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5.
ユールは少しの間外に出るのを躊躇っていたが、ユナンの事を考えると、出ないわけにはいかないと悟った。
彼は自分の幸せを思ってあの提案をしてくれたのだ。散々お世話になった彼に、これ以上自らの我儘を貫き通す訳にはいかない。
彼女は必要最低限の荷物を鞄に詰め込むと、魔法の絨毯を手にとった。
「絨毯の乗り方は大丈夫かい、ユール」
「うん。初めてだから不安はあるけど……そんなに難しくもないんでしょう?」
「そうだね。落ちないように注意する事ぐらいだから」
「そっか。
じゃあ……私、そろそろ行くね」
ユールはそう言うと、恐る恐る扉の取っ手に手を伸ばす。
だが、取っ手に触れるギリギリの所で、彼女はユナンの方へ振り返った。
「ユナン、今迄私を育ててくれて、本当にありがとう。
私は両親の事を知らないけど……それでも、貴方に逢えて良かった。
また逢おうね。
それまで……元気でね」
ユナンは少女の言葉に、陽だまりのように暖かい笑顔を浮かべながら頷いた。
そこには、彼女に対する家族愛のようなものが、確かに存在していた。
そして少女は扉をゆっくりと開けた。
目の前に広がるのは一面の闇。
朝か夜かも解らない。
だが、そもそもずっと小屋に篭っていた彼女には、朝も夜も関係ないのかもしれない。
そして彼女は、ゆったりとした足取りで、外の世界へと踏み出した。
初めて感じる、土の感触。
身を踊らせたくなったが、興奮する気持ちを無理矢理抑え込んで、彼女は絨毯に乗った。
「ああ、1つ言い忘れていたよ。始めに何処かの国に向かいたいのなら、シンドリアを目指すと良い」
「うん、解った。ありがとう」
ユールはそう答えた瞬間、高く空に舞い上がった。
「行って来ます!」
それは、彼女がユナンに告げる、初めての挨拶。
ユールはだんだんと上空を目指しながらも、ユナンが見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
この先に広がる未来に、確かな希望があると信じて。