡くて格好悪い自分が、本当に嫌になる。

パシッ。

その時、力強い手が、私の両手を掴んだ。


「!?や、やだっ、見ないで……」


カルマ君はそれを無視して、私の手を自分の方にグイッと引き寄せる。

気がついたら、私はカルマ君の腕の中にいた。


「……カルマ君?」

「……」

「苦しいよ……」


私の言葉にハッとしたのか、カルマ君は少し腕の力を緩めてくれた。


「……みょうじさん、1回だけしか言わないから、聞いて」

「……うん」


“大好きだよ”


その言葉に、私は再び目頭が熱くなった。
ドキドキして、胸の奥がキューッとして、愛しくて、切なくて、でも嬉しくなった。

カルマ君、大好き。

私は彼の返事に答えるかのように、ギュッとカルマ君を抱きしめ返した。

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