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Opening
「ねえ、ユナン。
私は何の為に生まれてきたの?」
暗黒大陸の大峡谷の、深い深い谷底。
その外れにある小さな小屋で、小さな少女はそう尋ねた。
少女はまだ、何も知らない。
両親の顔も名前も、
この小さな小屋の外の世界の事も、
己の存在がこれから世界を導く事になるというのも。
少女はまだ、何も知らない。
「君はね、ユール。
君は、世界を変える為に、生まれて来たんだよ」
「世界を……変える?」
「そう。君の存在に救われる人々が、世の中には沢山いるんだ。
でもね、ユール。
君のその力を、良からぬ事に利用しようとする人々も、これから沢山現れるだろう。
だけど、君はそんな人達に力を貸してはいけないよ。
自分を信じて、君自身が、王の器を選ぶんだ」
「私の……力?それって、何?それは、ユナンにもあるの?」
「……今はまだ、詳しく教えてあげる事は出来ない。でも、その力は、僕が持っている物もあれば、君にしかない能力もある。だからこそ、君は特別なんだよ」
「特別……」
「そう。特別。
―時が来たら、君に教えてあげるよ」
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それから何年か時は巡り、少女は可憐に成長した。
少女はあの小屋の外へは、1歩たりとて出た事がなかった。
『時が来るまでは、此処から出ない事』
青年と、そう約束していたからだ。
でも、少女はそれで良かった。
少女は自身の生活に不自由を感じた事はなかったのだ。
青年は自分を大切にしてくれた。
そして、沢山の知識や魔法を教えてくれた。
それが、少女にとっての幸せだったのだ。
そして、そんな幸せな毎日が、この先もずっと続くだろうと思っていた。
この先も、ずっとずっと。
16歳の誕生日を迎えた日。
その日から、彼女を取り巻く世界は一変し、物語はそこから始まるのだが―
少女はまだ、何も知らない。
そう、何も。